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【小説】MIDNIGHT PARADE

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本当はこれで2005年あたりにデビューする筈だった、渋谷のクラブ(踊る方)を舞台にした連作短編風長編小説です。 タイトルは、LOVE TAMBOURINESの名曲『Midnig…
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#連載長編小説

【小説・MIDNIGHT PARADE】[27]MOONLIGHT DANCEHALL

【小説・MIDNIGHT PARADE】[27]MOONLIGHT DANCEHALL

 もうすぐ、朝五時。夜はもう終わり、世間では既に早朝とされる時間だが、その日の『ajito』にいる客達は、誰もがまだ店を出なかった。既に何本目かわからないシャンペンが開けられ、美春はそれを飲みながら踊っていた。心地よく揺れている美春に、一之瀬がまた駆け寄って来た。

「こんなに旅立ちを祝ってもらえて幸せ者だね、一之瀬」
「いや、もう俺の留学とか忘れられてるだろ。単なるパーティと化してるじゃん」

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[26]FAMILY

【小説・MIDNIGHT PARADE】[26]FAMILY

 年が明けて、早春。留学の準備を猛スピードで済ませた一之瀬は旅立ちをあちこちに言いふらし、その勢いに負けて、常連達は『ajito』でのお別れ会をセッティングした。
 
               ◆ ◆ ◆
 
 その日、美春は、尚子と一緒に食事でもしてから行こうと、渋谷のタワーレコード前で待ち合わせをしていた。「ごめん、三十分遅れる」。いつもの尚子の言葉を聞き、美春は、相変わらずだと眉をしかめ

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[25]Give Me A Reason

【小説・MIDNIGHT PARADE】[25]Give Me A Reason

 携帯電話のフラップを開くのが、こんなに勇気のいる事だったなんて。美春は、先程から三時間、虹男に電話をかけようか逡巡していた。そんな自分に、他人事のように驚いた。私は、今、怖がっている。そう自覚して、美春は、唇を噛み締めた。
 
 今まで、美春には、怖いものなど何もなかった。けれど、虹男と会ってからの美春には、笑ってしまうくらいに馬鹿馬鹿しいくらいに怖いものが増えていった。待つ事も、知る事も、触れ

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[24]No Woman, No Cry

【小説・MIDNIGHT PARADE】[24]No Woman, No Cry

 走り去る美春の後ろ姿を、虹男は、ただ見送った。目に映る残像が消えるのも待てず、テーブルに置いてあった酒を一気に呷る。

「おかわり」

 出てきたジンライムをまた飲み干しグラスを揺らす。酒でゆらいだ視界ではそれは遠く煌いて見えた。氷の音がからん、と響いた。心の欠片が鳴っているような気がした。

 どうしてこうなるんだよ。

 虹男は一人、自分に問いかけた。それは、美春に関する事だけではなく、今ま

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[23]100万光年の優しさが注がれる限り

【小説・MIDNIGHT PARADE】[23]100万光年の優しさが注がれる限り

  予鈴が終わり、本鈴の直前。真弓は、教室の後ろのドアが勢いよく開く音に続く、大股な足音で振り向いた。いつもの習慣通りに美春の姿を確認する。すたすたと窓際の自分の席に向かう美春の様子は、いつもと何ら変わらないように見えた。しかし、着席し、美春が正面を向いた瞬間、教室内がしんと静まり返った。美春の顔に派手に広がる痣に誰もが目を瞠った。

「何あれ、ひどくない?」
「遊んでるらしいからさー、男にでもや

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[22]You Gotta Be

【小説・MIDNIGHT PARADE】[22]You Gotta Be

 キャッシャーに座り、入場人数をカウントしているストップウオッチを見た。客足は半年前と比べ、随分と落ちている。それを確認してから、白石は凝り固まった首を左右に振った。

 春に訪れ始めた常連達が、段々とこの店を離れていく季節なのだ。年が変わる頃には客の顔ぶれは一変しているだろう。夜遊びを知り始めた頃は輝かんばかりの目をしていた人々が、夜に巻き起こる事に疲れ、磨り減り、去って行く時期。

 白石は、

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[21]You are the univerce

【小説・MIDNIGHT PARADE】[21]You are the univerce

  白石に自分の気持ちをぶつけてから一週間。尚子は、何だか自分でも呆気に取られる程、静かな心持でいた。言いたい事を言っても、なんて事はないんだな。そんな風に、思う。胸に埋めた言葉に支配されて、苦しかった今までが嘘のようだった。

 自分の言いたい事を言ったら、白石と会う事はなくなるだろう。その、尚子の当初からの予想通りに、白石からの連絡は途切れた。尚子は、それを、罵る訳でもなく、憎む訳でもなく、だ

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[20]I'm caught up (in a one night love affair)

【小説・MIDNIGHT PARADE】[20]I'm caught up (in a one night love affair)

「美春ちゃん、昨日来てたよ」

 いつもの誰かからそんな電話が来た日の夜、一之瀬は、久しぶりに『ajito』に顔を出した。あの、いかれた女と男を間近で見た夜から、一之瀬は『ajito』に行っていなかった。もう、夜に巻き起こる事の全てにうんざりしていたのだ。しかし、やはり、美春と仲違いをした事は一之瀬の中でくすぶり続けていて、それだけは何とかしたかったのだ。

 昨日の今日だからいないかもしれないけ

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[19]Touch me,Take me

【小説・MIDNIGHT PARADE】[19]Touch me,Take me

夜明け前に鳴った電話の着信を確認し、美春は、黙ったまま虹男の部屋から出た。階段の踊り場で立ち止まる。振り向いて再度、虹男の部屋のドアが閉まっている事を確認した。それから、美春は震え続ける携帯に出た。
「ごめん、今、彼氏の家」

 そう言うと、電話はすぐに切れた。
 
 踊り場から眺める空は、向かいのマンションによって狭く切り取られていた。低い雲が立ち込めた空は鈍い灰色をしていた。それを見ていると、

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[18]Digiin’ on you

【小説・MIDNIGHT PARADE】[18]Digiin’ on you

 休憩中のいつもの電話。「今日は二時半頃に帰る」。

 しかし、虹男のその電話に、美春は、今日、こう返してきた。

「じゃあ、私『ajito』にいる」

 虹男はその言葉に少し驚き、すぐさま言った。

「じゃあ、迎えに行く」
「いいよ、疲れてるでしょ? 適当に中抜けしてそっちに行くから」

 その言葉が気遣いの意味を含みながらも冷たく感じられて、虹男は慌てた。何故だか、無性に急がなければならない気

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[17]Luv Connection

【小説・MIDNIGHT PARADE】[17]Luv Connection

 今日は、何だろう。

 真弓は最近、教室に入る度にそう思う。

 今日は、一体、何をされるんだろう。

 田嶋と話していた事がグループの女達の不況を買い、無視され続けて一週間。その間、真弓はさまざまな嫌がらせをされた。プリントを渡す時に床に投げられる、登校したら上履きがごみ箱に突っ込まれている、など古典的なものがメインだが、それに執拗な無視をプラスされると結構きついものがある。ここ最近の真弓は、

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[16]Got To Be Real

【小説・MIDNIGHT PARADE】[16]Got To Be Real

 夜が好きで音楽が好きでその中にいる奴等が好きで勤め始めた店だけれども、誰とも話したくないこんな日には、この仕事を選んだ自分を呪いたくなる。白石は、キャッシャーから長蛇の列をなしている客達に、笑顔を振り撒きながらも、心の中で舌打ちをした。

 今日の店の盛況の理由はヨーロッパツアーからつい先日凱旋したDJ、桜澤がプレイするからだ。彼は、白石の十年来の友人である。海外を忙しく飛びまわる桜澤との久しぶ

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[15]リズム

【小説・MIDNIGHT PARADE】[15]リズム

『セックスでしか向かい合う事を知らない男は、終わった後、すぐに背中を向ける』。

 誰が言った言葉だったかは思い出せなかった。けれど、その通りだと尚子は思った。眼前にある白石の背中に向かって心の中で呟く。

 帰って欲しい事くらい知ってるよ。
 
 白石は先程からずっと無言のままだった。背中が強張っていた。それを見て尚子は、白石が自分から電話してきた癖に、既にそれを後悔している事を理解した。

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【小説・MIDNIGHT PARADE】[14]GIVE ME THE NIGHT

【小説・MIDNIGHT PARADE】[14]GIVE ME THE NIGHT

「相変わらずじゃん」

 いつもの面子のいつもの挨拶。一之瀬は、それに笑ってこう返した。

「そうだな。元気にしてるよ」

 相変わらず。一之瀬は今言われた言葉を一人胸中で繰り返した。相変わらずここに来ている。そう思うくらいなら来るなよ、と自分に突っ込むのにも、もう飽きた。それでも、まだここに来てしまっている。

「そういえば、美春は最近来てないの?」

 一之瀬は、何気ない素振りを意識して本当に

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