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銀河フェニックス物語<少年編> 自由自在に宙を飛ぶ(9)

会社を首になり、有罪判決が出たハミルトンの周りには誰もいなくなった。
銀河フェニックス物語 総目次
・【自由自在に宙を飛ぶ】(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8

 そんな俺のもとへ「ニュースを見た」と訪ねてきたのが、アレック・リーバだった。

 昔から、少し風変わりな奴だ。
 俺が航空大学、あいつが士官大学の学生だった時、操縦セミナーで一緒になった。
 船の操縦はそこそこだが、何より勘が鋭かった。

「お前には戦闘機乗りの才能がある」

若アレック軍服にやり逆

 とアレックは言った。

 俺は戦闘機に乗ったことはないが、とにかく働かなくては食っていけない。
 前科者の俺を簡単に雇ってくれるところはなかった。
 俺は連邦軍に入隊し、アレックが艦長になったばかりのアレクサンドリア号に乗船した。

 アレックの直感は当たった。俺には戦闘機乗りの才能があった。
 敵が来たら迷っている暇はない。撃つだけだ。身体は勝手に反応する。迷っていたら死ぬ。

 敵機を撃ち落とせば、同僚にも、軍にも認められる。
 命を懸けた戦いの中で、俺は次第に居場所を見つけていった。

 ノア海戦で、俺は戦闘機部隊で一番多くの敵機を撃ち落した。エースパイロットとして連邦軍から表彰された。

 表彰状を持って、久しぶりに家族に会いに行った。
 息子は九歳だった。
「お父さんは、連邦軍で一番だって表彰されたんだぞ」
 誇らしげに俺は言った。

ハミルトン横顔にやり

 執行猶予期間も終え、新たな人生を踏み出した。
 俺は、もう犯罪者じゃない。エースパイロットだ。

 やっと息子に父親らしい話をできる。
 船を飛ばす瞬間の、興奮と感動を分かち合いたい。
 そんな気持ちを込めて、戦闘機部隊の話をした。

 息子は黙って聞いていた。
 そして、一言だけ口にした。
「お父さんは人殺しなの? 人を殺すのがそんなに楽しいの?」

 冷たい声だった。その言葉は、俺の存在全てを否定した。

 俺は気がついた。
 俺は戦闘機を飛ばすのは好きだが、戦うのが好きな訳ではないことに。
 好きではないが得意なのだと。

 俺は、戦闘機に乗るのが嫌になった。

 そんな俺にアレックは言った。
「お前の仕事は、お前の息子を守っているんだぞ」
「頭ではわかるが、俺はもう嫌だ。敵だろうと人を殺したくない。除隊したい」

 お父さんは人殺し、という息子の言葉が繰り返し頭の中を駆け巡る。
 俺が敵を撃ち落せば撃ち落すほど、あいつは離れていく。

 アレックは俺の目を見つめて言った。
「ハミルトン、俺の仲間を守ってくれるだけでいい。戦闘機に乗ってくれ、俺の頼みだ」
 アレックには恩がある。

 俺は、”逃げのハミルトン”として生きることにした。

 将軍家の坊ちゃんとレイターが、俺の息子と同い年だと知った時は驚いた。

 初めて会った時、二人は十二歳だった。
 俺の息子より、坊ちゃんは大人びていて、レイターは幼かった。

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「ハミルトン、俺と勝負しろ」
 レイターはいつも俺に突っかかってきた。

 息子とレイターは似ても似つかない。
 息子は騒いだりしない。落ち着きのあるいい子だ。
 どちらかと言えば坊ちゃんに似ている。

 なのに時々、レイターが自分の息子のように愛おしくなる。

 あいつの飛ばしはまだ荒い。裏を返せば伸びしろがある。
 旋回の切れが良くなった。
 加速のタイミングが良くなった。

 レイターが成長するのを見るのが、楽しい。
 レイターに追いつかれそうになるのが、嬉しい。

 レイターは船を愛している。
 あいつの気持ちが、俺には手に取るようにわかる。

 息子と暮らした日々より、レイターと過ごしたこの二年の方が、長く濃密だ。

 俺は自分を戒めた。
 俺は、あいつを息子の代わりにしようとしている。

 それは、息子にもレイターにも失礼なことだ。

 だから俺は、できる限りレイターと距離を置くようにしてきた。     (10)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」