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読書感想 『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』 佐藤航陽 「革新的な変化への実感」
テレビを見ていると、そこに出演している人は、どの人もスムーズに話す。
特に経済、政治、社会、テクノロジー関連について詳しい人は、だいたい早口で、自信満々で、一見、反論の余地がない内容を話し続ける。その瞳には光があふれ、揺るぎがなさすぎて、そのうちに微妙な疑問も生じるが、ずっとテレビに出演しているような人は、その姿勢を崩さないように見える。
いわゆる「文化人枠」の人たちが、討論をするような番組があって、その中で、一人だけ、こうしたポジティブな空気とはちょっと違う人がいて、その人の話すことに、個人的には説得力を感じたが、他の出演者と違って、その人はテレビにほとんど出なくなった。
その後、起業している人らしいが、正確には、何をしているのかも分からなくなった。
本当は、知っている人は知っている存在でもあるのだから、知らない私が恥ずかしいだけなのかもしれないが、久しぶりにテレビで話す姿を見た。
『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』 佐藤航陽
「メタバース」という言葉は、本当にその単語だけを知っているくらいで、あとはテレビ画面で見たアバターを使ったゲームのような印象だけがあり、逆に、「メタバース」を話す人たちがポジティブすぎて警戒心だけが高まっていた。
だから、「メタバース」に関しては、「うまい話」に対して、気持ちが身構えるような感覚になっていた。そうした中で、この書籍の著者・佐藤航陽氏だけが、テレビ画面の中で久しぶりに見たのだけど、抑えた口調で話す姿が印象が強く、だから、書いた本も読みたくなった。
15歳以下の子どもがどんな遊び方をしているかによって、その後に社会でどんなテクノロジーが普及してくるかを高い確率で予測することができます。
現代の子どもたちの遊び方を観察した上で、自分の世代と違うところを探せばよいのです。
そこで使われている新しいテクノロジーこそが次の時代に普及するテクノロジーである可能性が高いのです。私が大学生のころはちょうどSNSが普及し始めるタイミングでしたが、自分の親の世代には「子どもたちがいじっているオモチャ」のように見られていて、親世代にはまさかそれが10年後に社会インフラになるとは想像もしていないようでした。
1986年生まれの著者が大学生の頃は、2000年半ばのはずで、その頃のインターネットは、確かに「大人たち」には、「まだ」とても軽く見られていたのを記憶している。
今の子どもが学校から帰ってきたら友達とやっている遊びは何でしょうか。
ほとんどの場合は『Fortnite』や『Apex Legends』に代表されるオープンワールド型のオンライン戦闘ゲームだと思います。みんな帰ってきたらログインしてゲームの中でチャットしたり、「ながら通話」をしたりしています。(中略)今は常にオンライン上で誰かと交流しながらゲームをするのが当たり前で、ゲームとコミュニケーションが完全に一体化しています。
私がメタバースに大きな可能性を感じている理由も「子どもはすでに当たり前にやっていて、大人はピンと来ない」という特徴があるためです。かつてのSNSやYouTubeも全く同じでした。
この20年の歴史を参照しながらの話の進め方には説得力があったし、「メタバース」への見方も、単純かもしれないけれど、これだけで少し変わったし、気持ちの距離も確実に近づいた。
テクノロジーの法則
これからとても多くの人が語りそうな「メタバースの今後」については、こうした表現をしている。
メタバースの今後を占うためにも抑えておきたいテクノロジーの法則があります。
それは、新しいテクノロジーは「過剰な期待」と「過剰な幻滅」に交互にさらされながら普及していく、というサイクルです。
ここから半年から1年ぐらい経つころに、メタバースに取り組んでいる上場企業の決算などが公表され、利益が出ないことに投資家がいらだち、メディアには「メタバースは儲からない」「メタバースは死んだ」という論調の記事が増えてくると思います。
そこから3〜5年経ってコツコツと投資を続けた企業がビジネスとして大きな成果を残し、現在のスマホやAIのように地位を確立していくと思います。
テクノロジーの普及とは、150キロの猛スピードで曲がりくねった道をドライブするような行為で、カーブでは常に揺さぶりがあり、その度に多くの人が脱落していき、最後までふるい落とされずに残っていられる人は少数です。
この書籍は2022年3月に出版されているから、来年以降、そのような動きが本格化するのかもしれない。
2022年現在だとメタバース=NFTのような印象の記事や言説も多いですが、これは誤りです。
個人的な予想としては『Decentraland』や『The Sandbox』などの既存プラットフォーム上で簡単な3Dモデルを配置してそれらをNFTとして販売して儲けようとする「お手軽メタバース」プロジェクトはこれからも雨後のタケノコのように世界中で生まれ続けるでしょうが、独立したエンタメとしても成立するようなプロジェクトがNFTと融合して数億人単位のユーザーを獲得して世界的に普及するには、あと数年を要すると見ています。
まず、「メタバース」は、一つだけではなく、これから膨大に誕生しそうであることも、この書籍で初めて知り、だから、この何年かで考えなくてはいけないのは、その「メタバース」が価値があるかどうかを判断することなのだと分かった気になり、この「雨後のタケノコ」状態になりそうな気配が、これまでの「メタバース」をめぐる言説に対する警戒心の原因の一つなのかもしれないとも思った。
日本の「地の利」
インターネットの世界で、たとえば「GAFA」といわれる企業に、これだけ圧倒的な差をつけられてしまったら、次に「メタバース」という新しい変化があったとしても、日本の企業が、とても敵わないのは目に見えているのではないか、というイメージがあった。
ただ、著者によると、意外なことに、逆の見方ができるらしい。
今回はメタバースは日本に圧倒的な「地の利」があります。
それは日本が漫画・アニメ・ゲームなどの「コンテンツ大国」であるという利点です。
ここまで日常的に漫画を読み、アニメに触れて、ゲームに課金するという国は世界的に見ても非常に珍しいです。
「コンテンツ大国」という強みを生かせる唯一に近い新産業分野がメタバースです。
そんなことは全く思ってもいなかったのだけど、問題は、私のような力のない個人ではなく、社会に影響がある人間が、このことが事実であれば、いち早く理解し、その上で、このことを活かすべきではないか、という気持ちになるが、「クールジャパン」が決してうまくいかなった経緯を考えても不吉な予感は大きい。
ここまで有利な状態にありながらかつてのインターネットと同じように他国に産業を丸ごと明け渡すことになれば本当に絶望的なことです。価値のあるものが目の前にあっても、その価値に気づけなれば宝の持ち腐れになります。
「世界」の創造
私のようなそれほど情報を知らない人間にとっては、「メタバース」は、ゲームのイメージしかなかったが、本当に質の違う変化ではないかと感じたのは、この書籍で「世界の創造」という言葉だけではなく、「生態系」の概念が紹介された上で、それに対して、決して「分かりやすく」書かれていないからだった。
メタバースというのは、世界を創造することです。
世界とは、視認できるビジュアルとしての「視空間」と、社会的な機能と役割をもつ「生態系」が融合したものです。
この「生態系」に関しては、約60ページにわたって詳細に説明が続く。
自律的 有機的 分散的
実用的価値 感情的価値 社会的価値
価値の重ね合わせ
コミュニケーションの促進
ヒエラルキーの確立
自助努力を促す仕組み
これらの単語は、著者が「生態系構築」を述べていく中で使用している言葉や概念のごく一部で、改めていわれると、どれも重要であり、この構築方法は、「メタバース」だけではなく、実は、優れた「組織」を作るためにも応用できる考え方でもあるのは伝わってくる。
「マトリックス」
ただ、この「生態系」を「創造」していくのは、とても高度で困難なのも、同時に少しは理解できたようにも思うが、今後、さらにコンピュータの機能やテクノロジーの質が上がれば、こうした「世界」↓でさえ可能になるという。
もし街中に張り巡らされた監視カメラや、人々が手にもつスマホが写す膨大なデータをAIが学習できるようになれば、どうなるでしょう。ほぼリアルタイム、秒の差で現実世界をコピーして仮想空間を作れるようになります。
こうした時代になれば、あの映画「マトリックス」の世界のように、完璧な仮想空間である「メタバース」が、それも膨大に存在するようになるだろうから、今とは違う世界になっているのは確かだと思う。
メタバースによって3次元の仮想空間ができ上がれば、最終的に現実世界の価値は今の10分の1くらいに下がると私は見ています。
ただ、「マトリックス」では、「仮想世界」でさえ、人間が苦しむような社会になっているように描かれているから、不安はあるし、インターネットもほんの10数年前までは、もっと「夢」のあるテクノロジーだと思われていたから、悲観的になりそうだけど、それでも「メタバース」が決して無視できない「革命的な変化」である実感は、少し持てたようだった。
おすすめしたい人
「メタバース」に興味がある人。
未来に希望を持ちたい人。
未来に希望が見えない人。
さらには、もっと積極的に、「メタバース」に何かしらの投資をしたいと考えている人は、その投資をする前に、読んでもらった方がいいのかもと思います。
(こちら↑は、電子書籍版です)。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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