満ちた顔して
今朝の月靄のしとねに身を預く務め終えたる満ちた顔して
けさのつきもやのしとねにみをあずく
つとめおえたるみちたかおして
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「ねぇ、そろそろ行くね」
「んぁ、悪い。もう寝るわ」
「うん、お疲れ。おやすみなさい」
「おやすみー」
スマホの向こうの寝落ちした顔をもうしばらく見ていたかったのだけれど、出勤時間10分前を告げるアラームに急かされて、しぶしぶ声をかけた。
夜勤明けの彼は、いつも仕事前に電話をくれる。
高台から駅へと向かう道はゆるやかな下り坂で、ガードレールの向こうには、朝焼けの名残に浸かってまだ眠たげな家々が遠くまで見渡せた。
その”家平線”のあたりは朝靄にかすんでいて、よく見れば、靄の向こうにはいまにも沈もうとする大きな月がかかっている。
お布団に入るところみたい。その思いと一緒に、
頭の重みでつぶされた頬に押されて突き出すように口をあけた、今朝の彼の寝顔を思い出して、くっ、と笑いが込み上げた。
あなたもあなたも、お疲れさま!私もお仕事がんばります。
私はつま先をたんたんたん、と鳴らしながら、明るさの増していく坂を駆け下りた。
小牧幸助さんの企画に参加しています。
前回の #新しいジブン 企画にまんまと新しい扉を開かされて(?)しまい、今回も彼と彼女のお話になりました。
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