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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(最終回)

ハゲタカ大尉との対戦映像を見ていたレイターは、ハミルトン少尉が自分をかばって撃ち落されたところで映像を止めた。
銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12

「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
 レイターは自分で再生のスイッチを押した。

 映像を凝視する。
 ハゲタカ大尉とレイターの機体は、一対一で向かい合った。

ハゲタカと空間

 人間業とは思えない、恐ろしいスピードで撃ち合い始めた。
「何だこりゃ? これ、操縦しているの俺なのか?」

 レイターの疑問は私の疑問でもあった。
 普段のレイターの操縦とは違う。反応も速度も。

 ハゲタカ大尉と遜色ない、いや凌駕した。だから、撃ち落とした。
 そこに映し出されていたのは『銀河一の操縦士』の操縦だった。

 これまでレイターはハゲタカ大尉の航行ログを作成し、攻略方法をずっと考え続けてきた。その膨大なイメージを蓄積してきた。 

 おそらく、本物のハゲタカ大尉の卓越した操縦技術と向き合う恐怖の中で、蓄えられた脳内のイメージがレイターの操縦と結びつき覚醒したのだ。
 ハミルトン少尉の決死の行動と追い詰められたレイターの生存本能が引き金となったのだろう。

「無理だ、こんな風に二度と飛べねぇ…」
 レイターは茫然と身体を震わせていた。

「一度できたのであれば再現性はある」

正面アーサー真面目

 レイターが私を見つめる。私は続けた。 
「火事場の馬鹿力、という言葉を知っているだろう。極限状態に追い込まれれば、能力が最大限引き出されるということだ」

「あんた、気安く言ってくれるぜ、極限状態って」
 レイターが記憶を失うほどの極限状態。
 二度と経験したくない状況だ、ということは想像できた。

「この映像、また見てもいいか?」
「取り扱いには注意しろ。残っていないことになっているから、ここから持ち出すなよ」
「わかってる」
 私はレイターに改竄前の対戦航行ログを渡した。

「ありがとう」
 レイターは素直に礼を言うと、端末モニターの前で映像と航行ログを繰り返し見始めた。
 二度と経験したくない極限状況の再現。
 あいつは逃げずに向かい合っている。

 レイターの記憶は少しずつ整理されてきたようだった。
「この時に操縦した感覚を、身体は覚えている。船と一体化したんだ。でも、頭じゃ思い出せねぇ」

裏将軍壱話のレイター怒り逆

「船と一体化?」
 言語化するのが難しそうだ。

「すべてが俺の思い通りになって、時が止まるんだ。真っ白に輝く『あの感覚』……全知、全能」
 レイターは目を閉じて思い出そうとしていた。
 時間も含めて全てを支配する、という感覚。
 それを得た時、レイターの目には俯瞰で物事が見えるのだろう。

 だから、ハゲタカ大尉を撃墜した瞬間を、第三者が外から見たようにあいつには見えていたのだ。

 映像と、航行ログと、レイターの身体がかろうじて覚えている『あの感覚』の突合。
 苦しいと思われる作業を、あいつは延々と続ける。

「ハミルトンのバカ野郎、バカ野郎、バカ野郎。俺があんたを倒す、って言っただろが」
 あいつの呟く声が聞こえる。
 きょうも泣きながらモニターに向かっている。

 ハミルトン少佐の命と引き換えに守られたレイターの命。
 あいつはそれを必死に生かそうとしている。

 レイターの操縦する戦闘機が急旋回した。

「あいつ、また腕を上げたな」

若アレック前目にやり上向き

 アレック艦長が私に声をかけた。
「そうですね」
 最近は紅白戦でレイターに勝てる気がしない。
 ハミルトン少佐が亡くなり、レイターはアレクサンドリア号のエースパイロットになった。

 あいつは船を操る技術の向上に、ひたすら全身全霊をかけている。すさまじい操縦への執着。

 今のレイターは十対一でも勝つだろう。
 だが、本人は納得していない。
「違うんだよな。感覚が」

 極限状態でハゲタカ大尉を撃ち落とした時の『あの感覚』にはたどり着けていないという。

 とはいえ、通常の操縦レベルは格段に上がっていた。
 ハミルトン少佐や、ハゲタカ大尉と同じクラス、もしくはそれを上回るぐらいに。

 不死鳥が宇宙空間を駆け抜けていく。 

「あいつ、もう、『銀河一の操縦士』を名乗ってもいいんじゃないか」
 レイターが描く軌跡を見ながら、アレック艦長がつぶやいた。    (おしまい)

連載は<出会い編>第四十一話「パスワードはお忘れなく」へ続きます

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」