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アガらないときにキメるジャンクフード

「栄養的に非常に偏っている、あるいは心身にとって悪いものが含まれているため、健康に問題を起こしやすい加工食品のこと。「がらくた食品」の意味。一般に、菓子類・インスタント食品・糖分の多い清涼飲料水・ファストフードなどがジャンクフードといわれる。炭水化物を主とし油・塩・砂糖などを大量に使い、依存性があり習慣的に食べ過ぎてしまう傾向が高い。健康被害としては、まず肥満及び関連疾患(特に糖尿病や高血圧症、高脂血症)が挙げられ、トランス脂肪酸による動脈硬化、微量栄養素の不足による種々の体調不良などがある。2011年には、幼い頃からジャンクフードを食べているとIQが低下するという研究結果が出され、14年7月には、ジャンクフードを摂り続けると嗅覚が鈍ることがマウスの実験結果で判明するなど、新たな健康被害も明らかになってきている。国連のオリビエ・デシューター特別報告官は、14年5月19日、ジャンクフードはタバコよりも健康的にリスクが高いとして、課税や広告制限などの規制を急ぐべきだと提言した。」【(2014-8-11) 出典 朝日新聞出版】

活字は飲み物である。昔、GON!というジャンクな雑誌があった。定価は五百円ほど。文字は小さめでぎっしり。内容はB級どころじゃなく、本当にどうでもいい。表紙のインパクト。「宇宙人、飛び降り自殺!」「全員同じ顔そたヤンママ七人衆!」「人面ヘアヌード!!」「山梨に!妖怪あずき洗いを見た!」「精神不満足」「世界初公開!宇宙人の本番裏ビデオ流出!」「女子高生カツオブシ選手権」「アイドル生写真屋で衣笠が売られていた!」

このアオリに惹かれない子供などいるだろうか。お祭りの夜にしか食べられない、どこから来たのか分からない露店のおじさんたちが作るタコ焼きや大阪焼きのような魅力がそこにあった。子供が入れる唯一の夜の煌びやかな世界、お祭り。

精神年齢をもう少し上げよう。十七歳くらいに。アオリの文は炭酸の泡のように喉を刺激する。ゲームセンターで飲むチェリオやファンタのように、色のついた毒水は粘りのあるエネルギーに変換される。

僕らはそんなに健康でなければいけないだろうか?そんなふうに思うのは僕が健康そのものだからだ。毒水飲んでも屋台の素性の知れないタコ焼きをぱくついても美味しくて、元気に走り回っていられるからだ。

僕は今日はなんだかとても悲しい気分で、狭いモニターから見える世界を眺めていた。ツイッターはいつの間にか悪意が蔓延り、かつて便所の落書きと揶揄された2ちゃんねるをとうに越えているような気さえした。僕はインターネットにゴミ箱(壷)を設置したという点において2ちゃんねるの存在は良いものだったと思っている。SNSは苦手だ。毒そのものだ。煽動しやすいツールだと思っている。悪意や毒が大きなうねりを持ち、インターネット内で化け物になる。そしてそれがテレビという媒体を通して、一方的に世の中に拡散されてしまう。悪意という意思を持った毒。悪霊という概念はこういうとき便利だなと思う。

今日はデマを打ち消す記事を見た。だけど僕はそのデマを知らなかった。書店で本を見ていて「ツイッターで話題の!」と帯に書いてあったときのような、不鮮明なインターネット感。僕の世界は侵食されていない。

でも僕はかつて紙で毒を食べていたのだ。なんだかふしぎなものである。あんなにどうでもいい記事を喜んで流し込んでいたのに、目の前に山積みにされると全然食べたくないのだ。こっそり舐めた和尚さんの水飴の味を思い出してみる。

中学の頃、好きなものより流行りのものの話をするクラスメイトに悲しみを覚えた。ただ振り返ってみればまだ思春期で、これからたくさんの選択肢がある、その入り口のドアに過ぎなくてかわいいものだったと思う。大人になってもまだそれが必要な者がいる。そうなるとそれはもう手本だ。自分が「わからない」から「頼っている」ということを忘れて、「流行り」に興味を示さないものをあざ笑ってくる。「置いていかれたくない」そんな気持ちなんだろうけど。「流行り」から「好きなもの」に入るのは悪いことではない。僕はしばらく無視を続けていたが「これ知らないでしょ(笑)」というのに「自分の好きなもの」としての詳しさを話さなければいけなくなってしまった。結果、そのオバサンは黙った。もっと早くにこうしていれば、少女がそのままオバサン化することが防げたかもしれないのにと少し思った。

毒や悪意に染まるのはこういう人たちなのだろうと思う。僕らが摂取している荒みや、悲しみや、ひねくれた鬼畜系、そういったものを分解する酵素がない。「毒も喰らう 栄養も喰らう」なんてのは、誰にでも出来ることではない。

僕はたくさん悪いものを食べた。GON!、ガロ、完全自殺マニュアル、蛭子能収の漫画、村崎百郎、ゲームラボ、澁澤龍彦が携わった本、、、でも悪い子にはならなかった。僕が生きていくために必要な栄養だった。

ただもう僕はそんなものではいまいちアガらないんだ。インターネットに蔓延る悪意は喉を通らないんだ。苦くて、酸っぱくて、腐っているのかもしれない。体が受け付けない。ねえ、君の好きなものの話をしてくれないか。君がオタクなら早口でもいい。小鳥のさえずりや、気まぐれな猫のくれる好意ように、やさしい犬のように、僕が分からなくても君が好きだってものの話を。やかましいぐらいに。どうか。

(薄荷水)

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