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灰汁詰めのナヴォー

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小説っぽいなにかがあります
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2018年10月の記事一覧

新人は映画見すぎてメンターの俺を困らせる

新人は映画見すぎてメンターの俺を困らせる

「おい待て、何をする気だ」

 ジッポを高く掲げて投げようとした新人に、俺はその手首を掴んて止めてやった。

「えっ、駄目なんすか?映画では皆こうやったんすけど……」

 昔の俺も同じことをやろうとして、兄貴に止められた。

『アホかおまえ!映画見すぎだ。ジッポはいくら掛かると思ってんだ?』

 ああ……兄貴の顔が目に浮かんだ。忘れねえぜ、兄貴。

「ジッポはなぁ、俺らヤクザの……男の象徴だ。軽率

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蛇魚の神

「ウナギを食うなーッ!」「自然に返してやれよ!」「ウナギを焼けーッ!」「最後まで食い尽くせ!」「伝統を守るんだ!」

 土用の丑の日、午後。大勢の人間がそれぞれの目的をもって日比谷公園の芝生広場に集まっている。ニホンウナギの最後の一匹が間もなく、琵琶湖の養殖場より自衛隊のヘリによって運搬される。このあとは夜文化庁で行う蛇魚ノカミ天に登レシの儀式で捌かれ、蒲焼にして首相と客として招かれた孤児たちが召

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かわいい我らが子孫

かわいい我らが子孫

『パワワワン!』足二本を無くした三脚自律兵器は銃弾を吐き出しながら倒れた。すかさず矢を二発撃ち込むと、機体からオイルが噴き出し、動かなくなった。

 矢をつかえながら近づき、機械が完全に死んだと確認し、一息ついて弓を下ろした。次の自律兵器が来るまであと二時間。僕は機械が守っていた遺産に進み、MALEと神代文字で書いた入口を潜った。これぐらい辞典がなくても解る。

「わっ」目の前に映る光景に、僕は思

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コーン・ウォー

コーン・ウォー

『チワワ州各地でコーン畑放火事件が発生しました。ブリトー派はこれが先日タコス派によるトルティーヤ工場の爆破に対する報復とTwitterで声明……』

「アホらしい!」店の主人はチャンネルを変え、テキーラを呷った。男の客はタマルに刺すフォークを止め、主人の方に顔向けた。

「コーンを何だと思ってんだ?折角ドラッグ・ウォーが終わったのに今度はコーン・ウォーときた!この国の人間は何らかの口実で暴れたいだ

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酒場「フライされたラクーン亭」にて

酒場「フライされたラクーン亭」にて

「あんた、ここはエルフ領と判っているか?」

 エルフが二人、テーブルに寄ってきた。フードの留め具に弓を提げる隼の紋章。弓王フィナッセの者か。

 他の客は見て見ぬふりすしている。まあそうなるわな。わしは内心嘆いて、酒に手を伸ばした。

「ワインだと?お前が飲みたいのはビールだろ?俺の体内で精製したのを飲ませてやるよ」

 エルフはジョッキを奪うと、そのままズボンを下ろし、粗末なモノを晒した。

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You're in the jungle baby

You're in the jungle baby

 206X年、石油が枯渇した。僅かな資源にしがみつき辛うじて生き延びた人類だが、分配制度の不正で誰もが余裕がなくなり、他人に配慮しなくなった。その中、弱肉強食論を諭し無意味に自分の力を誇示することから喜びを見出す者が現れた。

 今廊下に仁王立ちしている野郎がそうだ。

 彼は襲ってくる事なく、ただ弁慶みたいに道を塞ぎ、人を通させぬようにしているだけ。デカイ上に軍用のカーボン繊維アーマー着ている。

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敵は向こうからPOPしてくる

敵は向こうからPOPしてくる

 網膜に《2nd wave》が映った。
 
 もうかよ。魔法で乳房を引っ込ませ、アーマーを装着すると、戦艦の残骸を登って無限に広げる草原を眺めた。接近している物体は3つ。赤、黃、白。残像を残しながら凄まじい速度で走ってくる。まるで地上の彗星か、稲妻か。超速者(スピードスター)だ。
 
 距離はあと5キロ、3、1、今だ。
 
 パチッ!ズバッ!私が指を鳴らすと同時に半径500mのプラズマ・ドームが展

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That's not even cool

That's not even cool

「ジュン、これはどういうことだ?」

 有間が前の席に座り、マグボトルを僕の机に叩きつけた。

「昨日有間に頼まれたバターコーヒーだけど……」

「そっちじゃねえよ。何でお前のボトルに入ってるか聞いてんの!」

「それは……」目をそらすと、教室のドア付近に月階の姿を確認した。自分の席が占拠されたことに困っている顔も可愛い。これ以上彼女に迷惑をかけてはいけない。

「自分の容器持っていくと割引してく

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目を釘付けよ!

目覚めた私はまず自分がなぜ工房にいるかと戸惑ったが、すぐに脳がそれを思い出した。また徹夜で寝オチしたか。

水を求め、工房を出た途端香ばしい匂いが私を包んだ。テーブルには何枚も重なったパンケーキとサクサクのベーコン、フルーツサラダが並んでいる。誇り高きアメリカの伝統的朝食だ。私は思わずオレンジジュースに手を伸ばして飲み干した、旨い。

「おはよう、ハニー。仕事は順調か?」目玉焼きを乗せた皿を持った

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あるのは名誉だけ

「よぉおっさん、やるじゃないか」

 ベンチ中の私にギャップを被った若者が話しかけてきた。ラグビーやれそうな体格、顔もハンサム。きっとモテてるだろうなと思いながら私はシャフトを置き、起き上がった。

「なんでしょう?」「あれはアンタが?」

 若者は壁を顎で指した。私の写真が飾ってある。ジム内大会優勝の名誉の証だ。

「ええ、そうです」

「でも正直キツイだろ?関節が軋んで、筋肉痛が何日続くよな?

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