銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十五話(3) 正しい出張帰りの過ごし方
・第一話のスタート版
・第二十五話(1)(2)
・第二十五話 まとめ読み版
いつも、この船でS1を観戦しているけれど、きょう初めて気がついた。
ジョン先輩もレイターも、エースの画面を見たいわけじゃなかったんだ。わたしに気を使ってくれていたのか。
少し、気分が落ち込む。
その時、わたしの目の前にサブ画面が開き、エースの横顔が映った。
かっこいい。
サブ画面だけど、目の前で見れば十分に大迫力だ。
レイターは、わたしのためにサブ画面を切り替えてくれた。
「ありがとう」
隣に座るレイターにお礼を言った。
「あん? レース全体の状況を知るにゃ、先頭カメラの映像が一番だからな」
わかっている。
わたしに気を使ってくれたこと。
レイターはよく気が利く。
でも、あまりにさりげなくて、気をつけていないとすぐ見逃してしまう。最近、そのことに気が付いた。
*
レースがスタートした。
わたし以外の三人は大画面を見ているけれど、もうわたしは目の前のサブ画面に釘付けだ。
うっ、きょうもエースは素敵だ。
ポールポジションからトップを独走だわ。
ジョン先輩が、サブリナに話しかける。
「ティリーさんはエース専務の大ファンなんだ」
「へえ。愛社精神に溢れてるんですね」
「というか、専務に憧れて入社したんだそうだよ」
「レイターさん、妬けますね」
「ったくだぜ」
ちょちょっと、その会話止めて欲しい。
レイターたちが応援しているスチュワートの船は、調子がよくなかった。
「バカ野郎! 冷却装置が悪いのにふかすな!」
いつもと同じ様にレイターが罵倒している。
「ったく、俺ならもっとうまく攻めるぞ」
そんなレイターの様子を、ジョン先輩とサブリナが見て笑っている。
「面白いだろ?」
「面白いわね」
二人は楽しそうだ。
胸がキュンとした。いいな、付き合ってるって。
お互いがお互いを一番大切な人、とわかっている状態。
満たされて、安定している関係。
わたしにも学生時代に付き合ってる彼氏がいた。
嫌いになって別れた訳じゃない。遠距離の果ての自然消滅。
サブリナがうらやましい。
彼氏が近くにいて、一緒に時を過ごして、二人で共有するものを積み重ねていく、って素敵なことだと思う。
好きな人と一緒にレースを見るなんて最高だ。
*
「おっと、面白れぇ展開になってきたな」
レイターの声で画面に集中する。いやだ、エースのタイムが落ちてる。
「右の補助エンジンがうまく回ってねぇな。直線でエースが気がつかなきゃ、楽しいぞ。二位のオクダが追いつく」
レイターがうれしそうに言った。
むかつくことに、この人は『無敗の貴公子』のエースが負けるのを楽しみにしている。
「エース! 右の補助エンジンよ!」
わたしは叫んだ。
わたしの声がエースに届きますように。
直線に入った。
息を飲んで見守る。
握りしめる手に力がこもる。
エースの船が加速した。
迫ってきた二位の船との差が開きだした。
「ちっ、気づいたか。つまんねぇの」
「やったぁ」
わたしはほっとした。
そして気が付いた。
隣にいたレイターの手を、思いっきり握りしめていたことに。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」