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第117回:K君の死と、これからへの「不安」(梶井基次郎:『Kの昇天』)

こんにちは、あみのです。
今回の本は、梶井基次郎の『Kの昇天』です。私は立東舎の「乙女の本棚」シリーズのものを読みました。このシリーズの本は久しぶりですね。

まず『Kの昇天』はタイトルだけ知っていた感じです。
大学生の時、文学の授業で『檸檬』を取り上げた回にて先生がこの作品を少し紹介していたことを覚えています。『檸檬』とは違って不思議な世界観の作品だと先生は話していて、いつか読んでみたいと思っていました。

イラストを担当しているしらこさんの絵も、既刊にはなかったような雰囲気で、このシリーズの読者の幅がもっと広がりそうだなと思いました。K君の気持ちが見事に描かれたイラストたちも内容同様に凄くおすすめしたい1冊です。

作品紹介

影と『ドッペルゲンゲル』。私はこの二つに、月夜になれば憑かれるんですよ。
満月の夜、療養で訪れた土地の砂浜で私はK君と出会った。

Amazonより

感想

梶井基次郎は『檸檬』(このシリーズのラインナップにも入っていますね)が圧倒的に有名ですが、今作は『檸檬』とはまた違った「病」や「死」への不安を感じることができました。

(そもそも梶井基次郎は病気で早く亡くなっているので、自分自身の気持ちも作品に込められているのだと思います

「K君」はなぜ溺死したのか?謎に包まれた彼の死因を語り手の回想から紐解いていく。物語の重要なモチーフである「月」の妖しい描写とミステリー風味な構成に魅了された物語でした。

***

満月の夜、砂浜でK君と出会った主人公。自身の病のことや月に対する異常な執着を話すK君との奇妙な出会いを機に主人公は、頻繁に彼と会うようになります。K君の悪化していく病と月への執着が、K君の死因を推理する鍵にもなっていきます。
生と死のはざまをゆらゆらしているK君は、「消えそうな炎」のような人物のように見えました。

作中では、「月」と同じくらい「影」と「ドッペルゲンゲル」という言葉も印象的に使われていました。
これらの言葉は、K君の病に対する苦しみや今後の不安を背負った「弱い」自分そのものを表しているのではないかと私は思いました。

月への昇天。それはきっとK君にとって、今の苦しみと自分の弱さから解放されたいことを意味していたと思います。「死」によって生きる苦しみから解放されたK君は、今頃「月世界」で何を想っているのでしょうか。

ひとりの人間の死が描かれていたというのもあってか、悲しい気持ちと儚さで心の中がいっぱいになってしまう物語でした。『檸檬』も近いうちに再読して、梶井基次郎が作品に込めた思いを改めて自分なりに紐解いてみたいですね。


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