「第二の疫病」
あるとき、地球上で十歳くらいになる病気が蔓延した。とくに害はなかった。脳や考えは大人のままで、こころについた汚れだけが年相応にまで落ちて消えていた。季節も初夏のころで止まり、永遠の夏休みのようだった。
真夏みたいに影が濃い日の午後、日用品や食料をお買いものをして帰ってくるとポストに封筒が入っていた。
「ねえ政府からマスクが届いてたよ」
「見せて」
「はい、ひとつの住所に二つだって、いっこずつね」
「......ぼくら見放されちゃったのかなあ」
「布ってウイルス通しちゃうんでしょ」
「うん」
「防ぎようのない死をただ待つみたいな気持ち」
「人もすっかり見かけなくなったね」
「昔さ」
「うん?」
「風が吹くときっておはなしがあったでしょう」
「あったね、映画で見た」
「無知でおろかだと思う?」
「うーん、思わないかなあ」
「ガラスを白く塗りましょう、ってアナウンスがある」
「うん」
「なんかそういうことを思い出すんだ、このマスク」
「あたしたち死ぬかな」
「どうだろうね」
この部屋からは灯台が見える。
海はなくて静かな町が広がっている。
遠い昔は海も近くまであったらしい。そのことを記録として残しておくための灯台なんだそうだ。
(文/薄荷水)
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