薄荷水

電子書籍「ゆうがたのくに」の編集アルバイト兼ライターです。

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最近の記事

鬼堕とし(「ゆうがたのくに」24号掲載)

私は鬼です。 人そのものを食らうことはありませんでしたが、それとなく精気を抜き取るのを得意としましたので、余計なゴミも出さず、人間界におりましても怪しまれることなどはありませんでした。 ときおり鬼子母神などに赴いてはみましたものの、私の霊は浄化されることもなく、「他の子供は食ろうても我が子は可愛いのですね」と、私を生まれながらの鬼にした自身の鬼の父や母のことがふっとよぎるのでした。 母は代々の鬼でした。一度は家系に嫌気をさし、人間界に逃亡を図ったこともあるようでしたが、

    • アガらないときにキメるジャンクフード

      「栄養的に非常に偏っている、あるいは心身にとって悪いものが含まれているため、健康に問題を起こしやすい加工食品のこと。「がらくた食品」の意味。一般に、菓子類・インスタント食品・糖分の多い清涼飲料水・ファストフードなどがジャンクフードといわれる。炭水化物を主とし油・塩・砂糖などを大量に使い、依存性があり習慣的に食べ過ぎてしまう傾向が高い。健康被害としては、まず肥満及び関連疾患(特に糖尿病や高血圧症、高脂血症)が挙げられ、トランス脂肪酸による動脈硬化、微量栄養素の不足による種々の体

      • 東京サレンダー

        あまりに窮屈だったもので世を捨てることにしたんです。あたしはあたしの世界でひとりっきりで生きていくことにしたんです。もともと浮いたところはありましたし、あーなんかもういいや、って、辞めることは簡単でした。 あたしは浮いたところがあってかたいへんにモテました。自分ではそう思っていたのです。しかしこうして離れて見ると、浮いてるあたしを「かわいそう」と上から目線のクソダサいじめられっ子が「こいつならいける」と寄って来ているだけでした。 あたしは十九でアイドルになりました。自分が

        • ペンギンスキー場

          ノースポールの花もちらほらと咲くころ 灰色に覆われた空から 氷の妖精がやってきます 「そろそろ雪を降らせたいのだがよろしいかね」 ペンギンたちは厚着をして 「いいよ」「待ってました」「まだまだアイスが食べたかったのに」 「アイスが降ってくるんだよ」「スキーができるね」 と、雪が降ることを許可しました。 灰色に覆われた空はこくんと頷くと、ばらばらにちぎれて、 ちいさな雲になり、そこからさらにばらばらになり、ちいさなちいさな雲になり ぎゅうっとあっしゅくされてい

        鬼堕とし(「ゆうがたのくに」24号掲載)

          『漫画における初恋』

          「すてきな曲ね なんていうの」 「アナーキーインザUKっていうんだ」            (「Gratest Hits+3」収録) 子供の頃なんでか漫画を禁止されていた。 今思えばご親切なご両親(とくにお母さま)のご丁寧な嫌がらせだと分かるのだけど。 (頭のいい子に育てたかったら漫画も勉強も与えるでしょ  あたしには漫画も勉強も与えられなかったんだから  一体なにがしたいんだっつの) それでもあたしはすくすくと育ち、高校生になって まとまった額の入るアルバイトができるよ

          『漫画における初恋』

          精肉店

          父が卵を仕入れに行くというので着いていったことがある。そこの人が現場を見せてくれた。薄暗い狭い体育館のようなところ、あれは夜の七時頃だったか。おそらくひよこ電球とかそんな名称で売られているあの電球がぼんやりとした光を放っていて、何段もある狭い檻に詰められた鶏たちがギャアギャアと喚いていた。 「狂ってる」と思った。鶏がだ。よく見ると足場は斜めになっていて、生まれた卵が転がり、そのまま回収されるようになっている。 家にも鶏がいた。広く大きな鶏小屋。ときどき外に出して放牧も

          TOKYO RETROSPECTIVE

          現在地点。振り返ったとき向こうで手を振っているのが過去。 私が未来へ歩みを進めれば、過去の地点はだんだんぼやけて少しばかり都合のいいクラシックなカラーのフィルタをかけた様になる。 レトロというにはまだ少し歴史の浅い、やさしいノスタルジー。 時間の止まったような町を歩くのが好きだ。下町よりは、中央線沿い。西荻窪は坂道がきれいで、西日がよく映える。等間隔の電柱も素敵でとても画になる。 昔、ふとしたときに恋人が不思議な話をしてくれたことがある。 「僕はそのとき高校生でね、入院し

          TOKYO RETROSPECTIVE

          ねえパーティー抜け出さない?

          はあーん。やれやれ。 クソつまんないレセプションだかオープニングだかから抜け出て、アタシはお近くのセブンイレブンで一服。コンビニさんWi-Fi借りるわね。喫煙所も借りてんのに悪いわね。 「酔っ払いばっかでやってらんねーーーーなんか頭いたーーーーーーーーーーーーーい」 普通の会社勤めの人がそうするように、アタシはツイッターを開いて「クソクソクソクソ」って打ち込む。はー。ツイッターはいい、言いっぱなしに出来て、合わない人は外れていってくれる。アタシはみんなの愚痴とかキチゲ解放と

          ねえパーティー抜け出さない?

          苔むす

          歳を取るとどうにも、体だけでなく心まで石のように固くなりがちじゃ。恋、というのは心にも体にも良いらしいが、そんなのは婆さんで充分じゃ。なあ。婆さん。 本当はな、婆さん、なんて思っておらんのだよ。君はずっと「○○さん」だった。家族が増え、立場上、そういう....部長や課長みたいな役職の呼び方をしてしまっていた。すまなかった。 わしが....いや、僕が、そちらへ行ったら、また二人で、そうですね、三浦半島なんてどうですか。君は横須賀に行ってみたいと言っていたじゃないですか。もう

          ナイフ

          夜に河川敷を自転車で海のほうへ向かうことがある。海まで行くことはあまりないのだけど。心がどうにもならなくなったとき、真っ黒な大きな川と、僅かな外灯で、僕は自転車と共に暗闇に溶けて自分を解放する。 そして美しい景色に出会う。静かで、月もない夜。冷たい風が頬を切り、ひどく澄んだ世界へ僕を連れていく。 ああなんて美しいんだろう! 美しいものは僕の肺の濁った空気を抜き、新鮮で冷たい空気を入れてくれる。感情は洗われ、調理場の換気扇についた油のような汚れは剥がれ落ち、目から涙が零れる

          夏のパイロット2.5

          ゆうがたのくに11号収録 ゆうがたのくに 第十一号: 不安、逃避、死、楽園 https://www.amazon.co.jp/dp/B087JSGF26/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_I3TOEbDBZWNXV @amazonJPから

          夏のパイロット2.5

          夏のパイロット2

          僕は宇宙船の中でピザを食べていた。お行儀悪く手も口元もベタベタにして。安い市販の冷蔵ピザにシメジをひとパックほど乗せて焼いたもの。作り方からして雑で、滅茶苦茶で、たのしい。 ねえ僕らに必要なのはこういうことなんじゃないのかなあ。手や口元を汚して、くだらない、ちょっとお行儀のわるいことでベタベタになるような。なるべく安い既製品のピザに、ああそうだ、買い物を一緒にするんだ。好きなトッピングの材料をバスケットに放り込んで、それから飲み物も買って。どう考えてもピザには向いてないトッ

          夏のパイロット2

          夏のパイロット

          まだ成層圏にも差し掛からない頃、パイロットは忘れ物をしてきたことに気づいた。厳密には「気づいた」のではなく、「忘れ物をしてきたような気持ちになった」。そもそも僕はパイロットではなく、地上でそこらへんを歩いている。 ただもうなんか、終わりなんじゃないかって気分で。 そしたらあの子の夢を見るようになってしまった。去年の夏につまんないケンカにも満たない、なんかそんな仲違いをしてそのままの。 僕は地球にやり残してきたことがある。 さてどうしよう。僕は勇敢なパイロットだからまずメ

          夏のパイロット

          「第二の疫病」

          あるとき、地球上で十歳くらいになる病気が蔓延した。とくに害はなかった。脳や考えは大人のままで、こころについた汚れだけが年相応にまで落ちて消えていた。季節も初夏のころで止まり、永遠の夏休みのようだった。 真夏みたいに影が濃い日の午後、日用品や食料をお買いものをして帰ってくるとポストに封筒が入っていた。 「ねえ政府からマスクが届いてたよ」 「見せて」 「はい、ひとつの住所に二つだって、いっこずつね」 「......ぼくら見放されちゃったのかなあ」 「布ってウイルス通し

          「第二の疫病」

          【下書き保存】表現力がどうしてだいじなのか

          そんなのプロポーズするとき困るからに決まってんだろ 気持ちを残したり伝えたりすることをそういうイベントで一概に「落書き」と言ってしまうのはよくないと思う。あれは「傷つける行為」だから多くの人が躊躇って当然なのに頭おかしいんじゃねえか。入れ墨いれるようなもんだよ。だから君らは出来なくて専門の僕に頼んだんじゃないの? 何より落書きがよくないのは表現力というか気持ちを伝える術は美術云々とは別次元でたいせつなことなのに、勢いだけで踏み切ってたいせつにしないで済ませてしまうこと。

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          【下書き保存】表現力がどうしてだいじなのか

          サブカルチャー大百科、または「少女が夢から醒めるとき」

          「あたしなんでサブカル雑誌なんか読んでたんだろう?」こんにちはー!ハツカネズミのハツカちゃんでーす!!!みんな元気~??!!??あっそう!!!よかったわね!!!! ところでみんな(きみ?あなた?君にしよっか) ところで君さあ、サブカル本とか読んでた?若いころ。いま若い君は今どうしてる?タコシェ派?新宿のなんだっけ...ああそう模索舎とか行く?でもこれはTOKYOに限ったハナシで、ハツカなんか田舎のサブカル少女だしね。ガロった風景の中で育っては来たものの、なんていうの?こう

          サブカルチャー大百科、または「少女が夢から醒めるとき」