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美術館企画展【2022-】

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大規模企画展を中心とした記事をまとめたマガジンです。
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記事一覧

異文化,批評の眼差し -生誕130年記念 北川民次展[メキシコから日本へ]

 8月某日、大阪から名古屋へ。  翌日、名古屋市科学館と、  名古屋市美術館へ。 「生誕130年記念 北川民次展―メキシコから日本へ」  自画像にはじまる、膨大な点数の回顧展。 1921年メキシコ移住、大戦前に帰国  北川⺠次は、歴史の大変動のさなかを生きた画家だ。  メキシコ時代の作品は、どこかゴーギャンを思わせるような色彩に満ちていた。 日本への帰国、戦争の足音  太平洋戦争開戦前に帰国して描かれたその作品には、当時の世の中の雰囲気が漂っている。  下

ひと筆に籠った熱量,理想的な展示空間-[没後30年 木下佳通代]展(-8/18)

 8月某日。京都から移動し、大坂滞在。  大阪中之島美術館。 ヤノベケンジ作品がお出迎え  猛暑のなか、ヤノベケンジ「SHIP’S CAT (Muse)」が迎えてくれる。  この猫さんは、全国各地に。銀座シックスでも出逢った。  館内には、同じくヤノベケンジ作品「ジャイアント・トらやん」。 圧巻の、「没後30年 木下佳通代」展  お盆期間。前日の村上隆展では、人混みを鑑賞することとなったが、  ここは、静けさに満ちている。  はじめに書いておくと、圧巻の展覧

人混みゆえに,細部に気づく -村上隆[もののけ京都]

 友人たちと某所の古民家で夏を愉しみ、解散のあとで京都、大阪、名古屋に一泊ずつしつつ、美術館の梯子をして帰京。  某日、京都。平安神宮。 会場外の、超大型作品×2  美術館入口から展示室までは距離があり、階段を上った先のホールには、  2体の鬼の像が、あたかもゲートキーパーのように立っていた。  その先のガラス越しには、こんなようすが見えて、  外に出てみれば、そこは記念撮影スポットのような賑わい。  「お花の親子」と、  ルイ・ヴィトンのトランクの巨大インス

モードの歴史を駆け抜ける -[髙田賢三 夢をかける]

 某日、東京オペラシティアートギャラリー。 大作のドレスと山口小夜子  最初の展示室では、あでやかなドレスが目をひいた。  纏っているモデルは、山口小夜子。  この写真1枚で、70年代、80年代の世界にタイムスリップしてしまう。 モードと髙田賢三  展示はまず、髙田賢三の手がけた作品の展示から。  現在着ていても古めかしく感じないであろう服も多いが、受ける雰囲気はやはり違う。かつてのデザインに新しい風が吹き込まれて現在のモードになっている、ということに改めて気が

1本の線,色彩 -ロートレック展[時をつかむ線]@SOMPO美術館

 フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線(- 09/23) 第1章 素描、第2章 ロートレックの世界圧倒的な作品数の鉛筆デッサン  エレベーターで5階まで上がり、そこから3階までの3フロアが展示室となる。最後に常設のゴッホの「ひまわり」を鑑賞し、2階のショップやカフェへと進むのが動線だ。  5階は、鉛筆デッサンの作品からはじまる。その数が圧倒的だ。ロートレックのポスター絵になじみがあるなら、ワンフロアのほぼ全部がスケッチ、というのに驚くかもしれない。そもそ

デ・キリコ展 -形而上的空間に彷徨う

 ある金曜日の夕刻。  デ・キリコ展(~8/29 東京)。 「形而上絵画」の中にいるような  展示会場内の撮影は不可。その代わり、特に鑑賞後のルートには撮影スポットが設けられていた。  展示は、《17世紀の衣装をまとった公園での自画像》といった写実的な自画像(デ・キリコはかなりの数の自画像を描いていたという)ではじまる。  会場に入ると奇妙な感じを受ける。  壁はデ・キリコの作品によくあるテイストの色が塗られ、アーチ型の「窓」が設けられていて隣の展示室(の、作品)

[テート美術館展 光]02 室内の光~現代アートにおける光の表現

「テート美術館展 光 -ターナー、印象派から現代へ」。東京展は10/2にすでに終了。(10/26より大阪)  すっかり遅くなってしまったけれど、後編をまとめておきたい。 室内の光  本展ではまず、神話、そののちのキリスト教的世界、さらには英国の田燃風景といった、「自然の中の光」=陽光が射しこむ広大な作品を愉しむ。  つぎに場所は、室内に転じる。時代的には、20世紀初頭。 ■ ■■  ヴィルヘルム・ハマスホイは、コペンハーゲンにある老朽化したアパートに構えた居の、室

[テート美術館展 光]@国立新美術館 01自然の中の光

  たいへん遅ればせながら、「テート美術館展 光 -ターナー、印象派から現代へ」。この東京展は9月15日、来場者20万人を達成したという。 ターナーの絵に逢いに  本展は7月から開催されていた。いつ行こうかなと迷いつつ、同時に、ずいぶん昔のことを思い出していた。  その昔、ほんの少しだけロンドンに居たことがある。そもそもお金もなく、ポンドも円に対してとてつもなく高くて、安価なピザやチャイニーズ、巨大なジャケットポテトやテスコのお惣菜を食べていた。  そんななか、無料(

【写真】直島 ベネッセハウス ミュージアム③地階

 ベネッセハウス ミュージアム 地階に展示されている、ブルース・ナウマン「100生きて死ね」、柳幸典「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム1990」、ジョナサン・ボロフスキー「3人のおしゃべりする人」、宮島達男「Counter Circle No.18」、杉本博司「タイム・エクスポーズド」について、前回紹介した。 安田侃「天秘」1996年  安藤忠雄の無機質なコンクリートの四角と直角の世界に、すべらかな石が設置されている。この石の上に、座ったり寝転んだり、自由に時間を

【写真】直島 ベネッセハウス ミュージアム②地階

 ベネッセハウス ミュージアム、地階。  地階とはいえ、山の頂上に位置するため、陽光が射し込み、眺望も格別だ。 ブルース・ナウマン「100生きて死ね」1984年  最も展示スペースが割かれているのが本作。地階~2階までの吹き抜けに展示されている。  1階から、ガラス窓越しに見下ろすとこんな感じ。  このようにスロープを下っていくと、  椅子の前にふしぎな巨大な箱が鎮座し、ネオン管で造られた文字が、ランダムに点灯していく。  「OO and DIE」「OO and

アーティゾン美術館ABSTRACTION [現代の作家たち]【前編】

 直島の話をすこし中断し、8月20日まで開催の、ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代への話を。  体力と気力のありそうな日に行こうと思っているうちに日が過ぎ、友人から軽くリマインドされてはっと気づいて出かけた。よく効いた冷房に助けられ、約3時間、集中力を持続させながら(時折、休憩しつつ)、堪能した。  展示は非常に丁寧で、1室は「抽象芸術の源泉」として、セザンヌ、ゴッホといった画家たちの作品にはじまる。  次に、フォ

【写真】直島 ベネッセハウス ミュージアム①1階

 直島。この話のつづき。  振り向くとこんな風景。坂道を、ベネッセハウス ミュージアムへ。  前回の大竹伸朗「シップヤード・ワークス 船底と穴」につづき、展示作品を紹介していく。今回は、1階の展示作品の中から何点かを。 セザール「モナコを讃えてMC12」1994年  ホテルロビーのあるエントランスで、まず出逢うのがこの作品。  圧縮した自動車、で有名なアーティストだと思うが、圧縮されひしめきあうポットたちも、多くを語っている。 リチャード・ロング「瀬戸内海のエイヴ

野又 穫 [Continuum 想像の語彙] -だれかの,あるいは自分の記憶

 野又 穫(のまた・みのる)「Continuum 想像の語彙」(~ 9月24日、東京オペラシティ アートギャラリー) ほのかに漂うなつかしさ  未来のような、過去のような、実際の建築もできそうな、いや不可能そうな。そうした建造物が、こうしたモチーフにありがちなシャープさを排した、明らかに絵と判るタッチで描かれている。  だから作品からは、どこかなつかしさが漂っているように、わたしには感じられた。 絵に「吸い込まれてしまう」理由  そして、作品にはディテールがしっかり

[吹きガラス 妙なるかたち,技の妙]展②技術発展と,手仕事と

「吹きガラス 妙なるかたち、技の妙」@サントリー美術館。①では展示の中でも異色の「第Ⅴ章:広がる可能性 ――現代アートとしての吹きガラス」についてまとめた。  今回ははじめに戻り、ガラスという素材と、技術の進歩にともなう洗練の歴史を見ていく。  なお、館内は基本撮影禁止だが、各章で数点程度の撮影許可作品があった。その写真をもとに、感想とともに振り返っていく。 ■ ■■ 古代の吹きガラス-注ぎ口の作り方  解説にある「道具が限られた」時代とはいえ、ものの形として現代から