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1/29。そして僕は、『それ』と向き合うことにした。

5:30起床。

天気は雨。





……。
……。
……。


「ハッピーバースデー」


ねえ、
バースデーって、ハッピーなのかな。
僕の、バースデーは……。


……。
……。
……。


「ハッピーバースデー」


そっか。
ハッピーかどうかは、自分で決めていいんだね。


ハッピーバースデー トゥ ミー。





「気分は、どう?」


僕は、後ろをふり返る。誰も、いない。……ううん、わかっているんだ。声の主の正体を。


「気分は、どう?」


『それ』は、僕が答えるまで、何度も何度も問いただす。たぶん、いってほしいんだろう。「最悪だよ」とか、「訊かないでよ」とか、そんな答えを。


でも、僕はいわない。


「悪くないよ」


僕は、答える。


僕は、今日で27歳になった。あまり、実感のわかない数字だ。20歳の頃から、自分の年齢に、興味関心が無くなった。見た目はともかく、中身は、10代のままで止まっている気がするから。……「見た目はともかく」じゃないな。未だに、10代に間違われるときがあるから……。それは、どうでもいいとして。


そんなわけで、僕にとっての誕生日は、「年を取る日」じゃなくて「自分が生まれた記念日」だ。(まあ、元々、どっちも正解だけどね。)だから、僕はずっと考えてきた。「自分が生まれた記念日」を、祝うか、呪うか。


生きたいと思ったときは、誕生日を祝ってきた。死にたいと思ったときは、誕生日を呪ってきた。そして、『それ』は、誕生日になると、必ず現れる。


「今年は、どう?」


『それ』は、自分の期待する答えを待っている。


「祝う? 呪う?」


呪って、ほしいんだろうな。だって、『それ』は、死にたがりの僕の味方だから。生きたがりの僕には、味方してくれないから。なぜなら、『それ』は、死を選ぶことが、唯一の安寧だと思っているから。


「もちろん、祝うよ」


僕は、答える。


「だって、誕生日を、心から祝ってくれる人がいるからね」


『それ』は、僕の答えに、歯嚙みする。今年も、期待する答えは得られなかったから。そんなに、僕に死んでほしいんだね。そんなに、僕に安心してほしいんだね……。


「大丈夫だよ」


僕は、いった。


「わざわざ死ななくてもさ、僕はもう、安心してるよ。だって、安心できる人が、そばにいるからね」


『それ』は、歯嚙みするのを止めて、僕を見つめる。その顔は、死にたがりの僕に、そっくりの顔をしていた。


「誕生日おめでとう。……このことばは、君にも向けられているんだよ」


僕は、いった。


「いつも、心配してくれて、ありがとう」


『それ』は、不安そうに、僕をじっと見つめる。僕も、じっと見つめ返す。『それ』は、しばらくすると、ぽろぽろ涙をこぼした。


「もう、大丈夫だよ」


僕は、『それ』を抱きしめた。





「僕だけが、鳴いている」

これは、僕とドッペルさんの話。もしくは、何か(を生む/が死ぬ)話。

連載中。


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