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銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十五話(4) 正しい出張帰りの過ごし方

第一話のスタート版 
第二十五話(1)(2)(3
第二十五話 まとめ読み版

「ご、ごめん」
 慌てて手を離そうとしたわたしの手を、レイターが握り返す。
「エースに感謝するぜ」
 と笑顔でウインクした。

t28のレイター線画ウインク逆大

 この人は、わたしに限らず、女の人にはいつもこんな調子だ。『愛しの君』という好きな人がいるくせに。

 温かくて大きな手。急に心臓がドキドキしてきた。

 レースが緊迫したせいで、心拍数が上がったせいだ。
「厄病神がうつるから手を離してください」
 そう言って、レイターの手をふりほどいた。

 レースは続いていた。
「ああああぁ、バカかよ!」
 レイターががっくりと肩を落とした。

「残念だわ」
 サブリナもため息を付いた。二人が応援するチーム・スチュワートの船は、コースを大きく外れて棄権となった。

「ふふふふふ」
 笑っているのはわたしだけ。

 エースは優勝し、無敗の記録を更新した。
「エース・ギリアムは無敵。最高だわ!」

n13ティリー3s笑顔2

「うるせぇ、うるせぇったらうるせぇ!」
 レイターが首を左右に振った。

 レースが終わると、ジョン先輩がレイターにたずねた。
「なあレイター、ロルダ理論はS1機に使えると思うかい?」
「うーん、現時点じゃ厳しいよな。と、あんたも思ってんだろ」
 レイターとジョン先輩は、床にタブレットぺーパーを置いて難しい計算を始めた。

 宇宙船お宅と研究者、議論をするのはしょっちゅうだ。
 わたしとサブリナはソファーに座り、そんな二人の様子を見ていた。

 サブリナがわたしに声をかけた。
「やっぱり、セントクーリエ出身の人は違いますね」

n251横顔微笑

 セントクーリエは超難関有名私立校。 

 ジョン先輩のような研究者のほか、政治家、高級官僚、企業トップといったエリートを生み出す学校で、権威あるキンドレール賞の受賞者を一番多く輩出している。

 わたしは納得した。
「ジョン先輩はセントクーリエ出身なのね。頭いいはずだわ」
「レイターさんもですよ」
 ん? サブリナは勘違いしている。

 耳元でこっそり訂正した。
「レイターは公立ハイスクール中退よ」
「え?」
 驚いたサブリナが、話に夢中になっているジョン先輩の服を引っ張った。

「ねえ、ジョン。レイターさんもセントクーリエの一緒の寮にいたんでしょ」
「ああ、そうだよ」

 今度は、わたしが驚いた。聞いていた話と違う。
「レイターは、月の公立ハイスクール中退、って言ってたじゃない?」
「あん? そうだぜ」

n27レイター振り向き大人@あん

 ジョン先輩が説明した。
「レイターはセントクーリエに入学して、そのあと、公立ハイスクールへ転校したんだよ」

 サブリナがわたしに笑顔を見せた。
「納得できましたね」

 全然、納得できない。
 セントクーリエの入試、と言えばとにかく難しいことで有名で、わたしの地元アンタレスでは合格するだけでニュースになる。

 授業についていけなくなって公立学校へ転校、というケースはありそうだ、考えられるのは。

「将軍家のコネで裏口入学・・・」
 つぶやくわたしの頭を、レイターが軽くこづいた。
「会社じゃねぇんだ。ちゃんと試験受けて受かったんだよ」
「ええっ?!」
 びっくりして声が出せない。

 そして、思い出した。
 前にレイターがセントクーリエのバスケ部にいた、と話していたことを。
「レイターって、ほんとにセントクーリエのバスケ部にいたの?」
     (5)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」