【ショートストーリー】遠まわり
いつも遠くのものを思って生きている自分は,
目の前のものに決して満足などできずにいる。
初めての恋人ができて楽しいはずの時期も,
この人は私の運命の人ではないと思っていた。
初めて就いた塾講師の仕事だって,
私の天職とは思えずにいた。
私の生きる道はきっと別にあるはずだと,
飛び出したロンドンの街。
けれど私はずっと祖国を思い,暮らしていた。
温かい家族も祖国に残して,
たった一人で現実逃避の旅を続ける。
何かを探すため,という名目のもとに…。
初めての一人暮らしが外国の地。
ロンドンに着いて3日目で,38度の熱が出た。
ふらふらしながら
慣れない英語でクリニックに行く。
このまま死ぬんじゃないかとさえ思った。
街の美しさに心躍ることもあったけれど,
テムズ川沿いに出かけて行っては,
毎日川の流れを見ながら泣いた。
空をまっすぐ進んでいく
白い飛行機を目で追っては,
自分もそれに乗って帰りたいと本当は思っていた。
誰にもその心を明かすことはなく…。
遥か日本の家族と友達に,毎日メールを送った。
自分の心をごまかすために,
毎日毎日,狂ったように送った。
母国語ではない言葉で心を伝えることの難しさ。
だけど同時に
その楽しさを実感できるようになると,
私は笑うことを取り戻した。
青い目や緑の目の友達がたくさんできて,
ふとしたひとり言も英語で出てきた。
それでも私は,ここから先はどうしても
この国には立ち入れないとわかると,自ら退いた。
心の中は再び孤独になった。
楽しいからといって満足することもできず,
いつも気がふれたように何かを追い求めていた。
遠い目をして…。
©2023 alice hanasaki
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