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「中小企業の人材開発」に目をとおして

「中小企業の人材開発」(中原淳 立教大学経営学部 教授・保田江美 国際医療福祉大学成田看護学部 准教授 著 東京大学出版会)にざっと目を通した。
中小企業を相手に仕事をしている者としてはとてもおもしろく思った。
おいおいしっかり読んでいこうと思っているが、いまの時点での感想を書いておく。
そういうわけで、この文章は参考文献に掲載された内容に対する個人的な感想である。

本書は日本の企業数の99.7%、従業員数の68.8%を占める中小企業の人材開発メカニズムを明らかにすることを目的として従業員300 名未満の350社の中小企業が回答した質問紙調査とヒアリング調査をもとに書かれている。

特に目をひいたのは、中小企業の人材開発は、大企業のそれと異なる部分があり、中小企業に大企業の人材開発メカニズムをそのまま用いることはできないという部分だ。

同書によれば、中小企業の人材開発も大企業のそれも経験学習によるところが大きいが、その後が違ってくる。大企業は研修制度や経験学習などによって身につけたことを上司がフォローし、職場の先輩や同僚と磨き合うことによってスキルアップが行われる。

一方、中小企業は所属する部署が自分ひとりだったり、年の近い職場の先輩や同僚がいないことが珍しくなかったりするために経験学習と人的なつながりの相互作用が起こりにくい。

この点をどうカバーしていくのかが中小企業における人材開発の課題だと著者らは指摘する。

この課題を克服するために、著者らはヒントとしていくつかのキーワードを示している。
そうしたキーワードのなかからいくつかを私の見てきたことをからめて記しておきたい。

「臨床知」

私が理解した「臨床知」は「科学知」と違って、さまざまな人々とかかわりあいながら身につけていく知。科学知に対して劣っているということではない(ましてや中小企業が大企業に比べて遅れているわけではない)。
むしろ中小企業の方が環境すばやく適応して変わり身が早く、規模が比較的小さいために制度や規則よりも人と人のつながりや関わりあいが強く働くために「臨床知」の活用が不可欠となる。

「領域固有性」

人の認知は固有の文脈や領域にひもづいて発揮されるということ。
中小企業は大企業に比べ中長期的視点よりも短期的な志向による行動が求められる。ひとつのあやまりが企業そのものの存続の危機に直結することがある中小企業では、より重要になる。

「中範囲の理論」

この「中範囲の理論」は私なりの理解では広くどこでも成立する理論とはちがって、特定の場所や状況に限定されて意味を持つという理論。
中小企業の活動は大企業のように社会全体や国際・国内情勢に、より大きな影響を直接受けるよりも、地域や業界動向の方に影響を受けるために、それらをつねにウォッチして行動に結びつけるスキルが必要とされる。

ここにあげた考え方を活用しながら、経験学習などによって身につけたことを人とのつながりのなかで、自らの実践的なスキルとして磨き上げていく仕組みづくりが大切なる。

同書からはまだまだ学ぶことが多くありそうで、いずれしっかり読み込んで考えることがあれば稿をあらためようと思う。

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