銀河フェニックス物語＜少年編＞　自由自在に宙を飛ぶ（11）

戦艦アレクサンドリア号に帰還したレイターは「ハミルトンがハゲタカ大尉を撃墜した」と泣きながら報告した。
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　ハゲタカ大尉がレイターを激しく攻め立てる。
　超ハイスピードで乱れ飛ぶレーザー弾とミサイル。
　それをレイターは的確にかわしていく。まるで弾道が事前にわかっているようだ。
　音声はない。だが、「なぜ当たらない？」と焦るハゲタカ大尉の声が聞こえる気がする。

　レイターはハゲタカ大尉の動きを完全に補足していた。
　残っていたコンドル軍団が援護射撃をする。
　それもレイターは見切っていた。援護の敵機を撃ち落す。レーダーも働かないのに。何が起きているんだ。

　不死鳥の降臨。　
　ハゲタカを確実に追い詰めていく。

　先程までの操縦と打って変わった相手に、ハゲタカ大尉も事態を把握できなかったのではないだろうか。

　そして、とどめの一撃。

　レイターの放ったレーザー弾がエンジンを撃ち抜いた。
　コンドルのマークが描かれたハゲタカ大尉の機体がへし折れるように大破する。

　ハゲタカ大尉の身体が宇宙空間へと投げ出された。

　レイターの航行ログも映像もすべて残っている。
　なのに、艦ふねに戻ったレイターは、ハゲタカ大尉を撃墜したのはハミルトンだと虚偽報告をした。

　アレック艦長が小さな声で私に言った。
「お前、航行ログの書き換えできるだろ」
「はい」

「ハゲタカ大尉を撃った機体をハミルトン機に、至急書き換えろ」
「……」

　信じられない命令だった。レイターの嘘にあわせろというのか。
　航行ログ、しかも敵機との対戦航行ログの改竄は、宇宙航空法違反どころか軍法会議ものだ。

「返事はどうした、トライムス少尉。すべての責任は俺が取る」

　理性的に考えれば従ってはいけない。

　だが、アレック艦長は動物的な嗅覚というか直感がずば抜けている。私が理解できない世界。
　その判断に従うことにした。
「はい」

　ハゲタカ大尉とハミルトン少尉が相撃ちとなり、レイターの乗った船が横で見ていたように航行ログを書き換えた。
　映像はデータ破損し存在しないことにした。

　訓練に出た船は、レイター以外全機撃ち落とされ、唯一生き残ったレイターが「ハゲタカ大尉をハミルトンが撃墜した」と報告した。
　だから、乗組員はみんなそれを信じた。

　レイターがハゲタカ大尉を撃ち落としたことは、アレック隊長と私しか知らない。

　改竄した航行ログを軍本部に上げた。

＊

『敵アリオロンの英雄ハゲタカ大尉を連邦軍が撃墜！』
　この情報は一般のニュースでも報じられた。

「次期将軍のアーサー・トライムス殿下が乗艦する連邦軍の戦艦アレキサンドリア号がアリオロンのコンドル軍団とワートランド宙域で交戦し、アリオロンの英雄ハゲタカ大尉を撃ち落としました。撃墜したのはハミルトン少尉です。ハミルトン少尉は相撃ちとなり戦場で命を落としましたが、その功績を称え三階級特進に加えて『英雄』の称号が与えられることが決まりました」

　これで、遺族であるハミルトン少尉の妻と息子には一生を保証する高額な恩給が支払われるだろう。

　離婚調停中だったという妻。
　ハミルトン少尉を人殺しと蔑んだ、少尉の愛した息子。
　家族はハミルトン少尉のために涙を流しただろうか。

　アレック艦長の考えていることはよくわからない。
　だが、少尉は天国で喜んでいるだろう。これで彼の愛した息子が生活に困ることはない。

　ハミルトン少尉の淋し気な顔を思い出す。
　レイターに「お前が俺の息子だったら」とつぶやいた少尉。
　レイターをかばってミサイルに突っ込んでいく時、最後に何を考えたのだろう。

　実の息子のことだろうか。レイターのことだろうか…。
　

＊

　
　英雄ハゲタカ大尉は敵アリオロンの、戦意高揚の広告塔の役割を果たしていた。

　アリオロン軍はこんな小競り合いで彼を失うことは、予想だにしていなかったに違いない。

　敵の英雄を倒したとして、各所からアレクサンドリア号には祝電が届いた。

　だが、今回のワートランド海戦でハミルトン少尉を含む四人の乗組員を失い、艦内は沈んでいる。

　私も胸が塞がれる。ましてやレイターは…。

「アーサー、しばらくレイターの様子を見ろ。これは任務だ」
　アレック艦長に命ぜられた。

　レイターは怪我一つせずに戻ってきた。
　だが、ベッドから起き上がることができなかった。　　　　（12）へ続く

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