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【ショートストーリー】大きな夕日 (#虎吉の交流部屋プチ企画)

#虎吉の交流部屋プチ企画 「記憶に残る風景」にショートショートで参加します。

祖父が肺がんで入院していた頃、
私はまあまあ忙しい仕事をしていて、
週に2〜3回お見舞いに通っていた。

ある日、病室に行くと
ベッドがもぬけの殻だったので
廊下に探しに行くと、
突き当たりの大きな窓の前に
えんじ色のパジャマを着て、
杖をついたまま立って
外を見ている祖父が見えた。

窓の外では大きな大きな夕日が、
大きくひらけた広場に沈んでいくところだった。
私は夕日が静かに沈んで行くのを
ただひたすら眺めている祖父を見て、
何て声をかけていいかわからなかった。
なんとなく、見てはいけないものを
見てしまったような気持ちになった。

「…おじいちゃん」
私が後ろから遠慮気味に声をかけると、
祖父は、「ああ」と、
何事もなかったように向きを変え、
私と一緒に病室に向かって歩き出した。

あの大きな夕日を見ながら、
何を思っていたのだろう。
私は並んでゆっくり歩きながら思った。
昔は私よりだいぶ背が高かったはずの祖父だが、
横を歩くとそんなに違いがないように感じられた。

「何考えてたの?」
なんとなく、その一言を言い出せないまま
病室に着き、いつも通り他愛のない話をした。

私は帰り道、祖父が何を思っていたか考えた。
がんであることを高齢の祖父には伏せていたが、
多分、自分はもう長くないことを悟って、
今までの人生や、残された日々のことを
考えていたのではないだろうか。
東京で見るには大き過ぎるあの夕日に、
少年時代に田舎で見た夕日を重ねて、
昔のことを思い出していたのでは…?
もしくは自分の終わりゆく人生を、
沈みゆく夕日に重ねていたのかもしれない。
どうしても、そんな考えばかりが浮かんだ。

その後、数日して祖父の病状は悪化し、
2〜3週間後には帰らぬ人となった。
私はそれから、大きな夕日を見ると
祖父が見ていたあの風景を思い出す。
人生の終わりに差し掛かり、
杖にもたれるように前屈みで立ちながら、
沈むスピードを噛みしめるように、
夕日を一心不乱に眺めていた祖父と、その景色を。

私の考えすぎかもしれない。
もしかしたら
「今日の夕飯、何かなー」
くらいしか考えていなかったかもしれない。
でも私の中では大きな夕日と、
えんじ色のパジャマを着た祖父はセットになって、
記憶の中にしまわれている。

©2023 alice hanasaki

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