見出し画像

銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(2)

レイターは”逃げのハミルトン”を捕まえることができなかった。
銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1

 ある日、レイターがチラリと私の顔を見ながら寄ってきた。あの顔は何か頼み事をする気だな。
「アーサー、お願いがあるんだ」

正面柄シャツにやり

 やっぱりだ。

「ノア海戦とハロタ決戦の映像データと、航行ログが見てぇんだけど」
 ノア海戦はハミルトン少尉が大活躍してエースパイロットとして表彰された五年前の戦いで、一方のハロタ決戦は少尉に敵前逃亡の疑惑がかかった三年前の戦いだ。

 対戦航行ログは機密だ。
 士官である少尉の私には閲覧の権限があるがレイターにはない。
 ただ、ハミルトン少尉の操縦には私も興味があった。
「私が見るということで申請するか」

横顔2真面目

「お願いします」
 礼儀正しくレイターは頭を下げた。

 データを落とすとあいつは、私の端末モニターを食い入るようにして見始めた。

 対戦映像と一機ずつの航行ログを照らし合わせ、一コマ一コマ動かしている。随分と根気のいる作業だ。
 私は、そこまで時間をかけて付き合う気はない。後でまとめて映像を見ればいい。

「す、凄え」
 レイターが感嘆の声を上げていた。
「何が凄いんだ?」
 私は気になって聞いた。

「これ、見てみろ」
 レイターが指差すスロー映像に、ハミルトン少尉の機体があった。

「カーペンターが戦闘機に乗ってるみたいだ」
カーペンターとハミルトン

 レイターが師匠と仰ぐ、元S1レーサーの『超速』カーペンター。
 銀河最速の彼が戦闘機に乗っているみたいだ、とレイターが表現するハミルトン少尉の軌跡は理解不能だ。

 弾幕の中、蝶が舞う。

画像6

 軽々と敵機を撃ち落としていく。ハミルトン少尉はどうしてこんな風に飛べるのか。

「ハロタ決戦はもっと驚くぞ」
 レイターはそう言って、データをハロタ決戦に入れ替えた。

 その映像を見て私は驚き、レイターと目を合わせた。
「こ、これは」


 戦端が開かれた直後にハミルトン少尉の船は戦線を離脱した。”逃げのハミルトン”だ。
 だが、航行ログと弾道を照らし合わせてみると、実は超遠距離から通常レーザー弾を撃っていた。
 味方の船を援護している。

「これ、めちゃくちゃな精度だぞ」
 レイターに言われなくてもわかる。相手の軌跡を予測して撃っている。

 レーザー弾やミサイルが乱れ飛んでいて、超スロー再生でないと誰が撃ったものかよくわからない状況だ。
 ハミルトン少尉の撃った弾は恐らく流れ弾扱いにされている。

 よく見ると、味方がやられそうな時だけしか撃っていない。それ以外は敵機を狙っていない。
 見逃しているとも言える。

「お前、あの距離から撃てるか?」
 レイターに聞いた。
 レイターは答えなかった。

 しばらくしてから悔しそうにつぶやいた。
「ハミルトンなら十対一でも逃げ切るな」

 レイターはイヤフォンをつけて延々とノア海戦とハロタ決戦の映像を見ていた。
 動画の音声は聞こえないが、レイターのブツブツとつぶやく声が、うるさくて気になる。

ハイスクール3のレイター柄シャツイヤホン真面目

 どうやらハミルトン少尉のコクピットを頭の中で再現しているようだ。手と足、身体が映像に連動して動いている。
 操縦のイメージを、何度も何度も繰り返している。
 その根気というか執着心に恐れ入る。

 私のコンピューター端末の前を陣取られて困る。

 更に、レイターは他の対戦も見たいと言い出した。こいつのことだ、この後も際限なく要求してくるに違いない。

 私はアレック艦長に相談した。
「レイターに過去の対戦航行ログの閲覧を許可してよろしいでしょうか?」
「教育係のお前がいいと思うならいいぞ。将来の銀河一の操縦士にとっては泣いて喜ぶお宝じゃないのか」

10アレック前目にやり

 と言って笑った。

 艦長は本当にいい加減で適当だ。対戦航行ログは機密だ。モリノ副長だったら許可しなかっただろう。

 それがわかっていたから艦長に相談したのだが。     (3)へ続く

裏話や雑談を掲載した公式ツイッターはこちら

第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン


この記事が参加している募集

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」