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ショートショート

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僕は電車の待ち時間が異様に嫌いなので、そんな時に読めるものが書ければと思います。
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#ベッド

毎週ショートショートお題 「バンドを組む残像」

毎週ショートショートお題 「バンドを組む残像」

 病院のベッドの上で目を覚ました。
 助けられたというよりは捕えられたという感覚の中で、いくら意識を向けても反応のない右手に、もうギターは弾けないのだろうと思った。

 不思議とこれからに対する不安や恐怖はなかった。ただ頭の中に流れるこれまでのことをぼんやりと眺めていた。
 ゆっくりと目を閉じると、瞼の裏には焼きついて離れないあの日があった。初めて音楽番組に出演した日でも、満員のワンマンを成功させ

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毎週ショートショートお題 「残り物には懺悔がある」

毎週ショートショートお題 「残り物には懺悔がある」

 暗闇の中で目を覚ました。
 酒を飲み酷く酔っぱらった記憶だけが頭には残っていて、今がまだ夜なのか、それとも昼間なのかも分からないまま、頭の下にある枕の手触りでここが自分の部屋なのだと認識する。
 時間を確認しようとスマホに伸ばしかけた手を、そのまま眼前に広がる闇の中へ差し出してみた。
 時間が抜け落ちてしまったこの空間は、まるで世界の終わりのようだ。この静かな世界の終わりに、なぜ僕は生き残ったの

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毎週ショートショートお題 「てるてる坊主のラブレター」

毎週ショートショートお題 「てるてる坊主のラブレター」

 雨は今もずっと降り続いている。
 この雨が私の心と体をどこかへ流してしまう前に、ずっと開けられずにいた彼からの手紙を開いた。

「ちゃんと意識がある間に、この手紙を書こうと思いました。
 これがあなたへのラブレターになるのか、それとも別れの手紙なのか、感謝の気持ちなのか、酷い未練なのかは分からないけど、それでも書こうと思います。

 病院のベッドであなたが僕の手を握ってくれた時に、初めてあなたと

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