『漫画における初恋』


「すてきな曲ね なんていうの」
「アナーキーインザUKっていうんだ」
           (「Gratest Hits+3」収録)


子供の頃なんでか漫画を禁止されていた。
今思えばご親切なご両親(とくにお母さま)のご丁寧な嫌がらせだと分かるのだけど。
(頭のいい子に育てたかったら漫画も勉強も与えるでしょ
 あたしには漫画も勉強も与えられなかったんだから
 一体なにがしたいんだっつの)

それでもあたしはすくすくと育ち、高校生になって
まとまった額の入るアルバイトができるようになった。
それまで?新聞配達よ。うちはクソ田舎だったから
一軒一軒の間が1キロ2キロ離れてるなんてザラのとこよ。
そんで一日三十軒配達して月一万いかないくらい。
中学生が許可されてるアルバイトはリンゴ園の収穫手伝いと新聞配達だけだったのよ!それでもお小遣い制度のなかった私にはありがたかったわけよ!

そのアルバイト先のコンビニエンスストアには
なぜかガロが入荷されていた。毎月二冊。なんでよ。
一冊私が購入していたので入荷が切れることはなかった。

田舎のサブカル少女の出来上がりである。
東京!アンダーグラウンド!自分の世界や考えを許される世界!
筋肉少女帯!ばちかぶり!有頂天!ナゴムレコード!ライブハウス!


なお東京に来てWUUUNのサトウヒトナリ氏にアンダーグラウンドシーンについて聞いたところ
「東京ローカルなだけ」と言われてしまい、憧れが現実になってしまった。
これがバブル崩壊か。

田舎はヤンキーとパンクスが多い。パンクスと言っても聞き専だけど。
人よりやり場のない男の子は楽器を買う。バンドを組む。
そうでなきゃデコチャリでも作る。だいたい二分化。
でもさあヒトナリさん(名指し)、田舎ってライブするとこもないのよ。
それこそオーケンの「新興宗教オモイデ教」の中にあるみたいに
その・・・信仰対象が主催したイベントとか・・・ あれ誰か来たみたい
あとは学園祭?でやってもいいとこ・・・もそんなにないんじゃないかな・・・

あたしは他の学校のともだちのバンドT描いたり(直描き)して
若者のどうにもならないエネルギーをアレしておりました。


そんな自分の粗暴なエネルギーに身を焦がしながら
ガロを買ったりしてたわけですが、あるとき書店でCOMIC CUEというのを
見つけます。はてこれはなんだろう。とくべつに面白い漫画が詰まってそうな感じがする。
なんか四角いし表紙硬いし月刊誌でめずらしいな。

そしてもうその瞬間のことは光に飛ばされたみたいになってよく覚えていないんだけど
たぶん最初に触れたのが、よしもとよしとも「4分33秒」だったと思う。
もしかしたらその前に別の読み切り?で読んでいたかもしれないけど
(「抜き足ー」とかイニⅮのコラとかで作ってあるやつ、ちょっとエロいのもあった)
それはまあ置いといて

その、なんだ、構成の、あれだ
とにかくなんだかとくに見開きのページ、おそらく中央線から見える景色だと思うんだけど、ただそのいっぱいに飛び込んでくるページと、その絵につけられている独白のような台詞が、焼き付いて離れない。

電車から見える景色だろうか。レコード店の帰りかな。
本人(キャラクター)は一切書かれていないので見ることはできないのだけど、なんか、なんか。
電車のドアのとこに立って窓から外を眺めているか、真昼間に人の少ない中央線の座席の真ん中から窓の外の景色が入ってくるような。(ここは東京来てから電車乗ってみての補正ね)


姿も見えないその人を 好きになってしまったようだった。


そこからはもー隙あらば単行本集めーの、というか新宿から線路沿い歩いてたら古書店があって、もう手に入らないであろう「珠玉短編集」売ってたりしてやったぜラッキー。
それもなんか晴れてて、影の短い時間で、夏で世界は白くて。
そんなことも重なってか、その「いないはずの人」もう一体なんだかわからないそれは、相変わらずわたしの心に焼き付いたままなのだ。


↑以上初恋篇終わり
↓ここから漫画の話

いちばん好きなのは「グレイテストヒッツ+3」に収録の「jr.」、人というか、常識に埋もれそうなときにブチ破る勇気…違うな…気概?を浴びることができる。ありがてえ。っていうかそもそも常識って多数決じゃない?
常識は合理性や正義(のようなもの)や善悪を基準にするべきだと思うんだけど。
とにかく「jr.」はセックス&バイオレンスで良いです。実際は全然そんな話じゃありません。それどころじゃありません。

それから「アヒルの子のブルース」。これもやっぱり半分くらい夢の中というか現実とそうでない部分の組み合わさった漫画で、かなしいしつらい。
浮遊し続けるかつての本体君がかわいい。

中期、なのかな、初期とは絵や作風に変化があるので、中期以降とします。
線が細くスタイリッシュになってからの作品は、現実を基準のステージとしながら少し違う世界のものが入ってくる構造になっているみたいです。

それと、「青い車」。映画化もされてます。映画もよかったです。なんだあの空気感は。
よしもとよしともさんの漫画はエーテルのようなものが満ちてる感じがあってそれが胸を詰まらせるんだけど、えーと。
「青い車」は空気が擦り傷みたいに痛い。初めて万引きして、それを繰り返して、店を潰してしまったような。

リチオはとても悪い奴なのだろうと思う。全部を自分の懐の中に仕舞うことが出来る、懐の深い悪い奴。
でももういっぱいいっぱいなのかもしれない。私にはわからない。好きだから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?