1/29。そして僕は、『それ』と向き合うことにした。
5:30起床。
天気は雨。
*
……。
……。
……。
「ハッピーバースデー」
ねえ、
バースデーって、ハッピーなのかな。
僕の、バースデーは……。
……。
……。
……。
「ハッピーバースデー」
そっか。
ハッピーかどうかは、自分で決めていいんだね。
ハッピーバースデー トゥ ミー。
*
「気分は、どう?」
僕は、後ろをふり返る。誰も、いない。……ううん、わかっているんだ。声の主の正体を。
「気分は、どう?」
『それ』は、僕が答えるまで、何度も何度も問いただす。たぶん、いってほしいんだろう。「最悪だよ」とか、「訊かないでよ」とか、そんな答えを。
でも、僕はいわない。
「悪くないよ」
僕は、答える。
僕は、今日で27歳になった。あまり、実感のわかない数字だ。20歳の頃から、自分の年齢に、興味関心が無くなった。見た目はともかく、中身は、10代のままで止まっている気がするから。……「見た目はともかく」じゃないな。未だに、10代に間違われるときがあるから……。それは、どうでもいいとして。
そんなわけで、僕にとっての誕生日は、「年を取る日」じゃなくて「自分が生まれた記念日」だ。(まあ、元々、どっちも正解だけどね。)だから、僕はずっと考えてきた。「自分が生まれた記念日」を、祝うか、呪うか。
生きたいと思ったときは、誕生日を祝ってきた。死にたいと思ったときは、誕生日を呪ってきた。そして、『それ』は、誕生日になると、必ず現れる。
「今年は、どう?」
『それ』は、自分の期待する答えを待っている。
「祝う? 呪う?」
呪って、ほしいんだろうな。だって、『それ』は、死にたがりの僕の味方だから。生きたがりの僕には、味方してくれないから。なぜなら、『それ』は、死を選ぶことが、唯一の安寧だと思っているから。
「もちろん、祝うよ」
僕は、答える。
「だって、誕生日を、心から祝ってくれる人がいるからね」
『それ』は、僕の答えに、歯嚙みする。今年も、期待する答えは得られなかったから。そんなに、僕に死んでほしいんだね。そんなに、僕に安心してほしいんだね……。
「大丈夫だよ」
僕は、いった。
「わざわざ死ななくてもさ、僕はもう、安心してるよ。だって、安心できる人が、そばにいるからね」
『それ』は、歯嚙みするのを止めて、僕を見つめる。その顔は、死にたがりの僕に、そっくりの顔をしていた。
「誕生日おめでとう。……このことばは、君にも向けられているんだよ」
僕は、いった。
「いつも、心配してくれて、ありがとう」
『それ』は、不安そうに、僕をじっと見つめる。僕も、じっと見つめ返す。『それ』は、しばらくすると、ぽろぽろ涙をこぼした。
「もう、大丈夫だよ」
僕は、『それ』を抱きしめた。
*
「僕だけが、鳴いている」
これは、僕とドッペルさんの話。もしくは、何か(を生む/が死ぬ)話。
連載中。
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