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『宗教右派とフェミニズム』 「〝支持政党なし52%〟のための大事な情報」
タイトルに「宗教右派」と「フェミニズム」が並んでいると、かなり特殊な話だと思ってしまうし、そしてどこかで構えるような気持ちにもなる。
ただ、「フェミニズム」が、「宗教右派」に、想像以上に攻撃を受け続けてきた歴史があったことを、この本を読んで改めて知った。
最近、「支持政党なし」が、久しぶりに50%を超えたという報道を知った。
自分もそうだけど、そういう人たちにこそ、この本を読んでもらいたいと思ったのは、政治に関して考える時の大事な情報だと感じたからだ。
だから、タイトルを見て、ちょっと気持ちがひいてしまう人ほど読んでほしい、と思った。それは、知らないでいること自体がリスクにつながると思えたからだ。
『宗教右派とフェミニズム』 山口智美 / 斉藤正美
2022年の安倍元首相の銃撃事件以降、急に再注目されるようになったのが、旧統一教会だった。
報道では、旧統一教会によって、家庭が破壊された、といった話は多く出ていた。だから、怖い団体だというイメージがふくらみ、同時に、20世紀末にも注目されていて、それから、勝手に忘れていたのだけど、その後も活動が盛んだったことにも気がついた。
著者の山口智美氏と、斉藤正美氏は、研究者として、こうした問題にも取り組み続けてきた。その成果は、著書として形にもしているのに、そのこと自体にもあまり注目が集まってこなかった。私自身も恥ずかしながら知らないままだった。
2022年7月8日に発生した安倍晋三元首相の銃撃事件。
これを受けて企画・配信された『ポリタスTV』の「宗教右派と自民党の関係――ジェンダーと宗教」(前篇・後篇)は、5日間限定の無料公開で10万回以上再生され、大きな反響を巻き起こした。
この配信コンテンツをもとに、全編書き下ろしでジェンダーやセクシュアリティ、家族をめぐる政治、それと宗教右派との関わりをまとめるのが本書である。
このときの『ポリタスTV』を覚えている。それは、そこに出演した山口氏と斉藤氏が、その話す内容を聞けば、旧統一教会のことを語るには適切な人たちであるのが分かるのに、その二人の出演者が、自分たちにコメント依頼もほとんど来ていない、という語り方をしているのは意外だった。
それでも、その後、こうして書籍になることも含めて、おそらくはこの何十年かの「歴史」自体を検討し直す必要があることが、社会にも共有されてきたのだと思う。
ただ前を向いているだけでは、また同じような過ちを繰り返す可能性が高くなってしまうと考えられるからだ。
政策への「影響」の可能性
統一教会が二〇〇〇年代はじめに特に盛んになった、フェミニズムや男女共同参画への反動(バックラッシュ)の動きの中心的な団体だったことに触れるメディアはほぼ皆無だった。ジェンダーやセクシャリティ、家族をめぐる政治課題に熱心に取り組み、男女共同参画や性教育、LG BT Q +の権利などに反対し、政治へのはたらきかけをずっとおこなっていた団体であるという情報は欠落していた。
安倍元首相銃撃事件以来、旧統一教協会への報道は急速に増えたが、確かに当初、選挙協力だけではなく、「政治へのはたらきかけをずっとおこなっていた団体」という情報はほとんど見当たらなかった。
同時に、のちに政策への影響も語られるようになって、それがどれだけの程度なのかは、いまだにはっきりとは分からないものの、歴史をたどり直すと、政権与党・自由民主党の政策は、その旧統一教会のはたらきかけの影響も疑われるように思えた。と同時に、元からかなり、その方向性が一致しているのかもしれないとも思わせる。
一九七九年六月、大平正芳内閣は自民党内に特別委員会を設置し、「家庭基盤の充実に関する対策要綱」を発表した。「日本型福祉社会の創造」を掲げ、「責任と負担・自助・相互扶助」を強調し、福祉の担い手を国家よりも個人や家庭、地域などに想定するものだった。重点政策として、家庭教育の強化、「家庭の日」の設置などが挙げられていた。
こうした動きに対して反対運動が起こり、「家庭の日」の設置は見送られた、という記録も挙げられているが、その後もその「目標」のようなものを諦めたわけではないようだ。そのことを示すような「政策」の歴史が続いているのは明らかに感じる。
八五年には男女雇用機会均等法とともに、不安定な雇用を増やす労働者派遣法が制定された。当初は職種が限定されていたが、その後拡大していった。女性の正規雇用は派遣労働に代替され、男性も含め非正規雇用が拡大することにつながった。
このような「政策」の流れを見ると、一方では「民主的」な政策を掲げ、その一方で、のちに「新資本主義」と言われる過酷な労働にもつながる「立法」がされているのが改めて分かるのだけど、その当時は「男女雇用機会均等法」のほうに気をとられて、派遣法の怖さに気がついていなかった。
日本会議は「夫婦別姓に反対する運動」を」主な「国民運動」の一つとして位置づけ、選択的夫婦別姓制度の導入に反対する運動に取り組んだ。
1990年代後半から、こうした運動が継続され、日本会議のメンバーでもある自民党議員が話題になったのは、さらに年月が経ってからのことになるが、政権与党でもある自民党が一貫して選択的夫婦別姓制度に反対し続けているのは、2020年代になっても変わらないのは誰もが知ることになった。
国際勝共連合は、「文化共産主義」という用語を使った批判をよくするが、夫婦別姓についても別姓派が「妻や子供は夫に支配されている」「妻とか母とかいう言葉で犠牲を強いられている」などと「支配」の問題のように考えるのは「文化共産主義」に染まっていて「家族を敵と考え」「家族を壊そうとしている」ことを問題と捉えている。そして最初は夫婦別姓かもしれないが、戸籍制度を廃止したりと日本の婚姻・家族制度を根本的に破壊しようとするものだと警戒している。
国際勝共連合の母体は、旧統一教会であるが、選択的夫婦別姓制度が、別姓も同姓も選択できるにも関わらず、自民党がどうしてあれだけ反対しているのかが不思議だったのだけど、もし、こうした「文化共産主義」といったことを本気で信じている国際勝共連合に影響を受けているのであれば、納得はできないが、理解はできる。
ただ、この書籍で、旧統一教会の主張と、自民党の政策を比較してみると、やはり影響はあったのではないか、という疑念が改めて浮かぶ。
どれだけ時間が経ったとしても、歴史への反省があって守られるべき「政教分離」という原則の点からも、旧統一教会が、政策へどれだけ影響を及ぼしているのか、の検討は続けるべきだと思う。
安倍政権
この書籍の中では、長期に渡った安倍政権について、再検討がされている。
第二次安倍政権以降は、アベノミクスの経済政策として安倍は「女性活躍」を推進したが、あくまでも経済政策であり、性差別撤廃や女性の人権とは無関係だった。さらに安倍は少子化対策として、雇用・労働環境の改善や子育て家庭への経済的支援ではなく、「官製婚活」や、早く結婚して子どもを産ませようという「ライフプラン教育」などの政策を推進した。安倍政権が長期にわたるなかで、ジェンダーやセクシャリティをめぐる政策は停滞し、非正規雇用や貧困問題が深刻化し、格差も増大した。バックラッシュの影響は続き、性教育は後退し、歴史修正主義も蔓延。さらには日本維新の会や参政党などの新たな右派政党も勢いを増すという状況である。
それでも安倍元首相が亡くなった後、安倍政権時には、女性活躍推進法が成立もしたし、そのために恩恵のあった女性も存在するので、女性のことを考えた印象も残っているし、そのように語る人たちは、今も少なくないかもしれない。
だが、この書籍では、こうした指摘がされている。
結局、安倍の「女性活躍」は少子・高齢化や移民政策の問題によって働き手が不足するなか、潜在的な労働力を駆り出すための施策だった。女性や高齢者などを労働力として使いながら、女性に出産も仕事もあらゆることをさせようとしているという魂胆が透けて見えるものだった。
第二次安倍政権以降の少子化対策を検討する審議会には「経済政策」という側面が強く、婚活支援サービス業界の利害関係者や企業のコンサルタントなどが有識者として多く選任されている。
そう言われてみれば、この書籍で指摘されている通り、「少子化対策」として、それ以前は、子育てのしやすさ、に焦点が当てられていたが、安倍政権では、未婚化や晩婚化にあると考え、官製婚活などに力が入れられていたという。
その一つが、有識者の経営コンサルタントが提案した「企業子宝率」だろう。ただ、この言葉を、自分が企業に勤めていないせいもあり、知らなかった。
「企業子宝率」とは、企業の従業員一人(男女問わず)が、その企業に在職している間に何人の子宝に恵まれるかを推計する指標で、正式には「企業の合計特殊子宝率」と呼ばれます。一人の女性が生涯に産む子どもの数を調べる「合計特殊出生率」を参考にした計算方法で算出しますが、合計特殊出生率の調査対象が15~49歳の女性であるのに対し、企業子宝率は男性を含めた15~59歳の従業員を対象とします。
人の生活に関して、こうした踏み込み方をしていたかと思うと、ちょっと怖くもなる。
この「企業子宝率」は、個人のプライバシーに立ち入った調査であり、企業で働く独身者やLGPT Q +などの性的少数者や、子どもをもたない、もちたくない人はプレッシャーを感じざるをえず、議会などで批判が出て、二〇二〇年度を最後に使用する自治体がなくなった。
ただ、「企業子宝率」だけではなく、他にもさまざまな「恋愛支援」や、内閣府「壁ドン」研究会など、いろいろな「官製婚活」策がとられているが、今考えても、実効性が薄いようにも感じる。ただ、こうしたことには、税金が投入されているはずだから、再検討してもいいのだとも思える。
運動の継続と、対応
フェミニズムや男女共同参画に対してのバックラッシュ(反動)は、単純に考えても、20年以上、続けられていることになる。そして、その運動に連携しているとも思えるような政権与党の動きも、継続しているように見える。
学校現場に浸透する旧統一教会の禁欲教育
自民党改憲案
杉田水脈の「生産性」「男女平等妄想」「保育所コミンテルン」発言
LGBT理解増進法案をめぐる顛末
右派団体による北米や国連を舞台とした「歴史戦」活動
バックラッシュ時代のデマや妄言が再び活用されている
この書籍の見出しを並べただけでも、こうした運動がさまざまな場面で、本当に粘り強く行われているのがわかる。
その対応について、著者は、このように指摘している。
「あの時フェミニズムはバックラッシュ対応に失敗したし、今もできていない」。
バックラッシュを進めてきた右派はさまざまに連携をとっているのに、フェミニズム運動の多くはそれぞれシングルイシューで戦っていると言う問題もある。日本軍「慰安婦」問題や在日コリアン差別、LGPT Q +への差別などに十分に向き合ってこなかったマジョリティのフェミニズムの問題が、インターセクショナリティ(交差性)の軽視や否定として表れている。さまざまな課題が山積みの現在、日本のフェミニズムは自らが抱えている状態にさえ向き合うことができず、危機的な状態にあるのではないか。
こうしたことを知ると、社会が変わっていくのは不可能ではないだろうか、という気持ちになるのだけど、その一方で変わろうとした時期があったことさえ、恥ずかしながら知らなった。
二〇〇九年に民主政権が誕生し、法務大臣に千葉景子、少子化担当大臣に福島瑞穂と選択的夫婦別姓を推進してきた議員が就いた。法務省が民法改正案の概要を提示し、一〇年三月に閣議決定されかねないという状況になった。このことに危機感をもった日本会議が中心になり、国会議員らへのロビイング、五百万署名運動、地方議会での反対決議など総力を結集してそれを阻止した。
この時代と比べて、2020年の現在は、少なくとも「選択的夫婦別姓」を容認する意見は多数派になったとも考えられるので、もし、今後、政権で同様な状況になったとすれば、少なくとも「選択的夫婦別姓」は実現する可能性がある。
そうであれば、この書籍のタイトルが「偏っている」と思う人であっても、現在「支持政党なし」であれば、なおさら、知っておくべき情報が詰まっていると思う。
私自身も、「支持政党はなし」であり、特定の思想を信じてもいないし、何かの政治的な団体に属していないし、「選択的夫婦別姓制度」を切望しているわけでもないので、それほど積極的に語る資格もないとは思う。
でも、この「選択的夫婦別姓制度」に反対しているのは、自分ではない他の誰かの選択にまで過剰に口を出すことを正当化しているように思えるので、その発想自体を容認していては、どんどん生きづらくなっていきそうなので、まずは「選択的夫婦別姓制度」は成立してほしい。
そのためにも、選挙は大事だと改めて思った。
私と同様に、それほど政治に関心もなく、「支持政党もない」過半数の方には、少なくとも読んでいただきたいと思いました。どのように判断するかまで、もちろん強制はできませんが、ここに書いてあることを知らないまま、投票にいくのは、適切な選択を誤る可能性が高いような気がします。
(こちら↓は、電子書籍版です)。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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