見出し画像

困難な時代を生き抜く〜社史編纂から見た地域や産業の変化と中小企業(1)

 2022年2月21日(月)日経新聞・夕刊に「社史は日本の文化」という記事が掲載された。大企業中心だった社史づくりが、中小や新興企業にも広がっているとある。

 20数年前から25社の中小企業の社史づくりに関わって来た私にはうれしい記事である。扱った社史の多くは地方で戦後創業した中小企業が多い。
 ほとんどが資本や経験、人脈など少ない段階で創業し、やがて高度成長の波にのって規模を拡大した。そして子どもたちなどに事業継承をし平成、令和に至っているケースが多い。

 あらためて私が手がけた社史を並べてみると、地域や業種は多岐にわたるが、戦後の中小企業の産業構造の遷り変わりや、戦後から今日に至る日本社会の変化を語りかけてくる。

 そうしたなかには創業100年を越える会社の社史もいくつかある。戦前からの事業を引き継いで守り抜き、現在まで事業を発展させてきたところもあれば、戦後、祖業が衰退して、まったく異なる分野に思い切って転換し、そこで事業基盤を固め、地域に根をおろし、いまも成長を続けているところもある。

 初めに目についたのは創業110年史。発刊した企業は1909(明治42)年に東京の下町で創業した。創業からの努力をつづけて、ようやく事業基盤が固まりつつあった1923(大正12)年に発生した関東大震災で工場や自宅の倒壊と焼失という大きな被害に遭い、全てを失った。

 そこから従業員とともに立ち上がって、事業を再開させ、ふたたび軌道に乗せた。
 ところが、太平洋戦争の東京大空襲でふたたび工場や住まい焼失にみまわれる。
 それでも経営者は、いつか来る戦争の終結を待ち、平和が訪れると、みたび工場を立ち上げた。

 その後時事業を受け継ぐことになる経営者から、この創業者の話しをお聞きしていると、戦争の終結を信じ続け、事業再開を執念としていた当時の姿が浮かびあがるようであった。
 その後、大震災や戦争で焦土と化した混乱の中からいち早く事業再開に突き進んでいった様子を執筆していると、すでに亡くなっていて、直接取材は叶わなかったにもかかわらず、年の差はあるにせよ、同時代の体験を持つ私は、不思議な親近感を覚えた。

 このように社史編纂に携わっていると、すでに亡くなってしまった方の姿が、不思議な存在感をもって浮かび上がってくることがある。これも社史編纂もおもしろさのひとつだ。
(続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?