見出し画像

バンド・キンモクセイ ニューアルバム「洋邦問わず」全曲レビュー感想 “二人のアカボシ”しか知らない人にもおすすめ

2024年2月14日、「二人のアカボシ」などのヒット曲で知られる、相模原市&町田市出身のポピュラーミュージックグループ(バンド)・キンモクセイの最新アルバム「洋邦問わず」が発売されました。

この記事では、私・秋沢一文が旧ツイッター上に連投した、この新アルバム「洋邦問わず」を聴いての感想を再編集して掲載します。

ぜひ、実際の楽曲にもアクセスしていただきたいので、“公式チャンネル”へのリンクなども適宜挟み込みながら、話を進めていきたいと思います。

それでは、さっそく行ってみましょう!


全体のレビュー(導入)

バンド・キンモクセイのアルバム「洋邦問わず」の感想。「すばらしい!」の一言。前作のアルバム「ジャパニーズポップス」が、メンバーが影響を受けた音楽へのオマージュ的な要素が強かったのに対し、本作はオリジナル度をグンと高めてきた印象がある。右から左へと、ただただ消費されていくだけの音楽の対極にある、長く聴き継がれる価値のある楽曲の数々は圧巻だ。

イトシュンさん(伊藤俊吾さん)のポップセンスはもちろん盤石。それに加えて、後藤秀人さんや張替智広さんが持ち込む、洋楽や、洋楽に影響を受けた今風J-POP的なニュアンスに、イトシュンさんがどう応えるか、という点も聴きどころで、ここにすごい化学反応が起きている。

このあたりがアルバムタイトルの「洋邦問わず」が意味するところであり、同時に「古今問わず(ここんとわず)」の姿勢なのかなと感じた。


M1「Smile」

M1「Smile」。先行配信の際から何度も聴いているのに、全く飽きない魔曲。驚くのは、曲・詞・アレンジともに、従来のキンモクセイのテイストを継承しつつも、ジャジーでAORな大人のポップスへと、しっかりと進化を遂げていること。寂しさの中に小さな希望の光を見出すような歌詞が極上。


M2「君のくしゃみ」

M2「君のくしゃみ」。アルバムタイトル「洋邦問わず」を象徴するような一曲。張替さん(HALIFANIE)が投げかける細かな譜割りのAメロは、洋楽に影響を受けた現代J-POP風。これに対し、文明批評的な導入から、普遍的なアナログの価値の提示へと落とし込むイトシュンさんの歌詞が冴える。


M3「ときめきをもう一度」

M3「ときめきをもう一度」。後藤さん作曲で特筆すべきはスケールアウトっぽいAメロ。この不思議な感触は、聴くほどにクセになる。曲と、バンドの来歴を想像させるイトシュンさんの詞の相性が抜群。ドゥーワップ的なコーラスもカッコいい。「あの日の神様」は、音楽の神様なのだろうか。


M4「モラトリアムからサナトリウムまで」

M4「モラトリアムからサナトリウムまで」。初見で、いいタイトルだなあと。後藤さん作曲の軽快なダンスナンバー。イトシュンさんの歌詞は、「バブル期の親世代」と「氷河期の自分世代」の対比か。「相模原」がここで出てくるか、と。「サナトリウム」は攻めた表現だと感じた。高度すぎる演奏もすごいので、特に動画やライブで映える楽曲だと思う。


M5「烏兎匆匆」

M5「烏兎匆匆」。後藤さんの美しい旋律に、イトシュンさんの和を感じさせる詞。この曲がアルバム「洋邦問わず」の裏テーマ(あるいは隠しテーマ)なのかなと思う。烏兎匆匆(うとそうそう)は、太陽のカラス(黒)と月のウサギ(白)で、暦や過ぎる時の象徴。他にもアルバム全体に、太陽と月、色、時間経過のモチーフがたくさん見られる。


M6「4人はキャンドル」

M6「4人はキャンドル」。佐々木良さん作詞作曲で「4人はアイドル」を意識したタイトル通り、ザ・ビートルズ風のマージービート・ナンバー。ツインボーカルで、ギター、ドラム、コーラスのアレンジも、初期ビートルズ的な「赤盤」感。「恋になるストーリー~」の部分は、歌い方までジョン・レノン風。


M7「いつもの朝に」

M7「いつもの朝に」。イトシュンさん作詞作曲で、ガットギターの音色が印象的なボサノヴァ調ナンバー。やさしい音と詞で、何気ない日常のしあわせを歌う。朝の情報番組のテーマソングにちょうどいいのではないかと思う。テレビ・ラジオなど放送関係者の皆さん、どうでしょう?


M8「強引にLOVE」

M8「強引にLOVE」。詞曲ともにHALIFANIE(張替さん・小貫さん)担当で、作詞のスタンスの違いが、M2と対になる一曲。最初、完全に英語に聴こえて歌詞カードへ。なるほど英語に聴かせる日本語か、と。言葉の乗せ方も「音」を優先させる、というチャレンジングな新感覚のキンモクセイ楽曲。


M9「かくれんぼ」

M9「かくれんぼ」。アルバム「洋邦問わず」のラストを飾るバラッド2曲は、アレンジが対照的。こちらM9は、最小限の編成で、バンド・キンモクセイのセッションを間近で聴いているような親近感。日常の中に隠れがちなしあわせを歌う。M5で指摘した「太陽と月」のモチーフが出てくる点にも注目したい。


M10「この世の果てまで」

M10「この世の果てまで」。一方、大トリのM10は、アルトサックスも加えた壮大な雰囲気のアレンジ。単純なJ-POP的な応援歌との違いは、ネガティブな感情の発露までも「それでいい」と肯定してしまっている点。これは、バンドが年月を重ねたからこその奥深さなのではと思う。


全体のレビュー(まとめ)

最後に、アルバム「洋邦問わず」の中で個人的にグッときたフレーズを2点ほど。
M2「君のくしゃみ」→「疲れて弱った君の胸の奥に 何かが刺さって光る涙が好き」 
M10「この世の果てまで」→「星空で誰かがほら 見てくれたらそれでいい」 

特に前者。M2のブロックでも指摘した通り、この曲は、AIやらテクノロジーやらに対する普遍的なアナログの価値の提示がテーマで、普通の文脈なら「うれしさ、楽しさ、しあわせ」みたいなポジティブな感情につながるような事象に着地させるだけでも十分に成立する。タイトルに用いられている、ちょっと笑える突然の「くしゃみ」などはその例だ。

が、上で紹介したフレーズは、そんな普通の文脈を超越している。なんと、パートナーが苦しんで泣いている姿さえも「好き」と言っているのだ。つまり、ポジティブはもちろん、ネガティブな感情も含めて、「心が動くこと」それ自体を讃える人間讃歌になっているのだ。

このフレーズが偶然の産物ではないのは、この部分をブレイク気味の伴奏で「しっかり聴かせる」アレンジにしていることが証明している。これは、ひいき目なしに見ても、「日本の音楽史上に残る名フレーズ」になったのではないか。


★バンド・キンモクセイは、現在ツアー中で、来たる2024年3月22日(金)には、有楽町でのライブが予定されています。興味を持たれた方は、ぜひ。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?