見出し画像

【ショートストーリー】生まれたところに戻っていく

おばあちゃんはだんだんと記憶をなくしていく。
記憶は時間を逆戻りして、
だんだん赤ちゃんの時の記憶へと戻っていく。
それを知っているのは、
おばあちゃんの飼いネコだけ。

おばあちゃんはロッキングチェアに揺られながら
タータンチェックのひざ掛けをかけて、
うたた寝をしている。
となりでネコが、
どこからか飛んできた
黄色いちょうちょを追いかけて
手をちょいちょいと伸ばしている。

「おばあちゃん」
今日は孫娘がやってきた。
おばあちゃんはにこにこしている。
もしかして今日は記憶がつながった?

ネコがそう思っても、
おばあちゃんは平気でこんなことを言う。
「しおりちゃん?」
「えー違うよぉ、私、絵里だよ」
孫娘は間違えられても笑っている。
おばあちゃんが違う世界に住んでいること、
理解してるんだ。

それでも普通に話してる。
「今日学校でね、翔太君と隣の席になったの!」
「そうかい、よかったねぇ。翔太君って誰だい」
「もう! 私の好きな男の子だよぉ!」
孫娘は忘れられても笑っている。
何度も同じことを話す。
それでいいんだ。
だっておばあちゃんは、
赤ちゃんに戻っていくんだもの。

おばあちゃんが何でも忘れちゃうこと、
みんな知っている。
でも赤ちゃんに戻って行くのを知っているのは、
飼いネコだけ。

おばあちゃんは今、多分、
少女の頃の記憶を生きている。
仲よしのしおりちゃんと、
田んぼで裸足になって遊んでいた頃。

自分に子どもがいることも、
孫がいることも、もう忘れてる。
自分が孫くらいの年齢だもの、しょうがない。
そして赤ちゃんに戻ったら、
おばあちゃんの一生も終わる。
人は生まれたところに戻っていくんだ。
だから大丈夫。

孫娘が帰った後、
飼いネコはおばあちゃんの膝で眠った。
秋の暖かい日差しの中で。
おばあちゃんの中の少女と一緒に。

©2023 alice hanasaki

ショートストーリーのマガジンはコチラ ↑  

最後までお読みくださり,ありがとうございます!
他のショートストーリーも読んでいただければ,
もっともっと喜びます😆

応援していただけたら嬉しいです😊 よろしくお願いします❣️