3度目のソロキャンプ② くだんのギアを楽しみつくす 雷雲襲来で腹をくくる編
前回、「今回のキャンプにはある特別な〝目的〟がある」と書いた。
それは「新しく入手したあるギアを初めて使ってみる」ことと、自分にとって人生初の経験をしてみるというミッションだった。
というわけで、件の新ギアの紹介を。
ソロキャンをなさる方の中には「知っている」とか「使ってるよ」とかいう方も多いかもしれないのだが、
埼玉県の板金職人、笑さんが試行錯誤の末生み出した超コンパクト焚火台、『笑's b6君』
インスタでフォローさせていただいているあるソロキャンパーさんが使っているのを見て、「おお! 何て素敵な!」と思い、次のキャンプまでには絶対手に入れようと思っていた品物だ。
そのギミック感と感動すら覚えるキッチリな収納性、コンパクト過ぎるほどのサイズ感に私は一瞬で魅了されてしまった。
ちなみに、ぼっちキャンプで人気を博すあの芸人のヒロシも愛用しているそうだ。
そして私には「焚火憧れ」というものがあった。
実は焚火というものを、これまでの人生で一度もやったことがない。
前回のソロキャンプでお隣さんが焚火をして楽しんでいるのを横目で見て、カセットコンロしか持っていなかった私は「いつか焚火というものをしてみたい!」と強く思ったのだった。
『2度目のソロキャンプ③』
2度目のソロキャンプで初めてどなたかとお隣になり、色々考えたことを書いています。笑える感じもあるので、よろしければぜひ読んでみて下さい (^o^)/
さて、b6君の話に戻ろう。
この小さな焚火台、畳むとリアルにb6サイズである。重さは何と脅威の500g。片手で楽々持ち運べる。
ステンレスの軽量さ、組み立て時の差し込みのちょうどいいフィット感、そしてソロキャンパーにとって何より嬉しい、「おひとり様」用のサイズ感はまさに絶妙だ。
テントの設営を終える頃には、既に全身滝汗をかいていた。
標高の高いところの夏キャンプとはいかなるものかという経験もしたくて気温・湿度計も携えて乗り込んできた私だった。
正直な感想として、やはり夏のキャンプは「暑い」。
高いところ=太陽が近い という法則は普遍のもので、以前行った「天空の杜キャンプ場」という標高600m余りのキャンプ場で実感していたのだが、やはり太陽光の強さは平地で感ずるものとはレベルが違った。さらにここは、その倍の1200mの高地なのである。
それでも大いなる利点があって、それは時折吹く風が、暑さを忘れさせてくれるほどに素晴らしく涼しいということである。しかも空気の〝質〟がいいというか、何かもう体に触れるだけで暑さも邪気も洗い流してくれるような清らかな何かを得られるのだ。
その風に助けられてひと息つき、
「さあ、何から始めようか。とりあえずビールで喉を潤す? それとも先に軽くつまむ何かを用意しようか……」
などと考えていると、背後の東側の空から
ゴロゴロゴロゴロ……
という不穏な音がしてきた。
しまった、やはり雷雨の襲来か!
途端に気色ばむ私。もし雷雲が真上に来て、大量の雨を降らせようものなら、せっかく今設営を終えたばかりのサイトを全畳みして車へ撤収しなければならない。
そんなことになれば、このキャンプは台無しだ。
スマホを手に取り、必死に雨雲レーダーを追った。
雨雲レーダーの地図上では、濃い青色と薄い水色の四角いピクセルが不規則に変化しながら我がサイトの上にかかりつ消えつしていた。降るような降らないような。
うう……これじゃあ実際どうなるかわからない。
今目の前にセッティングしたばかりのb6君をどうすればいいのか、しばし思案する。
ええい、ままよ!
私は覚悟を決め、逃げも隠れもせずb6君に火を入れ、焚火を始めることに決めた。
ソロキャンのいいところは、キャンプにおける全責任を自分ひとりに帰結出来るというところだ。それゆえにちょっとした無茶や冒険、運を天に任すゴリ押しも可能となる。
意思決定するも自分、それによって救われるもダメージを受けるも自分。全てを自己完結出来るということに、逆に安心感と小気味よさを覚える。
ゴロゴロゴロという音と、不穏な色合いを帯びた雲が東の方角から徐々に近づいてきた。
もういいや、なるようになるし、
なるようにしかならん。
濡れるなら濡れるで。夏だしそうそう風邪ひくこともあるまい。テントやギアは、そう、出来るだけ速く動いて車の中に投げ込んでしまおう。濡れたら困るスマホやモバイルバッテリーとかを最優先で守って。
雷は……怖いけど、いざとなったらこのステンレスから離れればいい。いや、高い木がいっぱいあるからそっちに先に落ちてくれるか?
短時間の間に、めまぐるしい思考が頭の中を駆け巡った。
よし。そういうことだ。
腹を決めた後は、迷いは無かった。
山の天気は変わりやすい。この時点では、この先どうなるか本当にわからなかった。
雷の音に少しく怯えながら、それでもいそいそと我がb6君に焚き付けの小枝と炭を入れ、着火剤をまき、点火を試みる。
人生において、「初めての経験」というものは一度しか味わえない。
その意味において、今回の焚火デビューは人生の節目とも言えそうなほど思い出深い経験になった。
その思い出の一端を担うべく、私は焚き付けの枝に特別な木を用意していた。昨年家の庭木を切った時に大量に出た枝を細かく折って「いつか焚火デビューする時の為の焚き付けに」と分けておいたのだ。
人生初の焚火には、市販のものでもなく拾ってきた小枝でもなく、自分で切って用意した思い入れのある小枝を、と。
それほどまでに、私は焚火デビューにロマンを抱いていた。
だが、準備の熱量と実際の行動における裁量とは必ずしも比例しないものだ。それを私は嫌というほど思い知った。
最初は順調に燃えてくれていると思われていた焚き付けの枝は、燃えにくい性質の木だったのか(何しろ庭で切ってきた名前もわからない木である)幾度も立ち消え、炭に火が移るまでかなりの時間を要してしまった。
しかもその間、風はずっと自分に向かって吹いていたものだから、火が消えるたびに私は煙を浴び、目が痛くなった。
更に持ってきたバーナー式のチャッカマンはなぜかこの日調子が悪く、何度カチカチやっても火が点いてくれない。たまに気まぐれに点いてくれる時を利用して、何とか小枝に火をつけることが出来たのは幸いだった。
だがあまりにも不調なので、しまいにはカセットコンロを持ち出してきて、それで小枝に点火する始末だった。
カセットコンロは持ってくるかどうか迷ったのだが、やはり必需品であったと痛感した。
そしてとうとう、今日のメインディッシュと言っていいであろう、お肉を登場させ、お気に入りのステーキスパイスでしっかりめに味付けをする。
出がけにAコープで買い込んできた食材の内のひとつである。本当はドンと1枚のステーキ肉を買いたかったのだがあいにく売られていなかった。
それでもカイノミの部位を見つけることが出来たのは、偶然とは言えラッキーだった。
ほど良くサシの入ったカイノミを、炭火で温まりつつあるグリルに乗せて焼いていく。
まだ温度が低かったらしく、期待した〝ジューーッ!〟と威勢のいい音が出なかった。
大自然に吹く風が、炭火焼肉のヨロコビをいや増してくれる。
炭火が強まるまで根気よく待ったが、その間ずっと遥かな山と雲の景色に見とれていることが出来た。
ようやく焼肉らしく焼けてきたので、トングを使って全て裏返す。
トングを使いながら写真を撮るというのは至難の業で、成し遂げられなかったので写真が無いのだが、この「トングを使う作業」というのがまたいかにもキャンパーらしく感じられてひとり悦に入っていた。
初心者ソロキャンパーの味わうことの出来る喜びのひとつである。
酷暑に喘いでいた2024年の夏、
8月24日の午後3時27分である。
低地と同じく湿度は高いが、気温はこの通り。
降り注ぐ強い陽射しの暑さを差し引いても、快適であった。
そして、満を侍して取りい出したりますのはこのビール……
ドイツ産の、私にとっては特別なビール。
去年ソロキャンデビューを果たすに当たって初めて携行したソロキャンのお供ビールだった。
そしてその爽やかでフルーティーな味わいに感動を覚え、後日もう1本買い足してこの日まで大事に取っておいたのだ。
見たところもう今はスーパーやネットでも販売していないようなので(次回の輸入を待たねばならないのか)、貴重な1本ということになる。
初めてのソロキャンも、全サイト貸切状態でソロを堪能させてもらった。
ラッキーな境遇で感じたあれやこれやを書いたエッセイがこちら:
初めてのソロキャンプ…2つの邂逅とひとつの閃きの覚え書き|縣青那 (あがた せいな) (note.com)
読んでみてやって下さい。(^_^)
カイノミが焼け、ビールもグラスに注がれた。
完璧な瞬間であるはずのところが、焦ってビールを速く注ぎ過ぎてしまい泡だらけに……。嬉しさをまだ上手くコントロール出来ない初心者ソロキャンパーの哀しさである。
いい感じに泡が収まるのを待ち、減った分を注ぎ足して
標高1200mの絶景に乾杯!
夏の柔らかな睦まじい空気の中、ぐびぐびぐびと誰に遠慮することもなく喉を潤す。
これこそ待ち望まれていた瞬間だった。
……だが、楽しみはまだまだ終わらない。
地元のAコープには、朝採れたてのアサリが売られていた。
量り売りで、大きいものを選びながら適当に計ったら、530円分になった。
保冷バッグから取り出してきた袋を、ニンマリしながらそそくさと開ける。
とりあえず様子を見る為に、グリルの上に3つだけ置いてみる。
お肉が半分を占めていたからという理由もある。
適当。
ここで火の具合を見ながら貝が口を開く「ぱっかりんちょす」の時を待つ。
楽しみだ。
そうしていると、背後の方から流れてきていた黒っぽい雲がその面積を広げてきた。厚みも増しているようだ。
「やばいな……。大惨事とあいなるか」
覚悟は決めてきたはずだった。だけど今この〝宴もたけなわ〟状態の時に(ひとりだけど)、そんな無粋なことをしてもらいたくなかった。
その時咄嗟に、私はひとり奇妙なことをした。
自分でも何故そんなことをしたのかわからないのだけれど、
空を見上げ、手を振り回しながら
「あっち行ってよライディーン!」
と叫んだのだ。
……何故ライディーンだったのか。口を突いて出た言葉で、何を意味するのかも我ながら不明だった。ただ、「雷神」という言葉が脳内で訛って発せられた言葉なのではないかというような気もしていた。
「何じゃライディーンって?」
自分でも思い、帰宅してからネットでググッてみると、昔YMOの楽曲に『Rydeen』というものがあったそうだ。そして少年向けのテレビアニメ『勇者ライディーン』というものも。
Yellow Magic Orchestra – “Rydeen“ (Official Music Video) (youtube.com)
そう言えば過去に何回も聴いたことのある懐かしいメロディーだ
YMOが『Rydeen』という曲を出していたことさえ知らなかったが、それは確かに〝雷神〟という語感から発したイメージに基づいて作られたものらしかった。的を得ているな、では間違っていなかったのだな、と合点する。
私の焦った頭の中で、おそらく〝雷神〟という語感とアニメ『勇者ライディーン』のテレビアニメの記憶がごちゃ混ぜになって苦し紛れに自然発生したものだったのだろう。
ということにする。
まともに観たことは無かったけれど、
こういう巨大メカロボットに人が乗り込んで戦う図式って
機動戦士ガンダムやエヴァンゲリオンの原型みたいなものよね
されど結果として、ごちゃ混ぜの出鱈目〝逆雨乞い〟は
奇跡的に功を奏した。
雨は降らぬままアサリは元気良くパカッと口を開け、こぼれた汁をグリルの隙間に落とし、下の炭はジューッと音を立てた。
動画を見せられないのが残念なくらい、完璧な「ぱっかりんちょす」だった。
雷神はこの哀れで卑小なソロキャンパーを見逃してくれることにしたらしく、炭火を絶やさぬようにと格闘している間に、知らぬ間に黒雲はどこかへ去ってしまっていた。
嬉しい!
調子に乗った私は、次々に焼きものをグリルに乗せ、焼きに焼いていった。
Johnsonvilleのソーセージはチェダーチーズ入り。
焼けると表面が弾けてその勢いで向こう側に落ちてしまいがちで困った(笑)。
でも焼きあがった時はチーズがハミ出て何とも美味~♡だった。
炭火グリルで焼くには最適な食材!
さてここで取り出したりまするは、伝家の宝刀カセットコンロ……
思ったより貝の数が多かったので、急遽貝汁を作ることにした。
いつもはコーヒーのお湯を沸かす為に使っているシェラカップに貝をみっちみちに入れ、水を注ぎ、点火。
何ともイージーに火が点いて安定してくれるカセットコンロへの信頼感は半端ない。
このまましばらく放置して、貝が汁の中で「ぱっかりんちょす」するのを待つ。
そして、今回塩を持ってくるのを忘れたので宮崎の道の駅「よっちみろ屋」に寄って買った「北浦月の塩」をひとつまみ入れる。
貝の味だけでも充分だったかもしれないが、この海水のみから作られた塩を加えれば、間違いなく美味しくなるはずと踏んでのことだった。
ここで、保冷バッグから取り出したキンキンに冷えた日本酒を
1杯だけグラスに入れて飲む。
この慎ましさはどうしたことかというと、私にはひとつ、あるもくろみがあったのだった。
実を言うと今回私は、b6君と別売りの魅力的なオプションを用いて
ある欲望を満たすことをもくろんでいた。
少しずつ黄昏の雰囲気が差し始めた頃……。
午後4時50分の高地の温度は22.9℃。
低地では西日が浸食してうだるような暑さになる時刻なのだが。
陽射しが弱まってきているせいだろう、もはや暑さは感じずかなり快適に過ごせていた。
ただ温湿計では湿度がかなり高く、
何と88%。
だが肌にジトジトするような不快感は皆無だった。
高地の夕暮れが近づく時間……
私はこのキャンプのピークタイムを担う
ある道具を取り出した。
じゃん!
b6君オプションの、『笑's・B-6君専用 ステンレスメッシュ カン(燗)グリル/SHO-0066』
である。
これをb6君の上部に設置し、ステンレスカップに水を入れ、日本酒を入れた徳利を浸して熱燗を作る。
これをしたいが為に、今日のキャンプを企画したと言っても過言ではない。
熱燗をつけている間に、しっかり貝汁も出来上がった。
カセットコンロがいい仕事をし過ぎてシェラカップの取っ手が熱くなり、皮の手袋だけでは持てないほどだったので不織布シートを重ねた。
月の塩は思った通りいい仕事をしてくれていて、
これまでに飲んだどんな貝汁より美味しかった!
(ぶっちゃけこのキャンプで一番美味しかったのはこの貝汁)
すっかり焼きあがって、後は食されるのを待つだけの
お肉とソーセージ♡
待つ時間もまた楽しい。
お肉が冷えてしまったのでグリルの上で温めなおす。
一緒にミニトマトを焼いてみたが、異常に甘く美味しくなってビックリしたものだ。
熱燗とグリル料理を堪能していると、何と突然霧が出てきた。
……聞いてないよ~…… 予報も無かったよ~…… と、一瞬ビビる。
けれど霧は何の悪さをすることもなく、自然にス~ッとはけていった。
雷神より全然怖くもなく、静かでいいヤツだった。
トマトと共に、ジョンソンヴィル君もグリルにのっけて温めなおす。
焼くと甘くなることを学んだトマトは大目に搭載。
山の向こうがゆっくり夕映えに満ちていく。
彼方の景色を見ているだけで、
この時間だけはTVもYoutubeもいらなかった。
夏だからだろう、日が長い。
夕暮れの時間は、意外にゆっくり過ぎていった。
そろそろ日が暮れてくる時刻。辺りが薄暗くなってきた午後7時01分。
気温が下がってきたけれど、湿度は逆に爆上がり。
それでもベトベト感じず気持ちがいいというのは不思議だった。
焚火の火を絶やさないよう細心の注意を払いながら
お腹を満たし 熱燗を愉しみ
空を見上げては
「来て良かった~」
「今日は何て色々ラッキーだったんだ」
と、自分に語りかけながら
ひとりキャンプサイトに抱かれて
夜を迎えた。
3度目のソロキャンプ③
孤独で平和な夜 無になる焚き火とテントで読書編
に続きます。