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コロナ禍で失われていく中小企業や地域の歴史

中小企業の社史「わたしたちの物語」

私が関わる中小企業の社史は、大企業や代々続く老舗の制作する社史とは、意味が大きく異なっています。

会社ができて年月が経ち成長するにつれて会社全体がひとつのプロジェクトのように動いた時代は遠くなって、組織単位で役割が与えられたり、活動の場所が複数の拠点で行われたりするようになり、一体感を持って、思いを共有化する単位が会社全体から組織単位へと移っていきます。

それとともに、創業者や創業者と一緒に働いた社員の方々が減っていき、創業期の行動・できごとやそこにあった気持ちを直接聞く機会は失われていきます。

そうしたときに中小企業の社史が意味を持ちます。

現在の、そしてこれからの社員に「わたしたちのこの会社や組織は、どのように生まれて、どのようにできあがっていったのか」「わたしたちがやっているこの事業はどのように生まれて、どのように育って、今があるのか」を伝え、考えるきっかけを生み出し、会社の使命(ミッション)が、なぜそうあるのかを思い描かせる役割をします。

発刊の3つのタイミング


こうした思いを持って携わってきた社史の制作ですが、その発刊には共通のタイミングがあります。

まず周年記念事業のタイミングです。創業30周年、50周年など記念事業の一環として発刊され、記念式典で配布されることもあります。

次いで経営者が交代するタイミングです。退任する経営者が中心となって制作する場合もあれば、事業を継承した新社長が、先代の歴史を記録で残しておきたいという場合もあります。

そしてもうひとつ見逃してはいけないタイミングがあります。創業者や経営者、そして一緒に仕事をした人たちの年齢によるタイミングです。多くの中小企業では、大企業のように過去の記録が充分残されているわけではありません。特に創業期の話はそこに関わった人から直接、聞き出してまとめるしかないことがたくさんあります。

しかし、ここに大きな問題が存在します。多くの中小企業が戦後の復興期から高度経済成長期に創業されたことを考えると、いま聞き取りに取り組まないと会社の礎を気づいた時期に何があったのかはわからないままに、「私たちはどこから来たのか」は永遠の謎になってしまいます。

コロナで失われる「私たちはどこから来たのか」

ところがコロナ禍になって以来、企業は規模の大小を問わず、まったく先が読むことができなくなり、いま起こっている状況になんとか対応することでせいいっぱいになってしまいました。


この手探りで進まざるを得ないような状況はコロナ禍の影響がようやく底を打ったかに見えるものの、国際的な緊張状態や急激な円安といった新たな社会情勢の不安定な要因を考えると、この先も続きそうです。

こうした環境では、企業は過去を振り返る余裕を失います。その結果、多くの創業期の物語が語られることなく、失われていってます。コロナで多くのものが失われましたが、こうした中小企業の創業期の体験や記録も例外ではありません。

この事態に、微力ながらなんとかできないかと考えて、創業期やその後のオーラルヒストリー(関係者から直接話を聞き取り、記録としてまとめること)だけでも、さほど手間や時間、コストをかけずに残すことができないかを考え続けています。

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