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二割増しの柔軟剤
一日二枚のクッキーを  隠れて一枚足すように

偶数で減るものを奇数で減らしたら
いつか気付かれて叱られてしまうよ
ああ  そうか  そうだね
それなら

明日も一枚足してしまおう
そうすれば  きっと  誰だって気付きはしないよ

もしも  気付かれても  叱られても
奪わせないで  壊されなくていい
護り合う術を探す仕草
過ちも誤りもない  ぜったいに








書くことが 怖くなっていたとき  の こと


遺したいこと  聞いてほしいこと
文章にしたいこと  が あって
文章にしたいという気持ち  が あって
時間も  場所も  あって
じゃあ  って
そんなふうにして書いていたものが
いつしか
文章を書きたいという気持ち  が あって
遺したいこと  聞いてほしいこと
文章にできること  を 探して
時間も場所もあるうちに
しないと  していないと  って
そんなふうになっていて


それ自体は  きっと
悪いことではないのだけれど


僕の文章になったことたちは
いつも  生活のなかにあって
駐車場に星形の砂利粒を
公園に四つ葉の白詰草を
早朝に透ける淡く白い衛星を
深夜に煌めく雲越しの残光を
ほんの少し  意識の比重を感覚に傾けては
慎ましく待つそれらをみつけて
そのささやかな欠片を忘れないように
かつてはクッキーが収まっていたアルミ製の缶に仕舞うように
視界の一部を定めようとぶら下げたコルクボードに刺すように
捉えては留めていたんだって
さいきん気付きました  たぶんだけれど


ところが  いつしか変わっていた順序では
それらを見付けていないままに そんなことをしようとしているわけで


けれど  当然
無いものを留めることなど できっこなくて
いまは見付かっていない、今日の生活からは見付けられなかった、では、身体のなかは  と
あたまを  こころを  掘り起こして  穿り返して
そうして文章の形をとったものの
その 酷いこと 醜いこと

息継ぎ無しで捲し立てるように書いて次の日に読み返してドン引いて  そんなものを生産すればするほど  自分から出る言葉たちはどんどん気持ち悪くなっていって  あたまもこころもどんどん淀んで  また生産して  また淀んで
文章にしたいことが自然と見付かるまで 大人しく待っていたらいいと  それがいちばん近道だって  わかってはいるんだけれど
していないことが  せずにいることが
なんだかとてもこわくて
悪循環を止められなくて


そうこうしていると  気が付けば怖くなっていて
また駄目を自覚するかな
また気持ち悪いものばかり出て来るかな
もし今は良くても  明日は  来月は
書きたいし  読んでほしい
けれど  上手に体外に出すことができないで








醜いところを曝せないのは
弱さからか  強さからか
こころが  のうりょくが  弱いからなのか
意思が  意地が  強いからなのか
わからないけれど  なんだか  もう
どっちだっていいか、そんなこと


バウムクーヘンの止まない成長
仕舞ってしまった詩のおはなし
いつも還るのは貴方の声で
織っても織ってもたりない  降参のしるし
羽根は毟れど生えてくるので無限ではあるけれど
たとえ尽きたって  皮だって 骨だって なんだって あげるので  その瞬間に空けた遺伝子五割分の枠  どうか永遠に奪っていて
残り
三割は彼女に守られて
二割に小さく無数のスパイスを詰め込むんだ
おれじんせい味  bgmちょうだい








見逃した欠片たちは
そこに無かったわけでも
僕の視力が落ちたわけでも
感度が鈍ったわけでも  なくて


胸元に抱えた小さな段ボールの大きな存在感で
一時的に足元が見えなかっただけで
段ボールに乗せた簡易包装の重たい茶封筒から
一瞬たりとも目を離すことができなかっただけで
いつだって  すぐそばにあったし
足裏でも頬でも背中でも  いつだって感じていたし
その証拠に  ほら  欠けた方も残してある


段ボール  茶封筒
事単体はなんてことなく小さく
僕にとっては途轍もなく大きく
正しさに言わせればただの無駄で間違いで
僕にとってはそれだけが陽で  光で  希望で


幾分か真面めいた頭が働かせる自制を
察して  寂しくなって  情けなくなって
年末に緩く描いたこの歳の模様を思い出して
自棄で保っていた頃の記憶に激しく煽られて
寂しさを  情けなさを  振り切り吹っ飛ばすように
逸らした先に待っていたものを凝視したのなら
その逃げは攻めだ  なんて  強がってみたりだとか








羅針盤で  杖で  唯一の参考書
いてもいなくてもいい僕は
貴方たちを頼りに爪先を動かし
支えられ  守られ  守り返すように
教わった大切を何度も読み返し
いつしか追い越してしまうように
どうか  どうしようもなくも  生きていたいのです


誰にも汚されなかったキャンバスへ
集められてはぶち撒かれた色たちへ
どうか  どうか   滲み込んで
どうか  どうか   抜けないで
ここでよかったとおもわせるから
約束    大丈夫    かならず大丈夫になる  する








おわり、


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