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10年前のあの日-東日本大震災の記憶-

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#毎日note

10年前のあの日の記憶13

10年前のあの日の記憶13

震災発生から5日目。

相変わらず朝日と共に起き、夕暮れと共に布団に入る生活を続けていた。

午前中の明るいうちに掃除や水汲み、買い出しを行い、午後はぬるま湯で交互に身体を洗い、夕飯を作る。

合間に新聞やラジオから情報を得るようにしていた。電気は少しずつ復旧しているようだった。

前日くらいから、自宅のまわりの住宅地でもちらほらと電気がつき始めた。

そして遂にこの日の夕方、雪がちらつく中で電力

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10年前のあの日の記憶12

10年前のあの日の記憶12

金曜日に起こった地震の後、ただひたすら生活を整えようと走り回って週末を終えた。

まだライフラインは一つも復旧しないままだった。

地震による道路への被害や原発の問題などが相次ぎ、物流がストップ。

発生直後より店先に並ぶ物資が極端に減った。

公共交通機関も復旧しておらず、薄明るくなってきた時間から起き出してぼろぼろの自転車で会社へ向かった。

まだ就業開始には時間があったが、オフィスには何名か

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10年前のあの日の記憶11

ストーブでコトコトと温め直したカレーと、炊きたてのあたたかいご飯をラップを敷いたお皿に盛り付けた。

コップは紙コップを使い、水を飲む。

そんなキャンプみたいな食事が驚くほどに美味しく感じた。

先の見えない生活に、みんな困惑と疲労が出てきた頃だった。

それでも家族が揃ってあたたかい食事を食べられる、それだけで笑顔になれた。

食べながら、

『○○のガソリンスタンドが開店したみたい』『△△の

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10年前のあの日の記憶10

10年前のあの日の記憶10

我が家はマンションで、直接繋がる変圧器が壊れた為、しばらく電気が使えなかった。

さらに水を汲み上げるのにも電気が必要だった為、自宅の水道から水が流れるようになったのもかなり先だった。

ただ、マンションの敷地内にある水道からは水がでるようになり、近所の公園まで行かなくても水汲みが出来るようになったことは有り難かった。

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地震発生3日目。

窓から差

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10年前のあの日の記憶9

10年前のあの日の記憶9

太陽は真上に登り、春を感じさせるあたたかな日差しが差し込む。

掃除や家具の移動などの力仕事をしていると汗ばむほどのあたたかさだった。

午後は『非常用の水源』と指定されていた近所の公園へ行き、水を汲んだ。

自宅に水汲み用のポリタンクなどは無く、家にあったペットボトルをかき集めてリュックに背負う。

お風呂に残り湯があった為、トイレを流すことは出来たが、料理に使う水は非常用のものがほんの少しあっ

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10年前のあの日の記憶8

地震発生当日から一夜明けて、父は職場へ向かい、私は母と姉と共に自宅へ向かう。

玄関には傘と靴が散乱し、普段使わないからと上の棚に片付けていたものもドカドカと落ちてきていた。

昨日中へ入った母から破片が多いと聞き、靴は履いたままで家の中へ入る。

母は綺麗好きで毎日掃除をしてくれていた。

そんな家の中が廃墟のごとく荒れていて、ぬかるんだ泥で汚れたブーツで入ることへ、複雑な気持ちを抱いた。

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10年前のあの日の記憶7

この時、自宅に戻るまでにどんな会話をしたのか、どんな風に帰ったかの記憶が全く残っていない。

きっと家族に会えて安心し、気が抜けていたのだと思う。

記憶にあるのは自宅の玄関前で、中の様子を覗きながら、中に入った母を待っているところだ。

出てきた母は、淡々と

「窓ガラスは割れてないけど、食器の破片だらけだし、家具も倒れていて、寝られる状況じゃないね。

明日掃除するとして、今日は車で寝るしかな

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10年前のあの日の記憶6

10年前のあの日の記憶6

自宅で家族を待たずに避難所へ行くことにしたのは、当時家族間で『なにか災害があって離れ離れだったらそこへ集合しよう』と話していたからだった。

そこへ向かう道は思いの外沢山の人が歩いていた。

道の端に寄り、家族へ向けてメールを打った。

『自宅へ帰ったけれど、危険そうなので避難所へ行く』

そんな内容だったように思う。

一息ついて歩き出そうとしたところで、ふと視線を感じて振り返る。

ベビーカー

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10年前のあの日の記憶5

10年前のあの日の記憶5

自宅まで、残り20分ほどのところまで来た時、少し膝をさすりながら歩く男性と並んだ。

顔色があまり良くない。

何か声を掛けたほうが良いだろうか…

そう思いながら言葉を探している最中、男性の方から声を掛けてくれた。

「…このあたりにお住まいですか?」

男性は話すことで冷静になりたい、というような雰囲気だった。

「もう少し先のエリアです。勤め先からやっとここまで戻ってきたところで…」

そう

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