胸が熱くなる,漫画を取り巻く人の想い -集英社マンガアートヘリテージ@麻布台ヒルズ
11月某日、麻布台ヒルズ。
そのギャラリーとは偶然出逢った。
はじめに目に入ったのは、尾田栄一郎「ONE PIECE」の、あまりにも有名な場面。
厚紙にぎゅっと印刷された、美しい1頁。作家のサイン入り。
気になったのは、対になるように撮影された、画面右の写真だ。活版の版を撮影した写真とセットになっているわけだが、その意味は?
いわゆる漫画関係の展示とは、なにか異なるものを感じる。
Regenesis=復活、の意味
少し長くなるが、尾田栄一郎「ONE PIECE / Regenesis」から、会場で上映されていたフィルムの画面写真とともに、下に引用していく。
これは、この美しい印刷の仕上がりからもわかる。
その通りで、漫画の原画の息を吞むような美しさと、手描きの文字を写植屋さんが写植にして貼り込んでいく過程は、かつての仕事で目にしていた。
しかし、次に記されていることは、知らなかった。学生のときに新聞部だったので、活版にはなじみはあったけれど。
オーバーパーツ→アート
そしてここまで読んで、やっと腑に落ちた。
だから、この「対」には、多くの意味が含まれている。
「ONE PIECE」名場面の数々
というわけで、ほかの名場面も。すべて販売されており、売約済みも多かった。
「Real Color Collection」シリーズ
会場の半分は、アーカイバル・インクジェット・プリント作品「Real Color Collection」シリーズが展示。同様に販売もされている。
作品(+歴史文化)→アート
見終わって、感慨にかられた。理由は主に2つだ。
まず。本を作る作業は、昔と比べれば考えられないくらい楽になった。会社員として編集に携わっていた頃、とくに駆け出しの頃は、「会社に住んでいる」というような日々を送っていたが、それは手を使わなければならない作業量が多く、致し方なかった面が多い。
今では在宅しながらの仕事でも問題のない作業が増えた。便利な時代と、かつて自分が居た時代&その前の時代へのノスタルジア。
次に。出版不況といわれ始めてから、かなり長い年月が過ぎている。経費の削減をすすめていくなかでは、主にIT化による作業の軽減があった。
前述のように、編集に関する作業はかなりの部分の短縮が可能になった。ウェブ媒体のように、そもそも印刷をしないことを前提としたコンテンツも増えている。ただ、(ありがちな文章展開ではあるが)、もちろん喪われたものも大きい。
漫画原画の美しさ、は、(直接の担当ではなかったが、)かつて、真夜中の編集部で、仕上がったばかりの原稿に写植屋さんから上がってきたネーム(セリフや文字部分)を貼り付ける担当者、の作業現場を見て体感した。
そのまま飾っておきたいような美しい手描きの絵が、印刷されることで、雑誌の一部になっていくさまを、不思議な気分で見ていた。
先細っていく、印刷文化に
原画や、漫画の特別な1p、1シーンを作品として取り出し、アートとして販売する、というアイデアは素晴らしいし広がってほしい。
でも今回、わたしが受けた感慨は、その先にあった。ここでの試みには、歴史、文化の要素が加わっている、というところだ。
さきほどの引用文を再掲する。
「金属版×活字によるマンガの印刷を再現」によって、ここに歴史という軸が刻まれた。印刷前の金属板→印刷後の作品。
この「2枚で1枚」の作品の持つ奥行、重み。
上手なビジネス、でありながら、商売を超えた使命感のようなもの。
作家、編集者、職人。作品作りに携わるすべての人の、想いが伝わってくる。「ジャンプ」作品ではないけれど、そこに胸が熱くなる。
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