銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十五話(5) 正しい出張帰りの過ごし方
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・第二十五話(1)(2)(3)(4)
・第二十五話 まとめ読み版
レイターには、まったく縁がなさそうなエリート校の名前を持ち出したから、面白くない冗談だと思っていた。
ジョン先輩が懐かしそうに口にした。
「控え選手だったレイターが出てくると、バスケの会場が盛り上がったよね。レイターはチビだったから」
「ジョン・プー、殴るぞ。一言多い」
セントクーリエ出身の皇宮警備官と、公立ハイスクール中退の飛ばし屋。
この二つが共存しているって、人格が崩壊してるんじゃないだろうか。
*
ジョン先輩とレイターの宇宙船談義が一段落した後、レイターが作った夕飯を4人で食べる。
手羽先、という骨のついた鶏肉のから揚げが、ダイニングテーブルに運ばれてきた。
塩味、甘辛いもの、スパイシーなもの。
手が汚れるのも気にせず、揚げ立てを手づかみで口にする。
普段は苦くてあまり飲まないビールが、なぜかあう。
「エース、優勝おめでとう」
気分は最高。
パリパリとした皮がおいしく、いくらでも食べられそうだ。
「う~ん。うまいよ、幸せだ」
ジョン先輩の前に、見る間に骨の山ができあがった。
よく考えると、わたしがここでご飯を食べるのも四日目だ。でも、全然飽きない。
「いいですね、ティリー先輩は。いつもこんなにおいしいご飯が食べられるなんて」
「いいでしょ」
と自慢げに口にしてから、あわてて否定した。
「だから、仕事とレースを見る時だけよ。レイターとつきあってるわけじゃないんだから」
ジョン先輩がたずねる。
「不思議に思ってたんだ。君たち、ほんとにつきあってないの?」
「つきあってません」
わたしは即答した。
レイターは何も言わない。
「じゃあ、どういう関係なんですか?」
サブリナが詰め寄る。
「どういうって・・・」
ボディーガードとクライアントの警護対象者、というのは間違いないけれど、きょうはプライベートだ。
「宇宙船レースの鑑賞仲間というか・・・」
ぷっ。
わたしの答えにジョン先輩が吹いた。
「それじゃ、僕とティリーさんの関係とおんなじだ」
サブリナが反応する。
「そんなはずないじゃないですか。お二人見てればわかります」
見てればわかるって、一体何がわかるというのだろう。
「なあレイター。お前はどう思ってるんだ、ティリーさんのこと」
「あん?」
レイターはにやりと笑った。
「俺のティリーさんは、怒った顔もかわいいだろ」
「その言い方止めて、って言ってるでしょ」
すかさず反応する。
ジョン先輩とサブリナが、顔を見合わせて笑った。
「面白いだろ?」
「面白いわね」
全然、面白くない。
「デザート食べるかい?」
レイターが聞いた。
「食べたいわ」
わたしは即答した。この船はデザートとコーヒーも絶品だ。
「待ってな」
と言って、レイターはキッチンの奥へ向かった。
*
サブリナがわたしに聞いた。
「ティリー先輩は、レイターさんと付き合う気はないんですか?」
「ないわよ。だって、レイターには『愛しの君』という大事な人がいるんだから」
「え? 先輩以外に好きな人がいるんですか?」
サブリナが目を丸くした。
そんな彼女に、ジョン先輩が声を潜めて言った。
「でも、もう『愛しの君』はこの世にいないんだよ」
わたしは息をのんだ。
今、ジョン先輩は何と言った?
『愛しの君』はこの世にいない? 最終回へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」