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【小説・MIDNIGHT PARADE】[26]FAMILY

 年が明けて、早春。留学の準備を猛スピードで済ませた一之瀬は旅立ちをあちこちに言いふらし、その勢いに負けて、常連達は『ajito』でのお別れ会をセッティングした。
 
               ◆ ◆ ◆
 
 その日、美春は、尚子と一緒に食事でもしてから行こうと、渋谷のタワーレコード前で待ち合わせをしていた。「ごめん、三十分遅れる」。いつもの尚子の言葉を聞き、美春は、相変わらずだと眉をしかめた。視聴でもして待とうと店内へ入ろうとする。すると、左から来る人込みの中に見知った顔がある事に気付いた。

 見知った顔ではあるものの、それが誰かがいまいちわからず、美春はしばし考えた。そして、ようやく彼女が同じクラスの真弓だという事を思い出した。私服姿を見た事がなかったから、わからなかったのだ。余りに見詰めていたせいか、真弓も美春に気付いたようだ。美春と真弓は、あの日以来、会話を交わしていなかった。どうしよう、ちょっと気まずいな。そう美春が思った矢先、真弓が手を挙げた。

「うす」
「あ、どうも」

 こんなに簡単に声をかけるような仲だっただろうか。美春は驚きながら、軽く頭を下げた。真弓がすたすたと近付いて来て、ぞんざいな口調で言った。

「何してんの?」
「これから待ち合わせて、友達のお別れパーティに行く」
「へぇ」

 真弓の気負いのない調子に、美春の方も構えていた気持ちが楽になった。美春は、真弓の横にいる背の高い男を見上げた。ちゃらちゃらしたなりをしているけれど、なかなかに格好いい男だ。にやにや笑いながら、からかい混じりに聞き返した。

「そっちは? デート?」
「みたいなもんじゃん」

 真弓がぶっきらぼうにそう答えた。明らかに照れた様子だ。一糸乱れぬカールを描いた長い巻き髪で、美春が履いたら三歩で転びそうなピンヒールのブーツを大きな網目の網タイツに履いた真弓は何処からどう見ても派手なギャルだった。その見た目とは裏腹の照れた素振りが微笑ましくて、美春は更に彼女をからかった。

「何、照れてるんだよ、そんなに分厚い化粧して」
「うっせえな」

 うまい言葉が返せず、頬を紅潮させてそう言う真弓は何だかとても可愛かった。なんだ、この子、全然悪い子じゃないじゃん。美春はそう思いながら、嫌味たらしくにっこり笑って手を振った。

「んじゃ、お幸せに」
「うっせえよ」

 真弓の憎まれ口を背中で聞きながら、美春は、もう一度手を振った。
 
 そういえば、私、学校の子と、学校以外で会うの、初めてだ。美春は視聴コーナーを巡り、CDを物色しながらふと気付いた。ギャルって怖いと思ってたけど、真弓、結構、可愛いかったな。彼氏もちょっとホストっぽいけど男前だし。

 そう思えた自分が何だか嬉しくなって、美春は笑った。

 
               ◆ ◆ ◆
 
 あの子の笑顔、初めて見た。真弓は美春の後姿を見ながら、そう思った。とっさに声をかけた自分が不思議だった。そして、何ら違和感なく、美春と会話をした自分に驚いていた。

 二人が話している間、所在なさげにしていた田嶋が、去り行く美春の後ろ姿を指し「友達?」と聞いてきた。真弓は、首を捻りながら言葉を返した。

「いや、ほとんど話した事ないけど」

 その答えに田嶋が不思議そうに言った。

「すごい仲良さそうだったじゃん」
「別に仲良くないよ」

 女ってわかんねぇな、と呟き、田嶋は首を傾げた。けれど、すぐさま、仕切り直すような明るい口調でこう言った。

「じゃ、これから仲良くなれば? あの子、結構可愛いし、面白そうじゃん」

 真弓は、その言葉にぽかんとして田嶋を見上げた。そういう事なのか。それだけでいいのか。余りにも簡単に腑に落ちたその感覚に真弓は戸惑い、けれど、それでいいのだと何処かでわかっていた。田嶋が、優しく問い返すように眉毛を上げた。それを確認して、真弓は俯き、呟いた。

「そうだね」

 その相槌は自分でも驚く程真摯で素直なものだった。田嶋が慌てた様子で、一瞬考え込んだ。しばらくしてから、閃いたと言うように真弓の肩をぽんと叩き、言った。

「他の女、誉めたからって嫉妬すんなよ」
「してねぇよ。仲良くなれたらいいなって私も思うよ」

 そう言ってから真弓はすぐさま口をつぐんだ。顔が赤らんでいくのが自分でもわかった。田嶋が心底楽しそうに笑っていた。それから、真弓の頬を突いて、言った。

「んじゃ、なりなよ」
「そうだね、今みたいに話し掛ければいいんだよね」
「そうだよ」
「田嶋さんさ、馬鹿でしょ」
「馬鹿だよ」
「単純王だよね」
「悪かったね」
「誉めてるんだよ。シンプル・イズ・ベストって言うじゃん」

 田嶋が優しく真弓の背中を押した。雑踏の流れに踏み込みながら、真弓は、田嶋の顔を見上げた。田嶋がもう一度、真弓を見下ろし、笑った。真弓は、コートのポケットに入れていた田嶋の手を無理矢理引きずり出し、手を繋いだ。

 それから、真弓は何事もなかったかのように歩き出す。けれど、マフラーに埋めた唇からは、密かに笑みが漏れ出ていた。
 
               ◆ ◆ ◆
 
 尚子は、遅れると美春に言った三十分を、更に十分過ぎた時間に、ようやくタワーレコードに着いた。不機嫌な美春を『ajito』での最初の一杯は奢ると言っていなし、公園通りの奥にある店に入る。
 
 飲み物を頼み一息つくと、尚子は、美春を見た。何だか無性に懐かしい気持ちだった。目を細めて口を開く。

「久しぶりだね」
「うん。実はそんなに間が空いてないんだけど、そんな感じするね」
「毎週『ajito』で会ってたからね」
「そうだよね。金曜日にさ、約束なんかしてなくても、いつも。でも、私が行かなくなったから」

 美春はそこまで言って、目線をテーブルに落とした。尚子は、美春の頬に手を伸ばした。驚いて顔を上げた美春に、尚子は静かに言った。
「よかった。痣、残ってないね」
美春が一瞬体を硬直させた。目を丸くして尚子の方を見ている。尚子はその無防備な視線に戸惑い、一瞬俯いた。しかし、すぐに顔を上げてまた美春を見据えた。目に、精一杯の労りと優しさを込める。今度は、美春がその視線に俯いた。

 美春がぽつりと呟いた。

「知ってたの?」
「うん」
「誰から」
「一之瀬から。心配して私に電話くれた」
「そっか」
「ちゃんと治ってよかった」
「うん」
「辛かったね」

 美春がその言葉にばっと顔を上げた。目を見開き、言った。

「私より、虹男が」

 尚子はその言葉を遮り、言った。

「二人とも、辛かったね」

 美春が、小さく首を横に振り、俯いた。その頭を、尚子はそっと撫でた。
 
 やってきた飲み物を受け取り、二人は軽く乾杯をした。グラスに口をつけ、尚子は口を開いた。

「美春が来なくなってから、すぐ私もあんまり行かなくなったんだ」
「え、そうなの? 尚子は、ずっと行ってると思ってた。どうして?」

 美春のその問いに、尚子は一瞬、次の言葉を躊躇った。美春が、無言で小さく首を傾げていた。その仕草に背中を押されて、尚子は話を続けた。

「実はさ、私、白石さんと揉めちゃって」
「え? 揉めたってどういう事?」

 美春が、驚いた様子でそう言った。尚子は、酒を一口飲み、言葉を続けた。

「白石さん、彼女いるじゃない? でも、私、白石さんの事、好きで割り込んだの」
「そうだったんだ」

 何を言っていいのかわからないというような顔で、美春がそう呟いた。初めて尚子はこういう事を美春に言ったのだ。今まで、意識して美春の耳に入れないでいようとしていた事。けれど、それはもう終わった事だった。もう言ってもいいのだ。そう思うと、力んでいた肩の力が抜けた。今までよりもずっと楽な気持ちで、尚子は話を続けた。

「白石さんがすごい酔ってた時に勢いでやっちゃって、その後はずっとセックスフレンドみたいな感じでさ。私は、彼女いるの、最初から知ってたから、何も文句は言えないんだけど。でも、やっぱり辛くなってきちゃって」
「そっか。そうだったんだ」

 美春が、呆然とした顔でそう繰り返した。

「でも、この前、やめた。お互い、そういう状態って、良くないしさ。どっちが悪い訳でもないから、嫌な気持ちを白石さんに持ってるわけじゃないけど、やっぱり、その後は行きにくくて」
「そっか。そうだよね」

 美春が、下を向いたまま、また相槌を打った。余計な事も、下手な慰めも言わず、ただ頷いてくれる美春に尚子は感謝した。全てが終わった後に聞いてくれる相手がいる。この子がいるなら、大丈夫だ。強がりではなく、そう思えた。

「でも、大丈夫。もう平気。今日は白石さんと笑って話せるよ。パーティ台無しにしたりしないから」
「尚子は、そんな事しないでしょ」

 勢い込んで美春が言った。尚子は、それに苦笑した。そう言ってくれるから、そう信じてくれるからそう出来るのだ。尚子は、もう一度笑って、「うん」と答えた。
 
               ◆ ◆ ◆
 
 夜も一時を過ぎた頃、ようやく二人は『ajito』へ向かった。食前酒の後に開けたワインで、二人は既に酔っ払っている。はしゃぎながら入り口へと続く階段を下り、派手に声をあげ、店内へ入った。

 ドアを開けたら、そこは、人の渦だった。「元気かよ」「久しぶり過ぎ!」「出勤遅いよ」「早く酒飲んで酔っ払え」。見慣れた顔から、あちこちでそんな言葉をかけられる。既に酔っ払っているのは皆同じで、美春と尚子はもみくちゃになりながら店内を進んだ。
 
               ◆ ◆ ◆
 
 白石は、バーカウンターへ向かう美春と尚子を見つけ、そこへと駆け寄った。美春が、一瞬気まずいような表情を見せた後、目礼を返して来る。白石はそれに同じように目礼を返した。美春の後ろにいた尚子が、美春と同じように小さく頭を下げ、行き過ぎようとした。白石は、急いで一歩踏み出し、尚子の腕を掴んだ。

「ごめん、この前。俺、どうかしてたんだ」

 振り向いた尚子が無言のまま、白石を見ていた。白石は、尚子のその様子に、叱責されるのも無理はない、と思った。そう思いながらも、言葉を続けた。今、言わなきゃ駄目だ、と思った。

「桜澤にも怒られたよ。俺、いろいろわかんなくなってて。それで尚子に八つ当たりした。本当にごめんな」

 白石は、肩を縮こまらせながら、そう謝った。尚子が、静かに言葉を発した。

「『ride』の記事、読んだ?」
「うん」
「どうだった?」

 白石は、俯いたまま、言った。

「嬉しかった。すげぇ嬉しかったよ」

 尚子がその瞬間に、ぴょんと小さく飛び跳ねた。白石はそれに驚き、少し後ずさった。驚きながら、尚子の顔を見る。すると、そこには満面の笑みが浮かんでいた。

「この前、あの記事の感想がメールで来たの。南米に住んでる三十一歳の人から」

 尚子の言う言葉の意味がよくわからず、白石は首を傾げた。尚子が、畳み掛けるように言葉を続けた。

「私、そのメール貰って、世の中ってすごいって思った。全然私の事を知らない人が、私の書いた文章でメールくれたのよ。自分が動く事で、本当に世界はどうにでも変わっていくんだね。そういうチャンスをくれたのは、そういう事に気付けたのは、白石さんのこの店のおかげだよ」

 早口で勢いよくまくし立てる尚子に、白石は、俺は何もしていない、と言いかけた。本当に何もしていないのだ。自分は、ただここにいただけだ。そう言おうとした。けれど、尚子が、その白石の気持ちを察したように、こう言った。

「一之瀬もきっとそうなんじゃない? 何かやらなきゃって思ったから行くのよ。私とか、一之瀬みたいな何も持ってない馬鹿な子が、ここでいろんな人に会って、いろんな事に揉まれて、それで何か始めたりする。そういうのって素敵じゃない? そういう場所、作ってる事、白石さん、もっと自慢していいよ」

 でも、と白石が言いかけた言葉を、尚子が、また、きっぱりと遮った。

「反論は受け付けないよ。客の言う事はちゃんと聞いてね」

 そう言って笑う尚子に、白石は、もう何も言えなかった。自分は、完璧に尚子に負けたのだ、と思った。けれど、それはけして嫌なものではなかった。
 バーカウンターに向かおうとする尚子を制し、白石は財布を出した。尚子がいつも最初の一杯に飲むジントニックをバーテンに頼む。

 酒が出てくるのを待つ間、白石は言った。

「ありがとう」

 尚子が出てきたグラスを口に運びながら、ぶっきらぼうに言った。

「お礼はいいの。私は事実を言ってるんだから」
「それでも、ありがとう」

 白石は、もう一度、そう繰り返した。
 
               ◆ ◆ ◆
 
 フロアに繰り出した美春と尚子は、ようやく今日の主役を見つけた。最早、踊っているのか千鳥足なのかわからないくらいの足取りで、一之瀬はそこら中にいる女に抱きついている。

「一之瀬、また今日もすごい酔ってるんだけど」
「本当だよ。鬱陶し過ぎ」

 二人はそう言いながら、一之瀬に近付いていった。
 
               ◆ ◆ ◆
 
 一之瀬は、美春と尚子の姿を見つけた瞬間、二人に走り寄った。嬉しかった。二人が当たり前のようにこの場所にいる事が、何だか物凄く嬉しかった。飛び込むように前へ行き、そのまま、二人をいっぺんに抱き締めた。

「こんなに酔ってても、抱きつく相手が女のみってところが性格現れてるわね」

 尚子が、一之瀬の腕を振り払いながら、毒づく。

 続いて、
「親に金出してもらって留学なんていいご身分だよねー」
と、美春が意地悪に言った。

一之瀬は、うっ、と呻きながら、二人から腕を離した。

「そう言えばさ、同じような事、会った時、私に言ってたよね」

 美春が腕組みをし、一之瀬を一瞥した。一之瀬は気まずい気持ちでその場から一歩下がり、深く頭を下げた。

「本当すいません。俺が悪かったです」
「いいよ、別に本当の事だし。むかついたけど」
「本当すいません」

 二人の様子を面白い物を眺めるように見ていた尚子が、言った。

「でも、なんで、いきなり留学?」
「俺もそろそろ変わらなきゃと思って」

 ぷっ、と尚子が吹き出すと同時に、美春が大声で笑い出した。

「マジで? 超安易! 場所変えただけで自分変わるかよ」
「そう言うなよ、これが初めの一歩よ」
「情けなーい。初めの一歩、遅過ぎじゃないのー?」
「うっせえな! しょうがないじゃん。ていうか、お前、笑い過ぎ」
「だって、一之瀬、面白過ぎるよ。あーお腹痛いー」

 頬が紅潮していくのを感じながら、一之瀬は最後まで相変わらずの扱いを受けている自分に情けない気持ちになった。この憎まれ口。このぞんざいな扱い。なんだよ。全く、なんなんだよ。そう思いながら地団駄を踏む。すると、足元がふらついた。体がまたぐらりとよろめく。

「また酔ってるよ」
「もう本当懲りない奴だね」

 美春が、尚子が、通りがかりのいつもの連中が、一之瀬を笑った。笑い声が一之瀬を包む。

 幾らでも、笑えよ。

 一之瀬は、そう思いながら、響く笑い声を聞いていた。
 
               ◆ ◆ ◆
 
 美春は、しどろもどろに言い訳をしている一之瀬を無視して、一通り、笑って、笑って、笑った。酸欠でくらくらしてきた頭をのけぞらせて回るミラーボールを見る。笑い過ぎて滲んだ涙でミラーボールは更に煌いて見えた。それを見ながら、美春は思った。

 あぁ、何だか、私、皆が大好きだ。本当に全部が大好きだ。
 
 笑い過ぎて乱れた息を整え、またこみ上げてくる笑いに押し潰され、それを何度か繰り返してから、美春はようやく一之瀬を見詰めた。少し照れながら、けれど何気なく、酔いと笑いの勢いに任せて言った。

「でも、いいじゃん。変わっても変わらなくても、一之瀬の事、私は好きだよ」

 口をぽかんと開け、一之瀬が先程よりも更に赤くなった。その頬の赤さを誤魔化すように叫んだ。

「やめろ! 気持悪い!」
「照れる方が気持悪い!」
「あんた達、好きなんだけど強がっちゃう中学生同士みたいな事やめなよ。恥ずかしいから」

 尚子の冷静な言葉に、また笑いがこみ上げてきた二人は、ついにはフロアに膝をつき、横腹を押さえて笑った。
 
 鳴り響くサキソフォン。この曲のイントロダクションが流れた瞬間、フロアに人が押し寄せる。曲はモンド・グロッソの『FAMILY』。

 あの頃の曲だと美春は思う。私達がここで出会い始めた頃の曲だ。この日にこの曲を流すなんて。そう思いながら、フロアにいる誰もが天を仰ぎ、声をあげる。

 一之瀬に背中を押されてフロアへ向かえば、尚子が満面の笑みで抱きついてくる。ブースにいる白石が、その様子を見て、大きく笑う。その笑顔に、また誰もが笑顔を返す。
 
 心がひとつになる瞬間。この小さなフロアがささやかに同じ気持ちで満たされる瞬間。さっきまで全くの他人だった誰かと、今しかない喜びを分かち合う。
 
 夜はパレード。風変わりな奴らが、入れ替わり立ち替わり現れては、名曲に胸を熱くする。フロアを、熱くする。


はい、今回の曲はこちら!

 若い方は知らないかもしれないけれど、名曲だからぜひ聴いて!

 原曲はアメリカのフルート奏者、Hubert Lawsによるもの。こちらは昼下がりに聞きたい感じね。

 ちなみにわたしも今、検索して知ったんですが、ラッパーのKOHEY JAPANさんもカバーしてる。またこれが格好いい!

 20年以上前に聞いていた音楽をモチーフにした小説を公開しだしたら、インターネットでまた新しい音楽を聴けるこの喜びよ……。

 さて、この曲の歌詞は非常にシンプルです。

'Cause happiness depends on people
We need family

幸福は人にかかっているから
家族が必要です
Family Lyrics【GENIUS】(英語歌詞のみ引用)

 わたしも学生時代、家庭にいろいろあって家にいたくなくて夜を彷徨っていた人間です。だから、クラブで会えた人びととの繋がりが嬉しかった。

 今もきっと夜を彷徨う子たちはいるんだろう。

 わたしの経験上で一言、言えるのは、家族って、大切な存在って、後からでも作れます。

 生まれ持ったカードだけが人生のすべてじゃないのよ。

 だって、生まれ落ちた場所で全部が決まるなら、生きている意味も、生きて時間を過ごしていく意味も、他人と会う意味もないでしょう?

 音楽は時間芸術と呼ばれていて、確かに5分の曲なら5分の時間がないと聴くことができない。

 そして、音楽の素晴らしさはいろいろあるけれど、〝誰かと共に聴ける〟ということだと、わたしは90年代の渋谷のクラブで教えてもらいました。

さあ、この『MIDNIGHT PARADE』も次でいよいよラスト。
引き続き、ご感想お待ちしています。

作家/『ILAND identity』プロデューサー。2013年より奄美群島・加計呂麻島に在住。著書に『ろくでなし6TEEN』(小学館)、『腹黒い11人の女』(yours-store)。Web小説『こうげ帖』、『海の上に浮かぶ森のような島は』。