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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(12)

一人だけ帰還したレイターは身体を起こすことができなかった。
銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11

 自室の二段ベッドの下の段、私のベッドでレイターはただ横たわっていた。

 生命維持に必要な水分と栄養を点滴で摂らせる。
 ヘルスモニターをチェックする。ほとんど眠っていない。睡眠障害を起こしているな。

「睡眠薬いるか?」
「いらねぇ」
「眠れないんじゃないのか?」
「寝たくねぇんだ。『赤い夢』が出てくる」

12正面赤い夢

 レイターは怯えていた。血で溺れ死ぬと言う悪夢か。
 久しく見ていなかったのに、精神的なダメージがレイターの許容量を超えてしまったのだろう。
 夢を見ないほど深く眠らせるため、きつい薬を処方する。
 
 レイターは起きている時は、寝転がったまま宙を見て、時折、涙を流していた。
「俺のせいでハミルトンは死んだ」

 私はベッドで横になっているレイターに聞いてみた。
「お前、ハゲタカ大尉と戦った時のことを話せるか?」

一に訓練のアーサー上着前目やや口

「記憶がごちゃごちゃしてる」
「ごちゃごちゃとは?」

 苦しそうにあいつは口にした。

「…ハミルトンが、俺をかばって撃墜されたことを思い出した」
「そうだ」

「じゃあ、ハゲタカ大尉を撃ち落としたのは、誰なんだよ?」
「お前、わからないのか?」
 自分が撃墜した、という記憶がないようだ。

「わかんねぇよ。航行ログだって、ハミルトンが撃ち落したことになってるじゃねぇか」
「あれは私が書き換えた」
「え?」
 レイターが驚いた顔をして、私を見た。

15紅白戦柄シャツ泣いた後驚き口傾き

「もう少し思い出せるか?」
 レイターは目を閉じた。記憶を手繰り寄せようとする。

「ハミルトンが撃たれた。ハゲタカを殺らなきゃ殺られると思った。その後はあやふやだ。誰かがハゲタカを撃ち落とすところを、俺は横から見ていた。ハミルトンじゃねぇなら、あの凄腕は一体誰なんだ?」
「お前は、横から見ていたのか?」
「ああ」

 レイターはよく嘘をつく。
 だが、この件で嘘をついているようには見えない。混乱している。

 私はレイターに伝えた。
「ハゲタカ大尉が撃ち落された時の映像は残っている」
「何だって!」
 レイターが飛び起きた。

 データ破損により存在しないことにしたワートランド海戦の映像。コンドル軍団との対戦動画は私のデータベースに保存してあった。
「の、残っていたのか?」
 動画を流すとレイターはモニターの前で固まった。

 レーダが使えない磁場宙域ワートランド。基本的に民間機が飛ぶことはない。
 訓練隊チーフのハミルトン少尉は模擬弾ではなく実弾の試し撃ちを指示した。

 たまたまその先にコンドル軍団が待機していた。目的は不明だが、おそらく我々と同じように訓練で訪れたのだろう。
 レーダーの効かない中、突然、連邦軍から実弾攻撃を受けたコンドル軍団は、パニックになりながら応戦してきた。
 さすがはハゲタカ大尉だ。すぐに態勢を立て直し、状況を見極める。
 無管轄宙域の戦闘は政治問題になりにくい。連邦軍機の数は少ない。勝機と踏んだのだろう。戦闘へ突入した。

 目視による戦い。

 ハゲタカ大尉の飛ばしはハヤブサの狩りのようだ。猛スピードで近づき獲物である連邦軍の機体を引き裂く。
 すかさず、ハミルトン少尉が間に入って防御する。ハゲタカと共に攻めてくる敵機を鮮やかに撃ち落とす。

ハゲタカと蝶

 レイターもコンドル軍団を次々と撃墜していた。
 だが、多勢に無勢、六対一だ。味方の船がやられていく。

 連邦側はレイターとハミルトンの二機だけになった。

 ハミルトンは多数の敵機に取り囲まれていた。
 そして、ハゲタカ大尉はレイターを狙い、急接近してきた。

 レイターがつぶやいた。
「ハミルトンは言ったんだ、お前じゃ無理だ、って。でも、この状態じゃ逃げられもしねぇ」

 死肉をも食らいつくすハゲタカが、レイターの機体に襲い掛かる。
 レイターはよく凌いでいた。

 だが、ハゲタカ大尉の爪がレイターを切り裂こうとした。
 必中のミサイルが餌食となったレイターに向けて放たれた。
 もう逃げられない。

 そこへ敵機をすべて振り切ったハミルトン少尉が突っ込んできた。超高速の舞。ミサイルに激突する。

ハミルトン横顔一文字下向き

 ハミルトン機が爆発した。

 そこでレイターは、いったん映像を止めた。
「すまねぇ」
 と息を長く吐いた。     最終回へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」