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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(1)

14歳のレイターとアーサーが、戦艦アレクサンドリア号に乗っていた時の物語です
銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第四十話「さよならは別れの言葉」

 戦艦アレクサンドリア号、通称アレックのふね。銀河連邦軍のどの艦隊にも所属せず遊軍を務めるこのふねは要請があれば前線のどこへでも出かけていく。お呼びがかからない時にはゆるゆると領空内をパトロールしていた。


「くっそー」
 怒りながら同室のレイターが、部屋に入ってきた。

「また、逃げられたのか」

16少年正面@2

 今日は、戦闘機部隊の紅白戦があった。五機対五機に分かれて模擬弾で対戦したはずだ。
 私は別の仕事で見ていないが、レイターの怒っている様子を見れば逃げられたことはわかる。

「ハミルトンの奴インチキだ」
「お前のチームは勝ったのか?」
「当ったり前だ。”逃げのハミルトン”以外全機俺が撃ち落としてやったぜ」

15ハイスクール横顔不機嫌

 今、このアレックのふねでレイターに勝てる操縦士は、ほとんどいない。
 皇宮警備の選抜研修で、十四歳の最年少予備官になったレイターに仮免許が付与された。
 以来、とにかく操縦訓練に気合が入っている。

 悔しいことに先日私も、レイターの撃った模擬弾にやられた。
 よけたと思ったが、翼をかすめており被弾判定となった。

 今、レイターに撃ち落とされていないのは、エースパイロットのハミルトン少尉だけだ。

 ハミルトン少尉はかつて凄腕だったが、ここ数年の成績は振るわない。”逃げのハミルトン”と呼ばれている。
 とにかく戦闘の間、どこかに逃げていて、終わったころを見計らって帰ってくる。

 敵前逃亡すれすれだ。

「俺には子供がいるんだよ。死ぬ訳にいかないんだ」と、いつも言い訳をしているが、それで許されるものなのだろうか。

ハミルトンにやり

 戦闘機部隊を統括するモリノ副長は、そんなハミルトン少尉が気に入らない。
「あいつ、ノア海戦の頃はすごかったんだが、今はダメだ」といつも文句を言っている。

 それをアレック艦長は面白がっている。艦長はいつも適当だ。

 ただ、ハミルトン少尉の操縦が今も伊達ではないことは確かだ。
 レイターに聞いた。
「お前、ハミルトン少尉を追いかけたんじゃないのか?」
「ちっ、撒かれたんだよ。くそぉ、思い出しても腹が立つ」
 レイターを撒けるというのは、相当な腕がなければできない。

 大柄なハミルトン少尉。
 容貌とは裏腹に、卓越した技術で蝶が飛ぶように繊細に船を操る。

 レイターもそれがわかっている。
 だから「ハミルトンとタイマン張らせてくれ」とモリノ副長に何度も頼んでいる。
 だが当のハミルトン少尉がOKしない。
「何で俺の息子と同じ年のガキと対戦しなくちゃなんないんだ」と。

 ある日、モリノ副長がレイターに言った。
「お前が十機対一機で勝ったら、ハミルトンが一対一を受けてもいいって言っていたぞ」

モリノ前目一文字逆

 周りにいた戦闘機部隊のメンバーが興味を持って見た。
 普段の紅白戦の五機であれば、レイターは勝ち抜くだろう。だが、その倍の数は経験したことがない。

「よかったじゃん、レイター」
 と戦闘機部隊のコルバがうれしそうに声をかけた。

 ほかのメンバーもレイターが受けると思って見ていた。あれだけしつこく頼んでいたのだ。

 だが、レイターは口ごもった。

少年 コルバ

「じゅ、十対一かよ。七、いや八対一にならねぇか」
「聞いてみてやるよ」
 とモリノ副長が言ったが、案の定ハミルトン少尉はレイターとの対決を断った。

 モリノ副長が、こっそりと私に話した。
「八対一の条件を聞いてハミルトンが嬉しそうだった。レイターの奴、わかってるな、だとさ」
 十対一ではレイターの勝率はゼロだ。だが、八対一なら勝機が無くはない。

「ああ見えて、レイターは負ける喧嘩はしませんから」
「そうだな」     (2)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」