高橋明紀代

メディアハウスA&S代表取締役 日本ペンクラブ会員。中小企業の社史、創業者伝刊…

高橋明紀代

メディアハウスA&S代表取締役 日本ペンクラブ会員。中小企業の社史、創業者伝刊行、記事執筆を行う。中小企業経営者の気持ちを汲み取る取材は三十数年の経験がある。著書『勝ち組中小企業の鉄則』『町工場のIT革命』PHP研究所。 http://takahashi-akiyo.jp

最近の記事

なぜ中小企業向けコンサルティング会社が社史の仕事を紹介してくれるのか

周年事業の一環としての「公式」な社史 当社が制作を手がける社史はコンサルティング会社からご紹介頂くものも含め、大きく二つに分けられます。 ひとつは会社の周年事業の一環として制作する社史で、社内だけでなく広く取引先や金融機関などに配布され、多くの関係者が参加する記念式典で渡されることもあります。 制作の目的は、会社のPRやイメージ向上、関係先への感謝、社員の一体感の形成、教育や採用活動など広範囲に及びます。 制作にあたっては社員も加わったり、写真家に社員や事務所の撮影

    • 海外市場で勝ち抜く、創業60年の進化する会社と創業者の物語

      2014年、小物家電業界のリーダーであるT社から、創業50周年を記念誌の制作依頼を受けた。打ち合わせにうかがうと、すでに大手出版社の社史担当の事業部長とその部下が参加しており、コンペ形式であることを知らされた。帰路、この仕事は大手出版社に決まるだろうと思っていた。 しかし、意外なことに私の会社が選ばれたのだ。T社の担当者から選考理由を聞くことはできなかったが、私たちは柔軟に対応できると評価されたのかもしれない。 T社のK会長は83歳になられていて、自ら愛車を運転して出社さ

      • 困難な時代を生き抜く〜社史編纂から見た地域や産業の変化と中小企業(2)北関東編

        あなたが抱く100年続いた企業のイメージは 「100年続いた企業」というと、どのようなイメージが思い浮かぶだろうか。そろそろ老舗の範疇の入り口に入り、「この道ひと筋に100年」という印象を抱く方も少なくないであろう。 今回紹介するT社は、そうした印象とは180度異なって、社会や産業の変化を真正面から受け止め、繊維の加工→軍服の生地づくり→靴下製造→紳士服地→分譲住宅の建築販売→大手ハウスメーカーの代理店→注文健康住宅の建築販売と業種を変えて、100年を迎えた。 wind

        • コロナ禍で失われていく中小企業や地域の歴史

          中小企業の社史「わたしたちの物語」私が関わる中小企業の社史は、大企業や代々続く老舗の制作する社史とは、意味が大きく異なっています。 会社ができて年月が経ち成長するにつれて会社全体がひとつのプロジェクトのように動いた時代は遠くなって、組織単位で役割が与えられたり、活動の場所が複数の拠点で行われたりするようになり、一体感を持って、思いを共有化する単位が会社全体から組織単位へと移っていきます。 それとともに、創業者や創業者と一緒に働いた社員の方々が減っていき、創業期の行動・でき

        なぜ中小企業向けコンサルティング会社が社史の仕事を紹介してくれるのか

          「おんなは家庭」の時代に会社を支えた女性たち (その3)

          離れていても私たちならデュエットできる付き合った彼は地元と東京の二重生活の経営者 今から60年ほど前、1960年代に入ると日本は高度経済成長期を迎えた。 彼女は日本海側にある地元の大学の薬学部で学び、卒業後に薬剤師の資格を取得した。 当時つきあっていた相手は大学卒業後に入った会社を辞めて自分で製薬関係の商売を始めていた。 彼は最初は製品を仕入れて販売していたが、まもなく自宅の隣に工場を作って自ら生産に乗り出し、東京の営業所を販売の拠点にした。 彼は社長として、特に営業に

          「おんなは家庭」の時代に会社を支えた女性たち (その3)

          「中小企業の人材開発」に目をとおして

          「中小企業の人材開発」(中原淳 立教大学経営学部 教授・保田江美 国際医療福祉大学成田看護学部 准教授 著 東京大学出版会)にざっと目を通した。 中小企業を相手に仕事をしている者としてはとてもおもしろく思った。 おいおいしっかり読んでいこうと思っているが、いまの時点での感想を書いておく。 そういうわけで、この文章は参考文献に掲載された内容に対する個人的な感想である。 本書は日本の企業数の99.7%、従業員数の68.8%を占める中小企業の人材開発メカニズムを明らかにすることを

          「中小企業の人材開発」に目をとおして

          中小企業にとって社史が意味すること「わたしたちの物語」

          大企業や代々続く老舗が制作する社史と、私が携わる中小企業の社史・創業者伝は大きく異なっている。 私の経験から中小企業が制作する社史には次のような意味合いがあるのではと思う。 中小企業では会社の成長にともなって「横の分化」と「縦の分化」が発生する。 横の分化が進む 「横の分化」とは企業の成長による組織化にともなって起こる。 創業期は組織の枠に関係なく、会社全体がひとつのプロジェクトのように社員が動く。創業まもない時期にさまざまな危機にみまわれ、ときに存立もあやぶまれる状況

          中小企業にとって社史が意味すること「わたしたちの物語」

          社史の制作、第三のタイミング

          周年記念、経営者交代に続くタイミング 私が関わる中小企業の社史や創業者伝には発刊に共通のタイミングがある。 まずは周年記念事業のタイミング。創業30周年、50周年など記念事業の一環としての発刊だ。記念式典で配布することもある。 次いで経営者が代替わりするタイミング。経営者が交代するのを機会に、それまでの会社の歴史ををまとめておこうということだ。 退任する経営者が中心となって制作する場合もあれば、事業を継承した新社長が、先代の歴史を記録で残しておきたいという場合もある。

          社史の制作、第三のタイミング

          「おんなは家庭」の時代に会社を支えた女性たち (その2)

          「わが子のように気にかけて、わが子のように世話をした」〜陽子さんの場合「仕事の入門書やガイドブックなんてなかった」 「毎日、朝8時になると工場の機械にスイッチが入って動き始めます。機械をよけるように片隅に置かれた事務机に座って私の仕事が始まります」  陽子さん(仮称)は朝一番にかかってきた電話の受話器を取ると「おはようございます!Y社です。ご注文の製品は約束どおりにそちらへ9時前にはお届けできると思います。よろしくお願いします」と返事をし、納品書を書いて専用ボックスに入れ

          「おんなは家庭」の時代に会社を支えた女性たち (その2)

          「おんなは家庭」の時代に会社を支えた女性たち (その1)

          次の文章の最初の部分を読んで、この弟の役割に名前をつけるとしたら、あなたはどのような名前をつけるだろうか。 銀行の融資面談で 食品業界を主な得意先とする運送会社が創業から10年を迎えた頃のことだった。さらなる飛躍となるチャンスが舞い込んできた。得意先のうちの一社から今後の商圏拡大を見越し、新たな倉庫や営業拠点の増設を打診されたのだ。願ってもない話だが、ひとつ問題がある。 それをまかなう資金が大きく、金融機関から新たに借りる必要があった。金融機関からの借入の実績はこれまで

          「おんなは家庭」の時代に会社を支えた女性たち (その1)

          鎮魂の地、宮城県石巻での体験~東日本大震災の被害を越えて創業40周年を迎える企業の記念誌の編纂

          noteを書き続けていると、揺れた 2015年、私は2011年3月11日の東日本大震災(3.11)後、宮城県石巻市で創業40周年を迎える会社から記念誌を発行したいとの連絡を受け取った。   この時の体験を何日か前から noteに書き始めていたところ、この3月17日の深夜、福島県沖を震源とした震度6強というかなり大きな地震が起こった。 都内でも一部停電が発生し、私の住まいも3.11を思い出させるように大きく揺れた。 それに続く翌18日今度は岩手県沖を震源とする震度5強の地震

          鎮魂の地、宮城県石巻での体験~東日本大震災の被害を越えて創業40周年を迎える企業の記念誌の編纂

          困難な時代を生き抜く〜社史編纂から見た地域や産業の変化と中小企業(1)

           2022年2月21日(月)日経新聞・夕刊に「社史は日本の文化」という記事が掲載された。大企業中心だった社史づくりが、中小や新興企業にも広がっているとある。  20数年前から25社の中小企業の社史づくりに関わって来た私にはうれしい記事である。扱った社史の多くは地方で戦後創業した中小企業が多い。  ほとんどが資本や経験、人脈など少ない段階で創業し、やがて高度成長の波にのって規模を拡大した。そして子どもたちなどに事業継承をし平成、令和に至っているケースが多い。  あらためて私

          困難な時代を生き抜く〜社史編纂から見た地域や産業の変化と中小企業(1)

          新年にあたって

          ◎コロナ禍の長寿中小企業の姿  私はこれまで20年以上、中小企業の『記念誌』や『社史』『創業者伝』の編纂に携わってきました。創業からの年数でいえば30年から110年の企業です。  こうした経験もあって歴史のある中小企業が今回のコロナ禍をどうやって乗り切ろうとしているのかに注目しています。私の経験だけでは限られているので、もう少し幅広く知りたいと思い、探してみたところ、一般社団法人100年経営研究機構が昨年5月に創業100年以上の長寿企業を対象に実施した「コロナショックへの

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