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『ようこそ、写真の聖地へ』 ~前編~

若い頃に、ウィリアム・エグルストンの写真集を見つけたことで、私は写真の魅力を知りました。 その時、あまりに衝撃的すぎて、目の前にした写真集に呆然となったのを覚えています。

それから、写真が好きになり、いつの間にか、カメラを買い、写真集を買い漁ったり。

そんな写真に魅了された自分が働いている職場の近くにプロの写真家に愛される老舗現像所である ”写真弘社”があります。 国立の美術展はもちろん、多くの写真展のプリントを手掛ける ”プロラボ” として知られている現像所。

私たちのメディア ”24M” では、写真、カメラの関係者から絶大な支持を受ける ”写真弘社” を特集記事として定期的に取材することを決定しました。

今回は、”写真弘社” の代表を務める柳澤さんにお話を伺いました。

”写真弘社” から広がる写真の世界を是非お楽しみください。

”写真弘社” 代表 柳澤さん

/ 写真の町として /


ー今回、柳澤さんにお会いできて本当に嬉しい限りです。 早速ですが、まず、”写真弘社” を作られた経緯について教えていただけますか?ー

柳澤さん 「先代で私の父である柳澤正により1950年に設立しました。 先代は、富士フィルムの今でいう宣伝部にいまして。 そこから独立しまして、はじめは卸屋さんに付随するようなかたちで写真現像の仕事をしていました。」

ーなるほど、そのような経緯で始まったわけなんですね。 なぜ、この場所で開業されたのですか?ー

柳澤さん 「まあ、昔でいう神田区あたりは、写真の町みたいな感じだったんですよ。 それで、神田周辺には、写真家が集まってました。 写真家の秋山庄太郎さんもスタジオを持っていたり、カメラ屋さん、写真関連の材料屋さん、写真協会もありましたね。」

ーそうだったのですね。 全く知らなかったです。ー

柳澤さん 「それというのも出版社が多かったので、自然に写真関連の方々が集まる傾向にあったのだと思います。 出版社があるので、印刷所も近くにありましたし。 だから、写真家は神田あたりで飲むことが多かったですよね。 メディアがあったのが大きかったと思いますね。」

/ 写真家に愛される"プロラボ" /


ー あの、写真弘社さんから ”プロラボ” という存在を知りました。 そもそもプロラボとは、どういうものなのでしょうか?ー

柳澤さん 「プロラボは、写真弘社から生まれた言葉で、当時のお客さんが写真家、フィルムの会社、出版社、新聞社などの方々だったこともありましてね。 お客さんからプロを相手にしているから ”プロラボ” とした方がいいじゃないかと言われ、お客さんに名付けられた感じでしたね。」

ープロの方々が必然的に集まる場所なので ”プロラボ” が生まれたのですね。ー

柳澤さん 「当時、先代は、プロの方々と交流がありまして。 写真家の秋山庄太郎さん、林忠彦さん、植田正治さんと一緒に旅行に行って、撮影会などをよくやっていたんですよね。」

ーそれは、すごいことです!!  写真界の巨匠の方々と親交があったのですね。 さすが、”写真弘社”さんです。ー

柳澤さん 「先代は、写真家の先生方と親交がったあったこともそうですが、非常に技術者を育てるのが上手かった人で。 育てた技術者の中には、写真家から圧倒的に高い支持を受ける者も輩出しました。 なかでも、技術者の柳澤 慶治が作ったプリントは、”Kプリント”と言われ、著名な写真家の方々が柳澤慶治にプリントを依頼してました。」

ー 個人的に”Kプリント”を見てみたかったです。 かなり気になります。ー

柳澤さん 「”Kプリント”は、ナチュラルで非常に綺麗なものでした。 現在は、最後の弟子である住田という者がいて、”Kプリント”を受け継ぎながらも彼独自のものを制作しています。」

ー”写真弘社”さんの技術は、受け継ぎながらも進化を遂げている。 本当に素晴らしいです。ー

柳澤さん 「写真家の方だけが、作品の制作者ではなく、技術者も作品の制作者だと思い、いつも、私たちは制作しています。 その結果なのか、国立の美術館の展示など多くを手がけるようになりました。 少し前になりますが、イギリスの国立の美術館である”テートモダン” で開催された森山大道さんの展示作品も制作に携わりましたね。」

/ 写真文化を継承する /


ー海外でも”写真弘社”さんが制作したものが、展示されているのを伺うと、日本人として、非常に嬉しく感じます。ー

柳澤さん  「本当にありがたいです。 ただ、これも仕事を続けて行った結果なんですよね。 正直、商売をやめようと思ったこともありましたし、随分と周りでやめたところも多かった。 でも、プロの写真家たちからは、『お前の所がやめたら困るんだよな』と話をされて。 やっぱり、写真文化を継承する気持ちを持って、やっていこうと考え直したこともありました。」

ー写真家の方々と柳澤さんの思いが重なって、そして、生まれた結果だったんですね。ー

柳澤さん「やっぱり、結局、儲かるか儲からないかではなく、この仕事をプライドを持って残していくいうこと。 そう考えています。 それをうちの社員に話したら、本人たちもこの仕事をやっていきたいと言ってくれて。 だから、今も続けています。 休みもないし、大変な仕事なんですけどね。(笑)」


次回のインタビューに続く。

24Mでは、”写真弘社”さんの記事を定期的に掲載いたします。 ぜひ楽しみにしていてください。

文 : 荒岡 敬

写真 : 小林 浩平


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