喜ノ歌

カナダの端で、日本の半日あとを生きています。クリスチャン|言葉だからこそ表せるもの、言…

喜ノ歌

カナダの端で、日本の半日あとを生きています。クリスチャン|言葉だからこそ表せるもの、言葉でなければ伝わらないものを、言葉にのせて

記事一覧

満ちた顔して

今朝の月靄のしとねに身を預く務め終えたる満ちた顔して けさのつきもやのしとねにみをあずく つとめおえたるみちたかおして --- 「ねぇ、そろそろ行くね」 「んぁ、悪…

喜ノ歌
17時間前
7

字のごとき嫗(おうな)

萎びた手石で飾らず内からの気品香りし字のごとき嫗 しなびたていしでかざらずうちからのきひんかおりし じのごときおうな 教会には色々な人がいます。「聖人」はひとり…

喜ノ歌
4日前
10

花火と手 恋歌八首

花火と手ひらくと似てるあなたの手どうかひらいてでも消えないで 花火と手鞠の柄散る藍の裾 鼻緒の足先 顔あげられず 花火と手重ねて振られふりむけばやっと目合ったとあ…

喜ノ歌
8日前
14

緑黄色社会『夏を生きる』

#みんなでつくる夏曲セットリスト Uさんの企画に参加します。50音あるし、のんびりと…、と思っていたら あっという間に埋まりそうなので、 募集中の頭文字から、初めて聴…

喜ノ歌
11日前
15

母の祈り沁む

夏の雲駆り立てし嵐過ぎ越して帰りし胸に母の祈り沁む なつのくもかりたてしあらしすぎこして かえりしむねにははのいのりしむ 夏の雲がぐんぐんと流れていく。うなじを…

喜ノ歌
12日前
12

ぞんぶんに描け

透明なそれは隔ての壁でなくキャンバスだ子よぞんぶんに描け とうめいなそれはへだてのかべでなく きゃんばすだ こよぞんぶんにかけ --- ね、みて。みてー! 霧吹きひと…

喜ノ歌
2週間前
7

つと渡る音ぞ

風鈴と風を待ちたる縁側につと渡る音ぞ 緑青の波文 ふうりんとかぜをまちたるえんがわに つとわたるねぞ ろくしょうのはもん 小牧幸助さんの企画に参加しています。 #シ

喜ノ歌
2週間前
7

話歌と呼びます

短歌ではないといわれた話×歌 私はこれを話歌と呼びます --- 短歌つながりで読んだ記事に「短歌に解説を加えるのはおかしい」という主張があった。 自分がnoteしてきた…

喜ノ歌
3週間前
6

かたときのしろがね

かき氷染まるものとは知りながら なお愛おしき片時の銀 かきごおりそまるものとはしりながら なおいとおしきかたときのしろがね うん、これは今日の最高傑作。 スプーン…

喜ノ歌
3週間前
9

讃歌がひびく

海の日を湛えて明く照り映ゆる天地の讃歌高く響けり うみの ひをたたえてあかくてりはゆる あめつちのさんか たかくひびけり --- その町を訪ねたときには必ず、夜明け前…

喜ノ歌
1か月前
9

インジゴの空

筆の先葉書に留めたい重ね塗り 深く遠く宙透かすインジゴ ふでのさき はがきにとめたいかさねぬり ふかくとおく そらすかす いんじご いつだったか、どこでだったか 黒に…

喜ノ歌
1か月前
12

かたくすがる

夏は夜あしたを待ちたる朝顔は堅く縋りつ天さして伸ぶ なつはよる あしたをまちたるあさがおは かたくすがりつ てんさして のぶ 夜風にはたはたと揺れる葉の向こうに、き…

喜ノ歌
1か月前
12

びろうどの角

草を食むもたげた頸のその先に天鵞絨の角すと天仰ぐ くさをはむ もたげたくびのそのさきに びろうどのつの すと てんあおぐ 牡鹿に行き合った。 友人の家に続くトレイル…

喜ノ歌
1か月前
10

小さなあなた

手紙には小さなあなたが乗ってきて わたしに宿り明日を共にす てがみにはちいさなあなたがのってきて わたしにやどりあすをともにす 手紙にはお決まりの挨拶のあと、彼女…

喜ノ歌
1か月前
14

いい夜だね

Excuse me, 杖よけて胸つかえるを Lovely night! と皺の笑み 包む すみません、つえよけて むねつかえるを いいよるだね!と しわのえみ つつむ 短い夏を楽しむ秘訣は、…

喜ノ歌
1か月前
11

ビイ玉、からり

ラムネの音 鈍く落ち込むビイ玉の纏う泡まで飲み干して、からり らむねのね にぶくおちこむびいだまの まとうあわまでのみほして、からり 分厚い硝子のたなごころに揺れ…

喜ノ歌
1か月前
12
満ちた顔して

満ちた顔して

今朝の月靄のしとねに身を預く務め終えたる満ちた顔して

けさのつきもやのしとねにみをあずく
つとめおえたるみちたかおして

---

「ねぇ、そろそろ行くね」
「んぁ、悪い。もう寝るわ」
「うん、お疲れ。おやすみなさい」
「おやすみー」
スマホの向こうの寝落ちした顔をもうしばらく見ていたかったのだけれど、出勤時間10分前を告げるアラームに急かされて、しぶしぶ声をかけた。
夜勤明けの彼は、いつも仕事

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字のごとき嫗(おうな)

字のごとき嫗(おうな)

萎びた手石で飾らず内からの気品香りし字のごとき嫗

しなびたていしでかざらずうちからのきひんかおりし
じのごときおうな

教会には色々な人がいます。「聖人」はひとりもいません。

自分の力では償いきれないものを、神が代わりに償ってくださった。
そのことを知らされ、そのことを信じた人たちが、
とてもすっきりとして、「自分は赦された罪人だ」と上を向く場所、それが教会です。

私が大好きなおばあちゃんは

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花火と手 恋歌八首

花火と手 恋歌八首

花火と手ひらくと似てるあなたの手どうかひらいてでも消えないで
花火と手鞠の柄散る藍の裾 鼻緒の足先 顔あげられず
花火と手重ねて振られふりむけばやっと目合ったとあなたが笑う
花火と手つないで帰ろこの胸をどんと打つ音つたわるように

花火と手ひらくと似てるきみの手をひらいてみたいでも消えそうで
花火と手鞠の柄咲く藍の肩 鼻が上向く 花火 Good Job
花火と手重ねて振れば はじかれたようにふりむ

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緑黄色社会『夏を生きる』

緑黄色社会『夏を生きる』

#みんなでつくる夏曲セットリスト

Uさんの企画に参加します。50音あるし、のんびりと…、と思っていたら
あっという間に埋まりそうなので、
募集中の頭文字から、初めて聴く夏曲と出会ってみることにしました。

頭文字は「り」緑黄色社会
ご紹介する夏曲は『夏を生きる』です。

アコースティックギターとバイオリンを掛け合わせたような、心地よい歌声。
聴く者を引き込み、一緒に駆け出させてくれるようなメロデ

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母の祈り沁む

母の祈り沁む

夏の雲駆り立てし嵐過ぎ越して帰りし胸に母の祈り沁む

なつのくもかりたてしあらしすぎこして
かえりしむねにははのいのりしむ

夏の雲がぐんぐんと流れていく。うなじをひやりとした風に撫でられて、7歳だった私は首をすくめた。高台から見下ろす海は空に流れ込んだ黒雲が溶けたように暗い色へと変わり、なだらかな砂浜だったあたりは引っ切りなしに荒々しい波をかぶって、一面、泡まみれになっていた。

さっきまで、晴

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ぞんぶんに描け

ぞんぶんに描け

透明なそれは隔ての壁でなくキャンバスだ子よぞんぶんに描け

とうめいなそれはへだてのかべでなく
きゃんばすだ こよぞんぶんにかけ

---

ね、みて。みてー!
霧吹きひとつで、この笑顔。
#夏の1コマ

つと渡る音ぞ

つと渡る音ぞ

風鈴と風を待ちたる縁側につと渡る音ぞ
緑青の波文

ふうりんとかぜをまちたるえんがわに
つとわたるねぞ ろくしょうのはもん

小牧幸助さんの企画に参加しています。 #シロクマ文芸部

創作の名のもとに前のめりになっていた感があり
リセットのために、今回は短歌にしてみました。

話歌と呼びます

話歌と呼びます

短歌ではないといわれた話×歌
私はこれを話歌と呼びます

---

短歌つながりで読んだ記事に「短歌に解説を加えるのはおかしい」という主張があった。

自分がnoteしてきたものを振り返ると、それらは
「留めたい体験を文章にし、
それを三十一文字に詠むことも楽しむ」
「お題から三十一文字を詠み、
そこから膨らみ出た情景を文章にすることも楽しむ」という営みで、私はこれを楽しんでいる。

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かたときのしろがね

かたときのしろがね

かき氷染まるものとは知りながら
なお愛おしき片時の銀

かきごおりそまるものとはしりながら
なおいとおしきかたときのしろがね

うん、これは今日の最高傑作。
スプーンをさして「完成」したそれを目の前の女の子に差し出しながら、はい、どうぞ。とかける声も思わず弾んだ。受け取ろうとする子の嬉しそうな顔が、私の満足を更に膨らませる。

今年のこども会の夏祭りでは、子どもに人気で大人側には敬遠されがちな、か

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讃歌がひびく

讃歌がひびく

海の日を湛えて明く照り映ゆる天地の讃歌高く響けり

うみの ひをたたえてあかくてりはゆる
あめつちのさんか たかくひびけり

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その町を訪ねたときには必ず、夜明け前から起き出して浜辺に降りる。
生まれ育った町は海から遠く、子どもの頃に何度か父が海水浴に連れていってくれたきりで、海といえば人がたくさんいるものと思っていたから、初めてここへ来た日の夕暮れに人のいない海へ連れられていったときには

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インジゴの空

インジゴの空

筆の先葉書に留めたい重ね塗り
深く遠く宙透かすインジゴ

ふでのさき はがきにとめたいかさねぬり
ふかくとおく そらすかす いんじご

いつだったか、どこでだったか
黒に近いほど濃い青の、空があった。
この向こうにはあの宇宙があるのだから、と、
妙に納得したことを覚えている。

小学校でのこと、「空のある風景を描く」の授業で
先生が私たちに窓の外を指しながら、
「空の色は上の方が濃くて、下にいくほ

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かたくすがる

かたくすがる

夏は夜あしたを待ちたる朝顔は堅く縋りつ天さして伸ぶ

なつはよる あしたをまちたるあさがおは
かたくすがりつ てんさして のぶ

夜風にはたはたと揺れる葉の向こうに、きつくねじり上げられたような蕾が見え隠れしている。
支柱を離すまいと堅く巻きついた蔓が、それらを中空に留めていた。

向日葵のように 胸を張って伸びることをせず
朝顔は 支えにすがって伸びてゆく
ひと巻き ひと巻きを繰り返して

自ら

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びろうどの角

びろうどの角

草を食むもたげた頸のその先に天鵞絨の角すと天仰ぐ

くさをはむ もたげたくびのそのさきに
びろうどのつの すと てんあおぐ

牡鹿に行き合った。

友人の家に続くトレイルはほぼ垂直に落ちてくる日差しに晒されて白っぽく、人通りはほとんどない。
靴の下で軽い音を立てる砂利を踏みながら歩いていくと、右手の森から悠々と目の前を横切っていったのは、身体の大きな牡鹿だった。
その大きさに反して角は短い。牡鹿は

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小さなあなた

小さなあなた

手紙には小さなあなたが乗ってきて
わたしに宿り明日を共にす

てがみにはちいさなあなたがのってきて
わたしにやどりあすをともにす

手紙にはお決まりの挨拶のあと、彼女の近況が綴られていた。
教師をしていた彼女の字は「書き方」のお手本のように整っていて、縦書きの便箋に書かれたそれは板書を思わせた。見上げる黒板にチョークで「冷凍庫はアイスだらけ」と書かれているのを思い浮かべてくつくつと笑う。

 暑中

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いい夜だね

いい夜だね

Excuse me, 杖よけて胸つかえるを
Lovely night! と皺の笑み 包む

すみません、つえよけて むねつかえるを
いいよるだね!と しわのえみ つつむ

短い夏を楽しむ秘訣は、長い夜を楽しむこと。

カナダの夏はだいたい6月から8月ですが、
夏は日が長く、冬は日が短い——この差が、とんでもなく激しいのです。
極端なのは夏至の頃。
朝の4時に日が昇り、夜の10時に沈みます。
反する

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ビイ玉、からり

ビイ玉、からり

ラムネの音 鈍く落ち込むビイ玉の纏う泡まで飲み干して、からり

らむねのね にぶくおちこむびいだまの
まとうあわまでのみほして、からり

分厚い硝子のたなごころに揺れるビイ玉は、金魚鉢の底の、元気のない金魚のように見えた。

隣で私を見上げ、ぜんぶ飲んで、とせがむ息子は炭酸が苦手で、それなのにラムネを見ると買いたがる。ビイ玉と硝子瓶のたてる音が好きなのだ。一口飲んでから、傾けた瓶を戻す。こつ、とか

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