記事一覧

させていただく人

 このたび、LDH様所属のダンサー兼シンガーとしてパフォーマンスさせていただくことになりました、八兆にそ翔です。よろしくお願い申し上げさせていただきます。  小学生…

八兆にそ
7年前
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亜美ちゃんに祈れよ

 男は鉄橋にいた。深夜もド深夜、真っ赤に塗られた鉄橋にいた。  ――ここから飛び降りてやろうか。『トーマの心臓』の冒頭のように、いっそ劇的に飛び降りてやろうか……

八兆にそ
7年前
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きりしま

 十三にある小さな映画館でえげつない映画を見たあと、俺は柄にもなく、隣に座っていた女に声をかけてみた。それくらいえげつない映画だったのだ。  女の反応も悪くない…

八兆にそ
7年前
105

エサの時間

「はあい皆様おまたせしました! 本日も潮竹(しおたけ)水族館にご来場いただきまして、まあことにありがとうございます! ただ今より、ラッコくんたちのもぐもぐタイム…

八兆にそ
7年前
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五十音順アイドルフェス

※2015年夏に書いたものです。  日本中のアイドルが一同に集結する、超大規模イベントの開催が発表された。  参加資格はアイドルという肩書きで活動した前歴があるこ…

八兆にそ
7年前
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田嶋陽子が死んだ日

 田嶋陽子が死んだことを知った瞬間、僕の体はどんっ、と宙に浮いたような衝撃に見舞われた。  それは、大学の友人たちと朝までカラオケをした帰りだった。早朝の街のカ…

八兆にそ
7年前
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カンカンカンってやるからだよ

 カーテンの向こうに、新鮮な光の気配がある。  眠気に鈍麻した聴覚を、スズメの声がかしましく刺激する。  ああ、また今日も、俗に「朝」と呼ばれるあの忌々しい時間が…

八兆にそ
9年前
58

ユリ内職

「なんか、手伝ってもらうの、悪い気がしてきた」 「いやいやいや、いいんだって、実際あのノート見してもらえなかったら単位死んでたし」  大学が夏休みになった直後のよ…

八兆にそ
9年前
62

声カッター

 いわゆる、あれは何だったんだろう系の体験談である。  数年前の、とある日曜日と月曜日の境目の深夜のことだった。僕は自分の部屋でうだうだと夜更かしをしていた。 …

八兆にそ
9年前
50

テイル

 子供の頃から不惑を過ぎた現在に至るまで、おれは怪獣とヒーローの世界に女がしゃしゃり出ることを忌々しく思い続けていた。  特撮の世界というのは、男の子の、ひいて…

八兆にそ
9年前
53

クワマン

 グラスに焼酎を半分ほど注ぎ、冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取り出した瞬間、電話が鳴った。  電話の主は教頭だった。 「ああ、お疲れ様です」  窓の外は夕方とはい…

八兆にそ
9年前
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しばたの恩寵

 僕としばたは週に2、3度顔を合わせる関係だが、僕がしばたについて知っていることはとても少ない。  僕の職場から家までの道のりに、1軒だけコンビニエンスストアが…

八兆にそ
9年前
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させていただく人

 このたび、LDH様所属のダンサー兼シンガーとしてパフォーマンスさせていただくことになりました、八兆にそ翔です。よろしくお願い申し上げさせていただきます。
 小学生の頃からずっとテレビでEXILEさんの御パフォーマンスを拝見させていただき、御歌や御ダンスだけでなく、HIROさんやAKIRAさんを始めとさせていただいたメンバーの皆さんの御生き様にも、深く感銘を受けさせていただいておりました。
 いつ

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亜美ちゃんに祈れよ

 男は鉄橋にいた。深夜もド深夜、真っ赤に塗られた鉄橋にいた。
 ――ここから飛び降りてやろうか。『トーマの心臓』の冒頭のように、いっそ劇的に飛び降りてやろうか……。

 男はミュージシャンだった。「売れないミュージシャン」という呼称はもはや現代的ではない。男は「食っていけないミュージシャン」だった。
 ほんの2年ほどメジャーレーベルに在籍していた時期はあったが、思うほどには稼げぬまま契約を切られ放

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きりしま

 十三にある小さな映画館でえげつない映画を見たあと、俺は柄にもなく、隣に座っていた女に声をかけてみた。それくらいえげつない映画だったのだ。
 女の反応も悪くないものだったので、俺たちは高架下のざっかけない居酒屋に場所を移し、酒を飲みながらひとしきり映画の感想を話した。
 映画の話題も尽きたころ、不意に女が「自分には今好きな人がいる」と言い出した。どうやら長らく恋愛話の聞き手を欲していたらしい。
 

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エサの時間

「はあい皆様おまたせしました! 本日も潮竹(しおたけ)水族館にご来場いただきまして、まあことにありがとうございます! ただ今より、ラッコくんたちのもぐもぐタイムを始めたいと思いまあす!」
 私がラッコのエサやりショーのお姉さんになって半年が経つ。躁状態の口上にもすっかり慣れてしまった。
「はい、ではですね、もぐもぐタイムを始めるまえ、に! 皆様に楽しくラッコくんたちをご覧いただくために、守っていた

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五十音順アイドルフェス

※2015年夏に書いたものです。

 日本中のアイドルが一同に集結する、超大規模イベントの開催が発表された。
 参加資格はアイドルという肩書きで活動した前歴があること一点のみ。どのアイドルも同じステージで、フルで一曲分のパフォーマンス時間を与えられる。
 さらにこのイベントの全ステージが、全国ネットの地上波で余すことなく生中継されることも決定していた。
 未だかつてないこの大祭に、全国のアイド

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田嶋陽子が死んだ日

 田嶋陽子が死んだことを知った瞬間、僕の体はどんっ、と宙に浮いたような衝撃に見舞われた。

 それは、大学の友人たちと朝までカラオケをした帰りだった。早朝の街のカピカピした空気の中、僕らはガラガラの喉でヘラヘラと笑いながら始発電車を待っていた。
 ふと、僕はスマートホンを手に取り、夜のあいだ放ったらかしにしていたSNSにアクセスした。親指でつよつよとタイムラインを下っていくと、突然、有り得ぬ文字列

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カンカンカンってやるからだよ

 カーテンの向こうに、新鮮な光の気配がある。
 眠気に鈍麻した聴覚を、スズメの声がかしましく刺激する。
 ああ、また今日も、俗に「朝」と呼ばれるあの忌々しい時間がやってきてしまったのだろう。まだまだ眠くてたまらない俺は、一層深く布団に潜り込んだ。
 目覚ましのアラームは鳴り始めて1秒もせずに止めてある。この華麗な早業を半ば無意識のうちにやってのけるところに、低燃費で生きる人間としての熟練とプライド

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ユリ内職

「なんか、手伝ってもらうの、悪い気がしてきた」
「いやいやいや、いいんだって、実際あのノート見してもらえなかったら単位死んでたし」
 大学が夏休みになった直後のよく晴れた平日、私は学部の友人であるユリの下宿にいた。
 部屋には私とユリと、巨大な段ボール箱が3つ鎮座している。
「こういう内職っぽい内職って私も初めてだなあ」
「うん……」
 学業の恩義を果たすため、私はユリの内職を手伝うことになった。

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声カッター

 いわゆる、あれは何だったんだろう系の体験談である。

 数年前の、とある日曜日と月曜日の境目の深夜のことだった。僕は自分の部屋でうだうだと夜更かしをしていた。
 つけっぱなしのテレビでは、もう何分もCMが続いていた。
 何かこう、深夜らしい良い感じの番組は他にないものかとリモコンを手にした矢先、CMが明け、真っ白な画面にぽつんとひとり、茂木健一郎が現れた。
「これから脳にいいモノを紹介したい。脳

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テイル

 子供の頃から不惑を過ぎた現在に至るまで、おれは怪獣とヒーローの世界に女がしゃしゃり出ることを忌々しく思い続けていた。
 特撮の世界というのは、男の子の、ひいては男の世界であり、女どもは添え物の域を超えてはならない。それがおれの持論だ。
 領分をわきまえない女、あるいは雌どもを、おれは今日まで遠慮なく糾弾してきた。
 例えば有名どころではウルトラマンAだ。切断の貴公子と呼ばれるAは、北斗星司と南夕

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クワマン

 グラスに焼酎を半分ほど注ぎ、冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取り出した瞬間、電話が鳴った。
 電話の主は教頭だった。
「ああ、お疲れ様です」
 窓の外は夕方とはいえまだ明るい。こういう時間に教頭から自宅に電話が来るのは、決して好ましい事態ではない。
「何か、起きましたか?」
 案の定、俺が担任するクラスの生徒が万引き現場を押さえられたので、店まで行って引き取ってきて欲しい、とのことだった。すでに自

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しばたの恩寵

 僕としばたは週に2、3度顔を合わせる関係だが、僕がしばたについて知っていることはとても少ない。

 僕の職場から家までの道のりに、1軒だけコンビニエンスストアがある。
 仕事帰りに立ち寄ると、レジには必ずしばたが立っているのだ。
 しばたは色白でやせ型の男で、あごに大きなほくろがある。後ろ髪や耳周りを綺麗に刈り上げているが、ツーブロックと呼ぶにはあまりに品行方正な髪型だ。ワンサイズ大きい制服のシ

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