Abbey -旅するように暮らす、暮らすように旅する-

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Abbey -旅するように暮らす、暮らすように旅する-

美術展訪問記,アートや旅の写真を投稿しています。 https://www.instagram.com/y.abbey_shintoshin/ https://www.amazon.co.jp/stores/author/B0BDBZ3F2S

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自分の鼓動を島に置いてきた -[心臓音のアーカイブ] クリスチャン・ボルタンスキー(豊島)

 某日、豊島(てしま、香川県小豆郡土庄町)。  唐櫃(からと)港から、海沿いに歩く。  屋外展示のアートを鑑賞しつつ、  案内の看板を頼りに、炎天下の下、港より徒歩15分ほど。  小さな美術館に行き着く。  ここに保管されている作品は、人々の「心臓の鼓動」だ。 人々の生きた証として心臓音を収集  このアートの意図は、以下の記事に詳しい。  記事によれば、作家自身の心臓音の鼓動にあわせてが展示室に電球が明滅するアート作品、それが「心臓音のアーカイブ」の原型だとい

    • 色彩の調和,あるいは軋轢の美 -山口 彩美[SURFACE OF MOON LAKE]

       某日、天王洲アイル。  山口 彩美「SURFACE OF MOON LAKE」(〜10/19) 言葉になる以前の、どこか惹かれる感覚  抽象画なので当然のことながら、作品を観てなにか言葉が浮かんでくるわけではない。ただ、色彩の対比だったり、表面の凹凸の妙が、観る側の奥深くに入り込んでくるように感じられる。  その感覚は、どこかリズムを伴う。もしかしてリズムをもたらすように、展示が工夫されているのかもしれない。 吸い込まれそうな大型作品の前で  会場には3点の大型

      • 静謐な画面のなかで起きる大きな変化 -ジョニー・アブラハムズ[24 Colors for Junichi]

         某日、天王洲アイル。 観る者を惑わせる「素朴さ」  ジョニー・アブラハムズ「24 Colors for Junichi」(-10/12)  作品は、遠目に見ると、色彩のコンポジションのようだ。しかし近寄ってみれば、それらは粗いキャンバスの上に塗られ、木の枠がはめられている。  そこには、自然素材ならではの、きっちりとはいかない振幅が、はっきりと残っている。その「素朴さ」は、もちろん「敢えて」なのだろう。そこがとても気になった。 最後のところを偶然に委ねる  解説

        • ”黒い水”に溶け出す,不安と好奇心 -菅原ありあ[Black Water](-9.8)

           某日、宮下PARK@渋谷。 伝統的な水墨画と思いきや  墨一色と、その濃淡で表現された作品たち。遠目から見れば、伝統的な水墨画の技法で、作家独自のモチーフを描いているように見える。 タイトルの妙  近づいて気が付いたのは、タイトルのおもしろさだ。 ■ ■■ ■ ■■ ■ ■■ ■ ■■ ■ ■■ ■ ■■ 「Black Water」の意味  人ひとりが通れるくらいのスペースにも、小作品が展示されている。  通常の絵画ではあまり描かれないような、モチ

        自分の鼓動を島に置いてきた -[心臓音のアーカイブ] クリスチャン・ボルタンスキー(豊島)

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        • 豊島 棚田と豊島美術館
          4本
        • 旅,写真
          77本
        • ギャラリー,イベントで出逢った作品
          132本
        • 美術館企画展【2022-】
          63本
        • アーティゾン美術館(京橋)
          7本
        • 森美術館(六本木ヒルズ)
          23本

        記事

          全身に香りを纏う -ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY: Imagination of Salt @ 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3(-9/8)

           某日、乃木坂から六本木。 "香りのインスタレーション"で新作香水を全身に纏う  会場の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3が見えてくると、  突然、霧?とともに、ほのかに何かが香ってきた。  新作のフレグランス、「ル セルドゥ イッセイ」。主張しすぎない、しかし気持ちを鎮静化させるような、みずみずしい香りだ。  冷たいミストとなったそれを全身で楽しんだ。なんて自然で、粋なプロモーションなのだろう。  このインスタレーションは、フレグランスボトルを

          全身に香りを纏う -ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY: Imagination of Salt @ 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3(-9/8)

          [異彩]との出逢い -HERALBONY Art Prize 2024(大手町,-9/22)

           某日、大手町。 どこにもなかった言葉「ヘラルボニー」  ヘラルボニーについては、以前も書いた。  精神疾患や障がいを持つアーティスト=「異彩」作家、に特化したアートエージェンシーだ。  この組織の代表は、双子の兄弟。  社名の「ヘラルボニー」は、そもそも世界のどこにもなかった言葉で、彼らのお兄さん(異彩を持つ)が、昔繰り返しつぶやいていた言葉を、社名にしたという。わたしはこのエピソードがとても好きだ。  さきの成田空港の例もそうだが、企業コラボも多く手掛け、商業

          [異彩]との出逢い -HERALBONY Art Prize 2024(大手町,-9/22)

          無限のつながりと[7人の侍] -向山喜章「Inishie・7」

           某日、六本木。Yutaka Kikutake Gallery   向山喜章「Inishie・7」(-9/7)  イニシエ・シチ、と読む。  内容がすこし難解に感じられるので、はじめに解説と記事を。 予備知識なくして観た印象  個展タイトルから7、という数字がキーワードであることはわかっていたけれど、7人の侍がモチーフであることはあとから知る。  きちんと一列に、まるで整列するかのような本作は、しかし一点ずつをみれば実に個性豊かだ。  個々が存在感を放ちつつ佇んで

          無限のつながりと[7人の侍] -向山喜章「Inishie・7」

          休息,すべてやり尽くしたその後で -伊藤彩[PASSING WIND]

           某日、六本木。  @comprex665  伊藤彩展「PASSING WIND」(-9/7) 色彩の渦のなかで  白い空間に、きらきらとした画面が浮かび上がる。 「精神の休暇」の場  奥の展示室では、  横たわる存在と、  まるでナースのような雰囲気の、女の子?の像。 静かで幸せに満ちた空間  「全てをやり尽くした人」、すなわち「I AM DONE」は静かに横たわる。目からあふれていたのは、涙だったのか。  ちょっと離れた距離にいる、毛糸の髪の毛の粘土

          休息,すべてやり尽くしたその後で -伊藤彩[PASSING WIND]

          静謐な画面から立ち上る"動き"の気配 -井上七海 [魚は水を知らない]

           某日、天王洲アイル。  井上七海・個展「魚は水を知らない」(-9/7)@KOTARO NUKAGA Three 「スフ」  昨年の個展で初めて知った「スフ」。  一見すると、「方眼紙」。  直線を1本ずつ手描きする、気の遠くなる作業。やがて線の反復が完成していく、作家の代表作。  会場では、「スフ」の制作風景の動画も観た。 「表と裏のためのドローイング」  紙に施した刺繍。その線が紙の表面のみならず、裏面までをも行き来する「表と裏のためのドローイング」。

          静謐な画面から立ち上る"動き"の気配 -井上七海 [魚は水を知らない]

          蘇る,熟れた果実の匂いと生き物の気配- 木村充伯[匂い]

           8月某日、六本木。  木村充伯 - 匂い@ケンジタキギャラリー 六本木(※8/7までという案内だったが、8/24現在では、まだ開催されていた) 匂いの記憶、存在の気配  入口を向いて立つ、ふしぎな雰囲気の木彫りの人形に興味を惹かれて中をのぞいてみれば、  その白い空間の壁一面に、フルーツのオブジェが展示されていた。  それぞれの果実の中には、人?が生息しているようだ。 記憶の中から、匂いが呼び出される  会場には、リアルではないのに妙に存在感のあるコウモリや、

          蘇る,熟れた果実の匂いと生き物の気配- 木村充伯[匂い]

          空白の創造 誕生あるいは消滅 -稲葉友宏[A STORY THAT YOU SEE](-8/31)

           8月某日、天王洲アイル。  稲葉友宏 個展「A STORY THAT YOU SEE 」(-8/31) 形のない「空白」の造形  観た瞬間に、とてもふしぎな気分に駆られる。 誕生?あるいは消滅  作品たちそれぞれの姿には、生き物ゆえの生気が感じられるのだが、否それだからこそ、  その中心にある「空白」から、目が離せなくなる。  彼らは今まさに、(どこかから転送されてきたかのように)この地に誕生しているのか、その反対に消滅しかけているところなのか?  それは定

          空白の創造 誕生あるいは消滅 -稲葉友宏[A STORY THAT YOU SEE](-8/31)

          芥見下々『呪術廻戦』展(-8/27) -作品世界という[領域]を愉しむ

           某日夕方、渋谷。  大変遅ればせながら、芥見下々『呪術廻戦』展へ。  会場は渋谷ヒカリエ。作中で2018年に勃発した「渋谷事変」の舞台の地でもある。 時間予約制、入場まで30分  予約は時間制で、さらに3グループに分けての入場となる。入場できるまでに30分ほど待った。  子どもたちが多いのかと思いきや、時間帯もあってか、入場待ちをしている来訪者はほぼ全員大人、しかも20~60代といった幅広さの方々で、ちょっと嬉しくなる。  入場記念のステッカー。 写真撮影はN

          芥見下々『呪術廻戦』展(-8/27) -作品世界という[領域]を愉しむ

          異文化,批評の眼差し -生誕130年記念 北川民次展[メキシコから日本へ]

           8月某日、大阪から名古屋へ。  翌日、名古屋市科学館と、  名古屋市美術館へ。 「生誕130年記念 北川民次展―メキシコから日本へ」  自画像にはじまる、膨大な点数の回顧展。 1921年メキシコ移住、大戦前に帰国  北川⺠次は、歴史の大変動のさなかを生きた画家だ。  メキシコ時代の作品は、どこかゴーギャンを思わせるような色彩に満ちていた。 日本への帰国、戦争の足音  太平洋戦争開戦前に帰国して描かれたその作品には、当時の世の中の雰囲気が漂っている。  下

          異文化,批評の眼差し -生誕130年記念 北川民次展[メキシコから日本へ]

          ひと筆に籠った熱量,理想的な展示空間-[没後30年 木下佳通代]展(-8/18)

           8月某日。京都から移動し、大坂滞在。  大阪中之島美術館。 ヤノベケンジ作品がお出迎え  猛暑のなか、ヤノベケンジ「SHIP’S CAT (Muse)」が迎えてくれる。  この猫さんは、全国各地に。銀座シックスでも出逢った。  館内には、同じくヤノベケンジ作品「ジャイアント・トらやん」。 圧巻の、「没後30年 木下佳通代」展  お盆期間。前日の村上隆展では、人混みを鑑賞することとなったが、  ここは、静けさに満ちている。  はじめに書いておくと、圧巻の展覧

          ひと筆に籠った熱量,理想的な展示空間-[没後30年 木下佳通代]展(-8/18)

          人混みゆえに,細部に気づく -村上隆[もののけ京都]

           友人たちと某所の古民家で夏を愉しみ、解散のあとで京都、大阪、名古屋に一泊ずつしつつ、美術館の梯子をして帰京。  某日、京都。平安神宮。 会場外の、超大型作品×2  美術館入口から展示室までは距離があり、階段を上った先のホールには、  2体の鬼の像が、あたかもゲートキーパーのように立っていた。  その先のガラス越しには、こんなようすが見えて、  外に出てみれば、そこは記念撮影スポットのような賑わい。  「お花の親子」と、  ルイ・ヴィトンのトランクの巨大インス

          人混みゆえに,細部に気づく -村上隆[もののけ京都]

          既知の風景が鮮やかに上書きされる -平 久弥「渋谷」

           平 久弥 個展「渋谷」@NANZUKA 2G(渋谷 PARCO、7/12– 8/11) 何気なく見ていた風景の存在感  さきの説明にもあるように、本展「渋谷」で描かれているのは、渋谷界隈を訪れたことがある人なら「ああ、ここは渋谷スペイン坂の……」というふうに、気が付く場所ばかりだ。  そしてそれは決まって、待ち合わせ場所に使われるような目立った地点でも、立ち止まって眺めたりする印象深い場所でもなく、ただ一瞬通り過ぎてしまうような一地点でもある。  フォトリアリズムの

          既知の風景が鮮やかに上書きされる -平 久弥「渋谷」