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ペンギンスキー場


ノースポールの花もちらほらと咲くころ

灰色に覆われた空から 氷の妖精がやってきます

「そろそろ雪を降らせたいのだがよろしいかね」

ペンギンたちは厚着をして

「いいよ」「待ってました」「まだまだアイスが食べたかったのに」

「アイスが降ってくるんだよ」「スキーができるね」

と、雪が降ることを許可しました。

灰色に覆われた空はこくんと頷くと、ばらばらにちぎれて、

ちいさな雲になり、そこからさらにばらばらになり、ちいさなちいさな雲になり

ぎゅうっとあっしゅくされていた灰色のセーターがほどけるように

しろいふわふわになって、ちらちらと降りてきました。

「やあ」「やあ」「こんにちは!」「ひさしぶり」「ああ、ぼくは前にもここにいたよ」「ここでノースポールとお話をしてたのさ」「ただいま」「はじめまして」

わあわあと雪がやってきます。

ペンギンたちはそのようすを、ケーキ灯台のある丘から眺めていました。

「ふむふむ、ケーキ灯台もこれでまっしろになり、ケーキらしくなるというものだね」

ペンギンは蝶ネクタイを結びながらそう言いました。

「お出かけ用のハットさん、出ておいで」

・・・・・・・・・・

さっきまでわさわとしていた家の中はし・・・んと静まり、ハットさんはどこかへ隠れてしまったようです。ハットさんがないとかっこうがつかないので、ペンギンは困ってしまいました。

仕方なく困ったかおのハンチング帽をかぶり、外へ出ると、一面の菜の花が笑っていました。うふふふ、うふふふふ、うふふふふふ

「とてもすてきな陽気だ」

ペンギンは蝶ネクタイをなびかせて、その先にモンシロチョウをとまらせると、ポケットからソフトキャンディーを出して、菜の花たちに渡して歩きました。

「おーーーい、ペンギンくん、なにをしているんだい。そろそろ雪まつりがはじまるよ」

誰かの大きな声で、菜の花たちはうふふと笑うのをやめ、ペンギンがあたりを見回すと、色のない、灰色の雲に覆われた世界になってしまいました。

「あーあ」

「そんな顔するない、さあ、そろそろ雲がほどけて雪になって降りてくるよ!はやくはやく!」

ペンギンがペンギンを呼んで、ペンギンとペンギンはふたりで大きな野原のほうへ駆け出しました。この、おおきな野原が、雪によってゲレンデになるのです。

『ペンギンスキー場はじまるよ』

大きな垂れ幕がかざってあります。雪たちはうふふ、うふふ、と次から次へふわふわと降りてきています。

「すごいねえ」「すてきだねえ」

五人のペンギンは、雪を両手で捕まえて、瓶に入れています。

「ふふ、もう逃がさないぞ」

「あーれー、うふふ」

「あっ」

瓶に閉じ込められた雪は、うふふ、と笑うと、しぼんで、水滴になりました。

ペンギンは悲しくなってなみだをこぼしました。

「ごめんね、ごめんね、そんなつもりじゃなかったんだ」

ペンギンのなみだが瓶に入ると、パキ.... という音がして、なんだろうって見てみると、そこには雪の結晶がありました。

「ウフフ」

集まったペンギンたちは、思い思いのスキー場をこしらえます。

「ぼくは、からあげ屋さんをやるぞ」

「わたしは、ハンバーグ屋さん」

「こんぺいとう屋さん」

あっというまに7つのお店ができました。ピンクのペンギンがやってきて電気のスイッチを入れると、『ペンギンのりんごあめ』という電飾がきらきらと光りました。

そうこうしているあいだにおきゃくさんがスキー板や、そり遊びに使うちくわを持って、たくさんやってきました。

ちくわそりはにんきのあるスポーツです。ペンギンスキー場は国際大会の会場にも指定されています。でも今年はらいおん大会の会場になってしまいました。

※らいおん大会とは?

さくらが散るときにあみやざるなどを使って、たくさん花びらをあつめた人が優勝する大会です。優勝賞品はたいやきです。

「ふんふん、ペンギンスキー場といえば、カレーとおうどんがおいしいと聞きますな」

「はい、どちらになさいますか」

「おにぎりとメロンパンをください」

「しょうしょうお待ちください」

「どうぞ!!!」

お皿の上には大きなひまわりが乗っています。スプーンで割ると、さくっという音がして、中からとろとろのおもちが出てきました。

「うん、やっぱりすばらしい」

ペンギンは満足そうにむしゃむしゃと食べたのです。

明るくてたのしいペンギンスキー場にも夜がおとずれます。

「こんばんは」

「こんばんは!!!」

夜は暖炉のそばでうとうととしています。

「これじゃあちっとも夜にならないね」

「うーん、まあ、ナイター営業出来るくらいには夜だよ」

外を見ると、電気の灯りがこうこうとスキー場を照らし、まるでほんとうのスキー場のようでした。スキーヤーもしゅいしゅいと滑っています。

「すてきだねえ」

「ぼくらも滑ろうか」

15匹のペンギンはマフラーを巻いて、毛糸のおぼうしをかぶり、ちぐはぐないろの手袋をつけて、スキーを履かずにストックだけ持って雪の坂をのぼりはじめました。そして頂上につくとストックをもみの木の下にわかるようにさして、「いくぞおーーー」と叫んでから、おなかですべるのです。

すごいスピードです!F1みたいな音がペンギンスキー場に響きます。

きゅおおおん、きゅうううん、どーん

何匹も何匹も、続けてふもとへ滑ってゆきます。

さいごの535匹めが滑ろうというとき、もみの木は言いました。

「ここにストックがたくさんあるんじゃが、これで山小屋を作ってもいいだろうか」

さいごのペンギンは両手をあげて「いいよー!」と言うと、そのままうしろに倒れて背中でふもとまで滑っていきました。


『おみやげキャンディーショップ』

ペンギンスキー場のおみやげといえばキャンディーなのです。

そのほとんどがうさぎのかたちをしていて、たまーにイルカが混ざっていて、それは当たりでもハズレでもないのです。

ペンギンたちはキャンディーがお買い上げされると「おおあたりー」とごうせいにガランガランシャンシャンと鐘を鳴らしますが、誰も「おおあたり」がなんのことか知らないのです。

こうして、ペンギンスキー場は春を迎えます。

雪たちは溶けて水になり、しばしのお別れです。

「はあ、たのしかった日々よ!」「また会おう」「うう、うう」

ペンギンたちもざんねんそうです。

向こうの、ケーキ灯台のある岬には、雪をのけて菜の花が顔を出しています。

「うふふ、うふふ」

ペンギンたちは風がやわらかくなっていることに気づきます。春がやってくるのです。



【追記】6名のアーティストを迎え、絵本として電子書籍化しました。

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https://www.amazon.co.jp/dp/B093Y94ZCL/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_GCJ0THJDSASV1YYHMXMY

◆ペンギンスキー場 at 蕨市立病院 (2021年3月12日~4月8日)

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