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一要枠

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会社社長の令息で、最高学府を首席で卒業しながらも就職せず、ほぼ流浪の民と化す。それどころか思い入れる俳優に過激な行動を起こし、それでも何故か父の会社の本元である組織に居る女性と婚… もっと読む
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人物裏話——一要篇。

人物裏話——一要篇。

 山田一要は上条グループ系列の会社社長の息子で、何不自由なく育った為、おっとりとした性格をしている。『もてあまして、わけがわからなくて』では、本当に訳が判らない人物として描かれているが、実は温順しい男の子なのだ。
 この話は当時ホームページを見てくれていた女性に、「恐い話」だと云われた。慥かに謂われのない暴力を無言で揮う存在というのは恐ろしいだろう。
 彼の話は『もてあまして、わけがわからなくて』

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スウィート・スウィート・ベイビー

スウィート・スウィート・ベイビー

 子供が慾しい、とカナちゃんがいきなり云った。
「怖いこと云わないでよ」
「なんで怖いの? 一要君、子供嫌いなの」
「そういう問題じゃないってば。前にも云ったけど、結婚してないのに赤ちゃんが出来たりすると、苦労するのは女なの。判った?」
「そんな子供に云うみたいな喋り方しなくたって判るよ」
「怒鳴らなくたっていいじゃない」
「他のひとに頼む」
「あのねえ、買いものとか留守番じゃないんだから」
「父

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ぼくの好きな女の子

ぼくの好きな女の子

 ぼくにはじめてカメラをくれたのは、父が務めている会社の社長の息子である。
 玩具のようなカメラだが、後で調べてみたら当時その適当な描写力が却って珍しがられ、ブームを巻き起こしたことが判った。「coldpod」というカメラだった。会社を興した最大手の複合企業、上条グループの最高経営責任者が、カメラ好きの長男の為に発売したそうだ。
 会社そのものの名もカメラの名も、デザインもその長男が考えたらしい。

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平気な顔をして羽が生えている

平気な顔をして羽が生えている

 一要君、たまには顔見せてよ、と上条加奈子から電話があった。

「どしたの、その頭」「なに、その恰好」
「これ? アキラ君の服、整理しようと思って……」
「着る必要はないんじゃないの」
「なんとなく」
「あんな小柄なひとの服でも、カナちゃんが着るとぶかぶかなんだ」
「ネクタイの結び方が判んないの」
「ああ、それで蝶結びにしてるんだ」
「うん」
「結んであげる」
「……なにすんのー」
「なんとなく…

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おぢぎしてまいりましょう

おぢぎしてまいりましょう

 そこそこのアパートの部屋に、こそこそとひとりの男が這入ってきた。別にこそ泥ではない。では、ナニ故こそこそしてるのか。それは同居人、と云うか勝手に居座っている山田一要なる青年が、実にドメスティック・バイオレンスな人間だったからである。
 殴る蹴る、ものを投げつける、そこまではまだいい。世間一般の男子より女出入りの激しい彼はどうした訳か、此処の世帯主である男に接吻する癖があったのである。
 部屋の主

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もてあまして、わけがわからなくて

もてあまして、わけがわからなくて

 
 山田一要という青年に出会ったのは、亮子が死んでから三年後のことである。
 彼はおれに会うなり、持っていた携帯電話を投げつけてきた。何を考えているのだ、と思っていたら、彼を連れてきたキハチが大笑いした。
「一要、幾ら嫌いだからって、ものも云わずにそんなことすんなよ」と云って彼を宥めている。訳が判らなかった。
 キハチの『いわずもがな』という映画に出演する為の打ち合わせの席である。彼は二十才で、

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