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子供のウエイトリフティング選手における障害予防の考え方:02[練習の進め方]

アスレティックトレーナーのあおしまです。01に続き、小中学の成長期にあたるウエイトリフティング選手や、初心者を対象とした怪我予防のポイントについて考えていきます。



1. レップ数より、セット数で調整する

ウエイトリフティングでは、ボディビル系のワークアウトと比較すると「筋肥大」のための練習に特化することは少なく、1週間の中でも高重量に挑戦する機会の方が多くあります。

もちろん、筋肉の基礎力やリフティング技術が伴わないままに、高重量への挑戦をすることはありませんが、それでもパワー発揮(最大速度を伴う挙上)が求められるため、速筋線維に注目した力発揮を行います。

セットの内容に集中し、量はセット数を増減させると調整しやすい

速筋線維の瞬間的な活動を強調するウエイトリフティングでは、神経生理学的な伝達機構に起因する疲労が現れます。 これは、筋線維自体の損傷やエネルギー枯渇というよりも、神経-筋間における情報伝達システムの活動低下によって、筋収縮の緊張が下がり力が出なくなると考えられます。

パワー発揮(爆発的な筋収縮)を必要とするウエイトリフティングでは、筋肉の収縮速度が低下してしまうと、動作のタイミングやバーベルの挙上高に大きく影響します。フォームを崩したまま挙上の動作を行うことになれば、無理な動作、代償動作を許容することとなり、思わぬ怪我の危険を引き上げてしまいます。

神経生理学的な疲労からの回復は、他のエネルギー回復(ATPの再合成)と比較しても時間がかかります。そのため、セット間の休息を長めにとり1セットの中では、集中した全力・最大速度の動作が反復できる回数(レップ数)で終えることが大切になります。

成長期のトレーニングでは、数多くのフォーム練習を必要としながらも、重量増加に挑戦したくなるものです。

この時、この神経系疲労をコントロールして、怪我なく動作学習をしていくためには、1セット内の質が特に重要です。

だとすると、トレーニング量(重さ×レップ数×セット数)を保持しながら練習を重ねていくには、セット数を優先して増やしていく事が、動作の正確性を保ちつつ、重量への挑戦と量の確保にバランスがとれるようになります。

初心者や、小中学生であれば、1セット内のレップ数は、3〜5レップの中で動きを確認しながら行い、±2、3レップの振り幅を調整すると、安全を確保しながら動作に集中できるように思います。

これを、練習内容によって変化しますが5〜8セット程度で、休息を挟みつつテンポよく実施するのは、やりやすいでしょう。

もちろん、試合や記録会、大人数で交代しなければならない事情がある場合は、このようにはいかないでしょうが、集中力と怪我との関係性が深い競技だけに、惰性での実施は避けるべきです。


2.「失敗」を繰り返す練習は避ける

ウエイトリフティングの練習は、全てを頭上や胸元に挙げるばかりではありません。スナッチやクリーンの技術も分解することで練習メニューにバリエーションが生まれます。

例えばスナッチ技術は、最初の構えの姿勢から膝下までバーベルを引き上げる1st Pull、膝を越えてから太ももの付け根付近まで引き上げる2nd Pullとでは、別の技術として練習をするのが重要になります。

特に、スナッチ技術は、一度の動作で一気に頭上まで跳ね上げるために、キャッチ技術が未熟なままだと、何度も落としてしまう可能性があります。技術の失敗場面が不要なわけでなありませんが、失敗の原因となる直前動作の検証と改善練習がないままに、失敗を繰り返していくのは避けるべきです。

これは、先のレップの話でも出てきましたが、「神経-筋肉の伝達系」に力発揮の依存度が高いことを考えると、回を繰り返すほどに成功の可能性はどんどん下がるだけでなく、「不良な動作パターン」の動作学習が進んでしまうことも意味しています。

高重量へ挑戦する機会(日)と、そのために分解された技術練習に集中する機会(日)とをメリハリをつけて組み立てていくのが必要になります。

3.「成功技術」で練習を終わる


目的とする動作の「成功イメージ」を印象付けてその日を終了させるのが重要

上でも紹介したように、技術習得のための反復練習が中心となるのが競技の特徴です。そのため、種目練習や分解した個別技術においても、最後のセットは「正しい動作を行って終了する」ことが大きな意味を持ちます。

私たちの日常でも、強く印象の残る記憶は、最後の瞬間、最後の1回の出来事だったという経験があると思います。メインとなる技術練習や重量への挑戦を実施した後に、コントロールが正確にできる重量に再設定して、最後の1セットを実施することをお勧めします。

集中力が技術の精度に深く関わり、精度の高まりが怪我を予防することを考えても、感情を伴いながら、強く印象を受けるであろう「最後の1セット」の終え方が、次回練習・試合への最適な準備となるでしょう。



(参考文献)
・公社)日本ウエイトリフティング協会指導教本2022
・日本トレーニング指導者協会トレーニング指導者テキスト(実践編・理論編)大修館書店
Olympic Weightlifting: A Complete Guide for Athletes & Coaches (English Edition):英語版/Greg Everett
・NASM ESSENTIALS OF SPORTS PERFORMANCE TRAINING 2nd edition


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