見出し画像

『文学』は人生を狂わすんじゃない。正すんだ【レビュー】【人生を狂わす名著50】【本】

正直、この本は買いたくなかった。

だってこの本を買ってしまったら、少なくとも50冊の"名著"が紹介されていることは間違いない。さらっと内容をながめ見る限りでは、比較的簡単に読んでしまえるビジネス書などとは違い、しっかり時間をかけなければ読めない本がこれでもかと並んでいる。

おそらく皆様もそうだと思うけれど、私も『積読』という病をわずらって久しい。完治することはないと知りながらも、日々、少しでも病に立ち向かっているのだ。

そんな中で、提示される50冊という数の暴力よ。

もし仮にすべて気になってしまったら、私はどうしたらよいのだ。積読と合わせて向こう1,2年は読むモノに困らなそうだからいいじゃないか。という話はあるけれど、人は大きすぎる壁の前では恐怖を感じるものなのだ。それこそ人生狂ってしまうかもしれない。

そう思って、我慢してきた。
――してきたけれど、どうしても気になってしまったのだ。

私の中の何かが。これまでも私を知らない世界にいざなってきた、妖怪レーダーのような何かが。そして、私の敬愛する今日マチ子さんが描くこの表紙が。私の心を離してくれなかったのだ。

……そして、ある日。ついにつのる想いに負け、私は本書を買ってしまった。その瞬間感じたのは、ダイエット中に甘いものの誘惑に負けたときの苦い後悔の味だった。



――しかし、これを読んだ今。

私の選択はちっとも間違っていなかったことを切々と感じている。とても面白かった。WEBがもとにあっただけあって、文章としても非常に読みやすい。名前は聞いたことがあるけれど読んだことはないな……といった様々な"名著"にもう一度触れる機会をもらうことができた。

それに何よりも私の心を揺さぶったことがある。

『私』と『文学』をつないでいるのは、文字であり、文章であり、そこに書かれている内容だけではないということに気がつかされたのだ。
言語化がとっても難しいけれど、簡単に言ってしまうと、沢山の作品を並列的に紹介されたことによって、『自分が好きな文学』というものがそこに何となく見えたのだ。


この私自身の「文学における好み問題」は、私の中で『文学』のサンプルが少ないがためにうまく言語化できないのだと思う。

私は漫画は沢山読んできたので、漫画に関しては自分の好みがわかる。もちろんそれは簡単に変容するものだし、どんどん増えたりするあやふやなものではあるけれど、「こういうものが好き」という根本の感覚自体は、今はあまり悩むことがなくなった。
それは沢山漫画を読んできた中で、自分の好みを体系化できているせいだ。そして『文学』という世界においても、そんな「自分の"好き"を知っている」という状態を渇望しながらも、圧倒的な物量の前にひれ伏してきたのだ。

結局、私は『文学』というジャンルにおいて、導いてくれる指南書を心の底で求めていたのだろう。ジャンルレスで、同じ目線で、難しい方向に行き過ぎない。そういう全体に通じるテンションも、私が求めているものに近かった気がする。

同じような本はこれまでにもあったのかもしれないけれど、このタイミングで、この本に出会うことができて本当に良かった。今日マチ子さんが表紙を書いていてくれて本当に良かった。

今はそんな感謝の気持ちでいっぱいである。



タイトルには真っ向から反対する形になるけれど、『文学』は人を狂わせるものではないと思う。
その人が本来持っているものに気がつかせ、正してくれるもの。本来、進べき正しい道しるべを示してくれるもの。それが『文学』なのだ。私はこの本を読んで強くそう感じた。

そして本来どの本が自分の道しるべになるのかは、『文学』という畑を縦横に駆け巡らないと見つからないものだ。しかし、この本『人生を狂わす名著50』は、そういった自分自身の道しるべを探すためのガイドブックになりえる。

単に、"名著"との出会いだけではない。
あなたの人生の道しるべとの出会い。

それを与えてくれるのが本書の魅力なのだ。


――追記しておくと、この本を読んだせいで、私の積読が大きく増えたのは言うまでもない。徐々には消化されていくのだろうけれど、しばらくは読む本に困るということはなさそうだ。



#エッセイ #コラム #レビュー #人生を狂わす名著50 #本 #文学 #文章 #文字 #今日マチ子 #読書の秋2020 #コンテンツ会議 #私のイチオシ #推薦図書

この記事が参加している募集

推薦図書

コンテンツ会議

私のイチオシ

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)