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鬼堕とし(「ゆうがたのくに」24号掲載)

私は鬼です。

人そのものを食らうことはありませんでしたが、それとなく精気を抜き取るのを得意としましたので、余計なゴミも出さず、人間界におりましても怪しまれることなどはありませんでした。

ときおり鬼子母神などに赴いてはみましたものの、私の霊は浄化されることもなく、「他の子供は食ろうても我が子は可愛いのですね」と、私を生まれながらの鬼にした自身の鬼の父や母のことがふっとよぎるのでした。

母は代々の鬼でした。一度は家系に嫌気をさし、人間界に逃亡を図ったこともあるようでしたが、絶対的な鬼による恐怖の鎖は断ち切ることが出来ず、また鬼の村へと戻ってしまいました。

父の家系は鬼ではありませんでした。言ってしまえば真逆の性質を持つ家でありました。人間界ではだいぶ処遇の良い家です。しかし光が強すぎたのか父には翳りと少しばかり心に渦があり、その渦は人の気を欲していましたので、母の天性の鬼としての撒き餌、やさしさ、慈愛に見える恐ろしいもの、などを必死に欲しておりました。

その結果この二人は結婚の儀を執り行い、数年後、私が生まれました。世の中のことを知らぬ半人前の鬼は、人の子とちっとも変わらず、たくさんの、主に戦争から帰還した者の懺悔を受け入れる光でありました。

しかし或るとき、母は他の人間がいないとき、鬼に戻りました。第一子である私を食い殺そうとしてきたのです。しかしそんなことをしては折角手に入れた人間界ではだいぶ上等な屋敷や、山や、田畑を手放すことになってしまいます。鬼としての性分が堪えられなくなると「あなたも鬼の子なのだから分かるでしょう」とでも言わんばかりに私を嬲りました。そしてそれはのちにほんとうに、母の妹から言われたのです。

「あなたも鬼の子なのだから、かわいそうな鬼のことを我慢してあげてほしい」と。

しかし母は私の「鬼の子」としての特性を封印するように仕向け、人間に化けるように育てておりました。私は鬼らしく察しが良く、きっと鬼たちに不都合であろう「鬼の部分」を大事に育てることにしました。

母の姉妹の鬼たちは、皆一様に人間になりたがっておりました。その足搔きこそが鬼らしい。ああ、見苦しい。ああ、醜い。人間になれば里で住むところも、食べ物で困ることもない。鬼は力によってのみ統制され、他の部分はずいぶんとおざなりでありました。

私は母である鬼の制御のきかない暴力に耐える日々が続きました。やはり鬼は鬼なのですね、私は母の手により幼くして破瓜を経験し、その未発達でやわらかな部分に熱湯をかけられ、年頃になれば突然背後から髪をざっくりと裁ち鋏で切られました。そのときに私の鬼としての目が開き、鬼が何であるか見えるようになったのですから、母の鬼としての教育に感謝しないといけませんね。

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ゆうがたのくに

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