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第140回:「日常を変える」ために大切なこと(いぬじゅん:いつかの冬、終わらない君へ)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、いぬじゅんさんのライト文芸作品『いつかの冬、終わらない君へ』(ポプラ文庫ピュアフル)です。この作家さんの作品、本当に読むだけで落ち着きます。

今作は「冬」シリーズの4作目となります。シリーズといっても既刊とは違う主人公・ストーリーとなっているので、今作だけでも問題なく楽しめると思います!

あらすじ

出版社で働く柚希ゆずきは、人に対して自己主張ができない性格。小説の編集者になりたくて出版社に入ったが、入社以来求人誌の編集部で働いている。柚希には小説家を目指していた高校時代からの親友・彩羽いろはがいたが、二年前に亡くなっていた。柚希はその死の原因が自分にあると思い込んでいた。絶望的な状況の柚希の前に、ある日赤いパーカーを着た青年が現れる。青年は柚希に「僕の名前を呼んで」と語りかける‥‥‥。衝撃の展開に目が離せなくなる、珠玉の純愛ストーリー。

カバーより

感想

主人公の柚希には、自己肯定感が低いところがあります。仕事が上手くいかないこと、家族に正直な気持ちが言えないこと、そして今でも彩羽が亡くなったのは自分のせいだと攻め続けていること。柚希は様々な悩みを抱えていて、前に進めない状態が続いていました。

職場でも家でも苦しい日常が続く柚希ですが、かつての同僚だった高林君との再会と突如小説投稿サイトにアップされた彩羽の新作小説を発見したことによって、柚希は辛い現実への捉え方を少しずつ変えていきます。

中でも高林君の存在は、辛いことが続く柚希にとって大きな支えとなっていたのではないのでしょうか。また彩羽の小説では、柚希との思い出をモチーフにした物語の中に、彩羽なりの柚希に対する「感謝」と「愛」が描かれていました。

「誰かを傷つけている」と思い込んでいるのは自分だけの可能性が高い。仕事仲間、家族、親友の「本当の気持ち」を知ることによって、前向きな自分を手に入れていく柚希の成長に惹かれる物語でした。

***

今作で特に私が印象に残ったのは、柚希と家族の関係を描いた箇所です。
物語の途中まで柚希の家族は現実から逃げていたり、彼女に理想を押し付けてきたりと柚希にとって「敵」のような存在という印象でした。

柚希の母は娘に早く結婚してほしいと願っていて、勝手に結婚の話を進める母に柚希は毎日疲れていました。でも母に正直な気持ちを伝えられたこと、家族の意外な秘密を知ったことで柚希は母との関係を取り戻すことができました。「赤いパーカーを着た青年」の話がここでつながったのも驚きでしたね。

 嫌われていると思い込んで距離を取っていたのは私だ。とめどない後悔が涙になり、それ以上言葉が続けられない。
 泣きじゃくる私を母が抱いてくれた。泣いている母を私は抱いた。互いの腕を絡ませながら、やっと私たちは本当の親子になれた気がした。

p239-240

母が柚希の気持ちを知らずに勝手に結婚の話を進めてしまったのには、自分自身の結婚が遅かったことで、子どもたちに苦しい思いをさせてしまったという「後悔」が背景にありました。
きっと柚希がこのタイミングで正直な気持ちを伝えることができなかったら、母の過去を知ることもなかったと思います。

人間関係を少しでも変えたいのであれば、まずは自分から動かなければならないことを実感したシーンでした。自分から動くことで初めて知る相手の気持ちだってたくさんあると思うし。私も正直な気持ちを伝えることって凄く苦手なので、勇気を出して言える自分になりたいです。

***

読むと勇気がもらえるだけでなく、程よいミステリー要素にもわくわくした今作。個人的にはここ最近のいぬじゅんさんの作品の中でもかなり好きな内容でした。「家族」との絆を描いた箇所もあり、「冬」シリーズ1作目である『この冬、いなくなる君へ』を彷彿とさせるストーリー展開だったのも嬉しかったです。

ポプラ社のこのシリーズは、綺麗なカバーイラストと共に毎年楽しみにしています。5作目は発売されるのか今のところは謎ですが、出るのであれば次はどのような「冬」の物語が展開されるのでしょうか?今から楽しみです。

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