ajisai
第一部「少年ラック」 * 久野 早季 様 前略 不躾ながら突然のお手紙お許し下さい…
ほんとうのところ面影はあいまいで、あの夏焦がれた大人の男の手で柔らかい生き物を包む俺にと…
「なにも知らねえくせにっ!」オレは叫んだ。 なにも知らないくせに! オレだって抱えている…
なんてきれいなんだろう。その目も、煙草を挟む指も腕も肩も、大人の男の身体は、なんてきれい…
胸の奥の怒りの球体が膨らんで破裂しそうで息苦しい。逃げられない、追ってくる容赦のないもの…
手に取った写真の肉体は、オレが触れたいと思ったそれとは決定的に違っていた。 脳味噌がむず…
見つめあった。わかった。目だ。目が、ノイズの正体だ。目だけが大人を通り越して老人になって…
自分のことは棚にあげ品評してしまうのは仕方のないことだ。頭のなかは、誰にも支配できない無…
「あたしが家出するの、ばあちゃん知ってたんだよね」 そして姉ちゃんは、あの夜のことを話し…
鏡に映ったオレのはだか。変化していた。浮き出ていた肋骨に筋膜が張り、つるっと薄いだけだっ…
「おまえよく、あんなふうに正直に言えるよな」 「なにがだよ」 「自分が童貞とかよー。キスも…
オレが語るのならそんなのではない。少なくとも、いまは語りたくない。おいそれと語れない。語…
あの男だった。大人の男の手を持つ男。 投げつけられた塊はほぐれ、憶えのある声になった。微…
なんだか、消えたいなー、と思った。死にたい、とは違う。別に死にたくはない。けど、自分以外…
オレの想像では、姉ちゃんと婚約者の関係に、愛、は埒外だった。 いずれ身内になる予定の他人…