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大学受験会場での、二つの小さな思い出。

 もう随分昔の話だけど、高校3年生の時の大学受験は、受験料もかかるし、受かる気もしなかったので、公立1校だけを受験して、落ちた。

 1年間、予備校に通って、翌年は、私立4校公立1校を受けることにした。

 その冬は、私立の有名なK大学も受けた。

 自分の受験科目、英語、数学、国語で受けられる文系の学部は意外と少なかった。だから、それに慣れるためにも受けた。合格するには、自分の力では、とても難しいと思っていた。

 大きな教室で、長い机が並んでいる。それだけで大学という感じもする。受験だから、それぞれ距離をとって、受験番号が貼られている。

 自分の番号を探した。

 見当たらなかった。

 番号をよくたどると、最初は焦って気がつかなかったけれど、長い机が並んでいて、教室前方、教壇のそばに、高校までにおなじみの一人用の机とイスがあって、そこに自分の番号があった。

 たぶん、その独立した席は、もしかしたら、もう一つくらいあったのかもしれないけれど、自分には、その一つしか目に入らなかった。

 最初から隔離されているようで、受ける前から、はぶかれているような気がした。

 それが原因ではなく、単に学力不足だけど、その大学は落ちた。

欠席

 同じ冬、首都圏の別の私立大学。

 そこはいかにもキャンパスという感じがして、そこにいる人たちも華やかな感じがして、それだけで、ちょっとうれしくなっていた。

 受験会場には、大きめの教室に長い机が並んでいた。その左端に自分の番号があって、そこに座った。

 試験開始までもうすぐで、緊張はしていたけれど、あとは試験を受けるだけだった。

 前の方から試験官が歩いてくる。
 受験者の確認をしているようだ。

 時々、空席がある。すると、持っているカードを折るようにすると、持っている束からはみ出す。欠席の確認をしているみたいだった。

 だんだん近づいてくる。

 自分の前の席は空いていた。

 欠席なのかと思っていて、その番号を見たら、自分が今座っている席の番号と一緒だった。

 そんなことは普通はないから、自分が緊張しておかしくなっているのかと思って、また見たら、やっぱり同じ番号だった。

 試験官は歩いてきて、その空席まで来て、またカードを折るようにしていたので、声をかけた。

「すみません。その席の番号と、ここが同じなんですが」。

 試験官はこちらを向いた。ちょっと怪訝な表情。だけど、番号を見たら、微妙に顔がゆらいだように見えた。

「ほんとですね。欠席じゃなかったんですね。すみません」。

 それから短い時間、前の席の番号のところで、何か作業をして、そして、折っていたカードを元に戻した。

 黙っていても、試験官が、自分の番号を見たら気がついたとは思うのだけど、もしかしたら欠席扱いになっていた可能性もあったかもしれない。こんなことがあるんだと思った。

 その大学は、繰り上げか、補欠か、表現は忘れたのだけど、正規ではないけれど、合格するかもしれないという通知をもらい、その発表を見に行ったら、番号がなかった。

 やっぱり不合格だったんだ、と思った。

合格

 受験した私立4校のうち、1校に、補欠合格だった。だけど、初年度の学費の全額の一活払いが条件だった。もしも、そのあとの公立校に合格していたら、かなりの額が無駄になってしまう。

 もしも、もう一年、浪人しても、国公立に合格すれば、その頃は、学費が年間で10万円台と、かなり安かったので、その方が4年間、私立に行くより安く済む。

 だから、補欠合格のお金は支払わず、公立大学の合格発表を待った。

 幸いにも合格した。

 1年浪人したから完全ではないけれど、“私立に比べてお金がかからないから、国公立の大学に行ってもらえないだろうか”という親のリクエストには少し応えられたと思う。




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おちまこと
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