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サッカー知識ゼロからの日本ワールドカップ誘致:データ解析とAI倫理

 筆者はデータアナリストとして、FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップの日本誘致の仕事をしたことがあります。しかし、サッカーのことには一切興味がなく、現在日本で活躍している選手の名前すら知りません。
 
 当時知っていたサッカー選手の名前は、『ペレ』『マラドーナ』くらいでした。これは多くの外国人が、『アリガト』、『サヨナラ』、『ハラキリ』、『ニンジャ』、『ゴジラ』、『ヤクザ』くらいしか知らないのと同じレベルでしょう。
 
 平均的な日本人がどれくらいイタリア語を知っているかは不明ですが、多くの日本人は『マフィア』や、『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するブローノ・ブチャラティのセリフの『アリーヴェデルチ!(さよならだ)』くらいは知っているでしょう。

 Jリーグの発足は1991年で、実際の開幕は1993年でした。しかし、開幕した頃、筆者はすでにアメリカに移住しており、Jリーグの選手名は勿論のこと、チーム名すら知りませんでした。

 サッカー選手やサッカーのルールさえ知らない人が、FIFAワールドカップの日本誘致で何ができるかと、疑問に思う方もいるかもしれません。そんな方々には、映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』を参考にしていただくと、ドイツ語を知らなくても暗号解読ができることが理解できるでしょう。

 FIFAワールドカップの場合、開催地を決定する投票者がどの国に投票するかを、膨大なデータから解析する必要がありました。ここでAI倫理や情報倫理の問題が浮上してきます。

 単に新聞報道や公にされている情報から予測するだけであれば、大きな問題は発生しません。しかし、投票者のプライバシー情報や、電子メール、誰がどこからどれだけの資金を受け取っているか、投票者の取引先や利害関係者、広告会社との関係、親族がどの国の企業で働いているかといった情報を、AIを用いて解析すると、AI倫理上の大問題を引き起こします。

 ここで、ルールに関するエピソードを紹介します。当時の選択肢は、日本、韓国、中国(予備候補)の三択問題でした。ルール的には、この中から一国を選ぶだけなので、本来であれば、FIFA理事全21名の票読みだけの話ですが、ここにFIFAの開催国選定規定にない二国間・あるいは、多国間共催というルールにはない条件が飛び込んできました。

 三択問題という条件が、日韓共催を認めるかどうかとルール変更の話になってしまうと、それまでに分析したデータの大半が無意味になってしまいます。FIFA理事会、会長、副会長、各国の理事、日本の招致団、韓国の招致団の公式発表などの内容が、全部辻褄が合わなくなってしまい、データ解析ではどうしようもない状態になってしまいました。

 このルール変更がどれだけ驚くべき話か分かり易い例として、アメリカの大統領選挙を挙げてみます。アメリカのような二大政党制では、ロス・ペローのような例外もありますが、基本的には、民主党か共和党のどちらかの二択問題です。この状態でスーパー・チューズデー(大統領予備選挙の日のこと)の日に、『共和党と民主党の共同大統領制度にしよう』と言われるような状況と似ています。

 最終的には、誰某の面子や、威信の問題や、FIFA次期会長選に備えたFIFA内部の派閥闘争と、データにすらなっていないデマ合戦の状態では、AIがあってもなくても、フェイクニュースだらけになってしまい、こうなるとデータアナリストでは、どうしようもなくなってしまいます。
 
 ところで、アメリカ以外の英語圏では、サッカーは『Football』と呼ばれています。国際サッカー連盟のFIFAはフランス語の"Fédération Internationale de Football Association"の頭文字を取っており、これを英訳すると"International Federation of Association Football"となります。しかし、米語ではサッカーのことは『Football』とは呼ばずに『Soccer』と呼ばれます。

 アメリカで『Football』と言えば、アメリカン・フットボール(アメフト)を指します。当時のアメリカでは、サッカーは、まだ一般的ではなく、ニッチなスポーツでした。近年ではアメリカでもサッカーの人気は増していますが、アメフトのような絶大な人気はありません。

 プレイヤー人口と観客人口は異なりますが、スポーツの人気を定義する要因として、テレビ視聴率、スタジアムの観客動員数、関連グッズの売上、興行収入、地域、年齢層、人種、所得層、年代などが考慮されます。これらの要因によって、評価が大きく異なるため、一概にどれが一番人気かを決めることは困難です。

 筆者が1990年~2000年代にアメリカに在住していた頃の、筆者の感覚的な一般的なスポーツ人気の傾向は以下のようになります。

1位:アメフト (American Football)
 NFL (National Football League) はアメリカで最も人気のあるプロスポーツリーグと広く認識されています。スーパーボウルは毎年アメリカで最も視聴されるテレビ番組の一つであり、Madden NFLシリーズはビデオゲームとしても非常に人気がありました。

2位:野球(Baseball)
 MLB (Major League Baseball) はアメリカの伝統的なスポーツとして知られ、多くのファンを持っています。1990年代の後半や2000年代初頭は特にスター選手が多く、人気も高かったです。

3位:バスケットボール(Basketball)
 NBA (National Basketball Association) はアメリカ国内外で非常に人気があり、90年代は特にマイケル・ジョーダンの活躍により人気がブレイクしました。
 
4位:アイスホッケー (Ice Hockey)
 NHL (National Hockey League) はアメリカとカナダで人気があり、特に北部の州やカナダでの人気が強いです。
 
5位:自動車レース (NASCAR)
 1990年代~2000年代初頭にかけてNASCARの人気は急上昇し、アメリカ南部を中心に多くのファンを獲得しました。世代間の人気の格差が大きいです。

6位:プロレス (Professional Wrestling)
 WWF(後のWWE)は、90年代に一大ブームを迎え、テレビ放送やケーブルテレビのペイ・パー・ビュー(PPV)イベントが非常に人気でした。
 WWEの名称変更は商標権問題と関係しています。環境保護団体のWWFプロレス団体のWWFを商標権侵害で訴訟し、プロレス側が団体名を変更することになりました。
 為替やイベントによっても、日本円で表示すると値段は大きく異なりますが、3000円~5000円が相場で、有名選手の引退試合などでは、これにプレミアム価格が上乗せされることもあります。つまり、1イベント3時間程度のWWEのイベントを5,000円以上払ってでも、テレビで観たいプロレスファンが非常に多いということです。
 これはYouTubeのコンテンツの違法アップロード問題などの著作権問題とも密接に関係しています。
 
 AI倫理問題や知的所有権問題は、プロレスからも考察できるので、別の記事で『プロレスから考えるAI倫理問題』を書く予定です。

 アメリカには至る所にスポーツバーがありますが、このPPV料金を払いたくないため、スポーツバーで観戦する人も多いです。スポーツバーで他のファンと一緒に盛り上がりたいという人も少なくありません。

 プロレス選手のカート・アングルが登場すると、観客全員が声を揃えて、『You Suck!! You Suck!! You Suck!!』と叫ぶのですが、その背景を説明すると、カート・アングルは1996年のアトランタオリンピックでレスリングフリースタイル100kg級の金メダルを取得しており、その実績を鼻にかけている嫌な奴(ヒール:悪玉レスラーのこと)としてのキャラクターを演じているので、プロレスファンは『You Suck!!』合言葉にして楽しんでいます。
 
 WWE(World Wrestling Entertainment, Inc.)のEはエンターテイメントの略で、ベビーフェイス(善玉)とヒール(悪玉)の対決がプロレス興行のエンターテイメントの一部として位置付けられています。

7位以降:上記以外では、プロレスほどの人気はありませんが、テニス、ゴルフ、ボクシングなども人気スポーツです。さらに、イーロン・マスクとMeta社CEOマーク・ザッカーバーグがリアルファイトをすると話題になっている総合格闘技のUFCもメジャーなスポーツに数えられます。

 このランキングを見ると、アメリカではサッカーの人気がそれほど高くないことが分かります。

 一方、サッカーは北欧(冬季は雪が多すぎて練習ができないため)を除く欧州諸国や、南米諸国、開発途上国では非常に人気が高いです。アフリカの最貧国でもサッカーは非常に人気があり、これには人口密度や経済的な理由が関係しています。

 筆者はアフリカ諸国の無電化地域にもたびたび滞在しています。IEA(国際エネルギー機関)の2020年の統計によれば、世界の10%に当たる約8億人が無電化地域で生活しています。これらの地域では、サッカーは電気や資金が不要なスポーツとして広まっています。

 サッカーボールは、NGOなどが寄付してくれることが多いです。しかし、サッカーシューズまで寄付されることは少なく、多くの子どもたちは裸足でサッカーを楽しんでいます。
 
 1960年のローマオリンピック1964年の東京オリンピックマラソンで連続金メダルを獲得したエチオピアのアベベ・ビキラは『裸足のアベベ』として日本でも有名です。アフリカの多くの地域では今でも裸足での生活が一般的で、彼らの足は非常に頑丈です。キャンバスシューズの底に穴が開くような悪路でも、彼らは裸足での移動に問題を感じません。
 
 サッカーボールがなければ、稲藁などで作った簡易なボールを用いて、裸足でのプレイが可能です。これは原始的なサッカーの形と言えるでしょう。

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