見出し画像

中国の人は、どんなウクライナニュースに触れているのか?

夜のTVニュースでは・・・


日に日に凄惨さを増すばかりのウクライナへの侵攻。中国政府はロシアを批判しないスタンスを貫き、むしろこれまで以上にアメリカ批判を強めているが、実際中国国内では、この戦争はどう報じられているのか。どうせロシア寄りだろうとは誰でも想像するが、実際どんな感じなのか、チェックしてみよう。

まずは、TVニュースの代表格、国営放送CCTVの午後7時の「新聞聯播(Xinwen Lianbo=シンウェン・リエンボー)」だ。ただ、このニュース番組、普通の人は、まず視てない。会議の映像ばっかりで退屈なのだ。しかし、当局の考えを知るには欠かせない番組だ。国民としてどういう風に考えておくべきか、中国社会で生きていく上で大事なものが示されているともいえる。

この昭和40年代のSFのようなロゴや、スタジオの背景、シュールすぎる!もう長い間変わっていないと思う。


ちなみに、このニュースの項目の順番は、出てくる人の「党での序列」の通り。

例えば、習近平総書記が学校を視察したニュースが、重要な国際問題をめぐる外国との外相会談よりも先に来たりするのだ。根本的な発想が全く違うことに、あらためて驚く。

うむ、やはり最初は開幕したばかりの「两会(lianghui=リャンホイ)」一色だ。

「両会」とは、全国人民代表大会(日本で言う”全人代”)と、同時に開かれる全国政治協商会議の2つを指した言葉。後者は、国政への助言をするものだが、ジャッキーチェンや有名キャスターなどもメンバーに入るなど名誉職の色彩も濃いため、日本をはじめ海外のメディアは、”全人代”の方しか取材しない。

まずは、両会のニュースが延々と続く。本当に延々と。「習近平とともに」などのタイトルが流れ、次から次へと会議の映像が続く。

番組終了3分前に、ウクライナ


この番組は通常30分だが、きょうは「両会」のため1時間のようだ。しかし、それにしても、ウクライナが出てこない。ええ?ひょっとしてウクライナやらないつもりか?と、心配になってくる。

時間を見ると、すでに放送開始から57分。終了の3分前だ。
・・・おっ、やっと出た!ウクライナのニュース。

やはり、ロシアによる”軍事侵攻”や戦争という言葉は使われず、”ウクライナ情勢”と言うばかりだ。

主にロシアの観点から


最初の内容は、ロシアが攻撃を停止し、”人道回廊(中国語では人道”走”廊)を設置するというもの。西側では、「それなのにロシア側が攻撃をやめないので住民の避難ができていない」と報じられているが、ここでは、「ロシア側は、避難の実現のために、ウクライナ側が停戦するよう求めている」と、ロシア側の言い分のみを紹介。

ウクライナのゼレンスキー(泽连斯基)大統領が、出てきた。

「西側の国々の対応は、我々にとても冷淡だ」と嘆いている、と紹介。


今度は、”アメリカの人権弁護士”のなんとかさんが登場。

「米国をはじめ西側は、ウクライナに武器の供給を続けている。これでは火に油を注ぐようなものだ」と批判。

名が知られていなくても、欧米人に、欧米を批判させるという方法は、中国のメディアでよく使われる。

全く今回とは関係ないが、あくまで参考として、昔書いた以下の記事のことを思い出した。

【記事概要】
コロナの発生源を巡る欧米の対応を批判するスイス人学者として、中国国営メディアで取り上げていた人物が、実は存在しない人物なのではないかと、駐中国スイス大使館が指摘したというもの。

その学者とされる人物のTwitterアカウント上にある白人男性の顔は、中国の家具やその他の広告に使われているモデルの顔ではないかとの指摘が出て、騒動になった。その後、記事は削除されている。


・・・TVニュースは、こんな感じだった。
どう感じられただろうか。

まあ、想像した通りではあったかもしれない。

ただ、やはり決定的な違和感は、衝撃的な攻撃や被害の映像、攻撃を受けている現地の人々の「顔」や「声」がほとんど出てこないことだ。

各国の反戦運動やロシア国内での反対デモやその弾圧などが出てこないことは言うまでもない。

ちなみに、このニュースは2分弱程度で終わってしまった。

SNSでは、現地の中国人が現場報告


しかし、さきほど書いたように、このニュース番組は、特に若者は全然視ない。若者は、SNS中心だ。

SNSでも、どうせ規制規制でロシア軍の攻撃なんて触れてないんだろ、と思ったら・・・

ウクライナ在住の中国人留学生などが、「ロシアからの攻撃が恐ろしい、怖い」と言いながら、自分や街の被害の様子、逃げる人々などを撮影してアップしている人がたくさんいたのだ。

状況を克明にリポートする中国人男性


なかでも、ウクライナに20年住んで現地の女性と結婚し、子供も何人もいるという男性の投稿動画に目が止まった。

SNS 西瓜視頻より

この男性は、ロシア軍侵攻から、ずっと状況をアップしていて、今では隣国に避難している様子を頻繁に報告していた。

サムネイルには「警告」の文字とともに、プーチンの写真に矢印が刺さっていて、「彼らがやってきた」と。

SNS 西瓜視頻より

ネット民の反応は?


砲撃の音を聞いて、本当に恐ろしそうな表情でリポートを続ける男性。

画面上には、見ている人が書いた、さまざまな言葉がどーっと流れてくる。

「心配です。気をつけてください」というものの他に、

「実に悪いやつらだ」「悪い!悪い!悪い!」「悪魔の普京(pujin=プーチン)打倒、ウクライナ人民支持」・・・驚いた。これは、”あり”なのか。「悪い!」というアイコンを多くの人がタップして、その数が増えていく。

SNS 西瓜視頻より

しかし、驚いたのも束の間、反発する声も、それをしのぐ勢いで、どんどん流れて来る。

「それ、NATOが撃ったんだよ」「あんた大げさだな」「ロシア万歳、中ロ友好万歳」「ゼレンスキー逃げたんだろ。裏にはアメリカが・・」「賊憐死鶏(ゼレンスキーの音に馬鹿にした漢字をあてたもの)自業自得だろ」「あなたアメリカのスパイ?」「やっぱり中国が安全で一番いい」「(ロシアの友好国である)中国の国旗を掲げたら大丈夫」

SNS 西瓜視頻より

でも、また、「撮影なんてしてないで早く逃げて!」「プーチンの正体がやっとわかった」などの声も出てくる。

ネット上の声は自由か?


どう思われただろうか?
そう。日本のネットと同じような感じだ。

素直で優しい発言に反発し、政権を擁護し、斜に構えて人を茶化すようなコメントをする人が多いのも、そっくり。

あれっ、じゃあ、中国でもみんな結構自由に声をあげてるんじゃないの?と思うかもしれない。しかし、そこは中国、よく見るとやはり違う。

この男性も、政府の政策には一切ふれず、むしろ中国人の退避を政府は迅速に行ってくれて感謝だと強調している。攻撃への恐怖感は語るものの、(サムネイルはあんなのだが)プーチンの批判は直接はしない。人々のメッセージも、然り。「ひどすぎる」と言う人も、ほどんどが政治的なものには触れない。

政治には触れないという大前提は、ほとんどの人が常識として体に染みついていて、その範囲内で、あとは結構好き放題言っている、と彼らは感じているように思う。わたしたちには、本当の自由には到底見えないけれども、そういう社会の中で楽しむ知恵のようなものがある気がする。

戦時だからこそ、痛感

それにしても、どういう情報に触れられるか、そして情報を選ぶことができる自由があるかということが、いかに大事なことであるかが、こういう戦争の時によくわかる。

きょうもロシアの独立系メディアが次々と潰されているニュースがあり、解散する放送局の人たちが最後、悔しそうに泣いていたのが辛かった。国際的なSNSも制限が始まっている。新たな反"フェイクニュース"の法律で、西側メディアも撤退している。

今後、心あるロシア国民はどうやって、当局発表以外の情報を得るのだろう。私も、ロシア人の知り合いには、彼らの安全を考えて、あえてメールなどしないようにしている。

ふりかえって、私たちの国でも、右だ左だの議論できているうちはまだ言論が自由な証拠。情報の選択肢がなくなることが、どんなに恐ろしいことか、あらためて思った。

それにしても、毎日ほんとに胸が締め付けられるようだ。


======
きょうも最後までお読みいただき、ありがとうございました!
AJ 

(注)この記事では、特定の国や職種を一括りにして批判する“政治的な“議論は避けたいと思っています。よろしくお願いします。

この度、生まれて初めてサポートをいただき、記事が読者に届いて支援までいただいたことに心より感謝しています。この喜びを忘れず、いただいたご支援は、少しでもいろいろな所に行き、様々なものを見聞きして、考えるために使わせていただきます。記事が心に届いた際には、よろしくお願いいたします。