見出し画像

中小企業にとって社史が意味すること「わたしたちの物語」

大企業や代々続く老舗が制作する社史と、私が携わる中小企業の社史・創業者伝は大きく異なっている。
私の経験から中小企業が制作する社史には次のような意味合いがあるのではと思う。

中小企業では会社の成長にともなって「横の分化」と「縦の分化」が発生する。

横の分化が進む

「横の分化」とは企業の成長による組織化にともなって起こる。
創業期は組織の枠に関係なく、会社全体がひとつのプロジェクトのように社員が動く。創業まもない時期にさまざまな危機にみまわれ、ときに存立もあやぶまれる状況になりながら一致団結して困難を乗り越え達成感を共有する。

やがて社員の数が増え、会社がそれぞれの組織単位で役割が与えられたり、活動の場所が複数の拠点で行われたりするようになると、それにともなって会社全体の思いの共有化や一体感がかつてのようではなくなり、代わって組織単位での思いの共有化や一体感が強まっていく。こうして「横の分化」が起こる。

縦の分化が進む

「縦の分化」とは時間の経過にともなって起こる。
創業期を経験した社員は、その後に入社する社員にときには仕事のなかで、ときには仕事のあとの飲み会で、問題を解決したりつまづいたりした自分たちの経験を、そのとき感じたことなどを重ね合わせながら語る。

やがて創業者や創業者とともに働いた社員が減っていき、先輩社員から直接話を聞く機会を持たない社員が増えていく。それにともない、創業期の行動やそこにあった気持ちの継承は失われていく。
創業者や創業者とともに働いた社員の経験や思いは間接的にも伝わらずに「縦の分化」が起こる。

社史によってくぼみを埋める

「横の分化」によるはざま、「縦の分化」によるはざまは、会社が成長するにしたがい自然に大きくなっていく。

このはざまを埋めるものが社史であり、社史の制作になる。
それははざまのあとの社員にとって「わたしたちのこの組織は、どのように生まれ、どのようにできあがっていったのか」を伝え、「わたしたちがやっているこの事業はどのように生まれ、どのように育って今があるのか」を伝え、考えさせる。
さらには現在の会社の使命(ミッション)が、なぜそうあるのかを思い描かせる。

社史の制作はこれまでの体験や思いを言葉に変えて物語としてつむぎあげることでこうした意味合いを持つ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?